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★新都社作品感想2018★
2017年10月29日「迷走アニ研部」

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2017年10月18日作品感想


「迷走アニ研部」http://kinkin13.html.xdomain.jp/meiani/index.html



 きんじ先生作品。
 やはり去年にも感想を書いた(http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=18928&story=46)のだが、またタグ付けて更新して頂いていたので感想を書きたいと思う。
 とはいえ、言いたいことは前回で大体言っていた。
 あれから話数もかなり進み、新たな発見もあったので追記していきたい。

 本作の登場人物の身内の毒率が酷い。
 主人公の津京は家が貧乏らしく、米を洗っている時に虫がわいていても気にしない昭和の田舎のような食生活をしている。守山ほど潔癖症ではない幼馴染の瀬田でも引いちゃうぐらいのレベルだ。
 瀬田は医者の家庭に生まれているが、姉は医学的な興味から妹の体を傷物にしてしまうし、両親はそんな姉の方ばかり贔屓し、更に食事抜きにしたり虐待レベルの扱いを受けている。
 守山はかなり裕福な家庭に育っているが、父親は妻公認で愛人を何人も囲っているような男だ。妻も裕福な生活ができれば別に夫が愛人を囲っていても構わないと言うスタンスなのかも。初期の守山が津京に金を握らせて八百長を承諾させようとしたのもそういう環境から来ているのかもしれない。
 永原はスイス人クォーターで、実の両親が離婚しており、父親に引き取られてその父親は再婚しているようだ。一方、自分たちを捨てた実の母親は、外国で金持ち外国人と再婚して雑草を食べたりするエキセントリックな価値観を持つようになっている。
 石山は母親がBL漫画家であり、自分も腐女子の血を受け継いでいる。まだ語られていないが身内の前生徒会長というのを酷く嫌っている。やはり何か問題を抱えいそうである。
 寺庄は祖父が範馬勇次郎的な格闘家で、ダイエットしたいだけで命がけだったようだ。
 貴生川は妹キチの兄に危険なほど溺愛されている。
 
 ……とまぁ、毒親だったり毒兄弟だったりと、ちょっと問題のある家庭環境であることが異様に多い。
 これらが物語に対し、程よい緊張感を与えてはいるのだが、あくまで本筋では語られてはおらず、登場人物たちの設定上の背景にとどまっている。実際、余りいらないのでは?と思えるような可哀想な設定だ。これがあるので、登場人物たちの明るい笑顔にどうしようもない闇を感じてしまう。
 だが表には滅多に出てこないので、今のところ本筋では和気あいあいとした話を気楽に読んでいられる。
 タイトル通り、登場人物たちは迷走しまくりのドタバタ騒ぎをしているが、暗い感じには一切ならない。重かったり暗かったりする人物背景についてはスルーされている。
 お節介な友情ごっこが発動して、「〇〇ちゃんの家庭環境を何とかしよう!」とかそういうお涙頂戴ストーリーにもならない。
 「わたしのせいじゃない」でピークを迎えたと思うが、きんじ先生の鬱々しい過去作のようになる気配は、三十話までいってないのだからもうないのだろう。
 よって、一応は、安心して読める。
 最初からそうだけど、あくまで本作は「ちくわのあな」の上位互換的な作品だ。
 きんじ先生の漫画を一切読んだことが無い読者には、代表作としておすすめしたい内容だと思う。
 鬱々しい内容だと一部の熱狂的な読者には刺さると思うが、本作はより一般層向けだと思うので。

 あとは…前回の感想でも書いたが、少なからず登場した男子生徒(和邇、播州、姫路)らのキャラ立ちも抜群に良い。姫路はちょっとやりすぎかなと思うが、女性読者からの受けは良い塩梅の男子キャラだと思う。
 男子生徒が増えたおかげで、女子高的な生理臭というか、男性読者のアウェー感はもうそんなに気にならなくなった。
 そう、やはり人物設定が異様に細かい。印象的だし、漫画っぽさはあるけど、生々しいというか、絵はデフォルメ調でも生きた人間のように感じられる。画面の向こう側に本当にもう一つの「アニ研部の世界」があるかのように。
 これだけてんこ盛りな設定を与えておいて、それぞれが程よく主張しながら味を調えていられるのが物凄いことだと思う。
 貴生川兄妹が津京と共に回転寿司に行く話があったが、そこで貴生川珠江がかき氷を買ってシロップ全種かけてまずい!となってしまうシーンがあった。例えるならば、珠江が言うように「何口か食べたら意外とクセになる」というか、味がけんかすることなく調和されて美味しい。
 登場人物同士の関係性を描くのが本当に好きなんだなぁと感じる。

 そういえば、作中でWEB漫画を描いている柘植は、失礼ながら何となく一番きんじ先生に近い登場人物ではないかと思ったのだが…。作中で柘植が描いている漫画が「狂人ばかり出てきて、絵は上手いが話がどうも」と言われているが、きんじ先生は「狂人ばかり出てきて、絵は上手く、話も面白い」ので、柘植より漫画が上手いのだろう。また、柘植は特定のジャンルしか描いていないようだ。
 そこで思ったのだが、きんじ先生はこれまで現代物の漫画ばかり描いておられるし、現代物のドラマを描くのが非常に洗練されてきて上手なのは十分に分かった。だから、もしその気があればだけど、試しにファンタジーも描いてみて欲しい。
 非常に細かく設定や世界観を作り上げるのが得意でいらっしゃるので、いっそゼロから世界観を構築するファンタジー世界を創造してもらいたいのだ。
 登場人物の関係性だけでなく、文化や価値観などまですべて創造しなければならないが、きっとやりがいがあると思う。
 きんじ先生のファンタジーがもし読めるのなら、私は是非読んでみたい。
 
 




以上です。

       

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