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★新都社作品感想2018★
2017年11月24日「刀遊記」

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2017年11月8日更新作品から



「刀遊記」http://touyuki.html.xdomain.jp/



 千夜(ちよ)先生作品。
 言わずと知れた少年VIPの看板漫画。新都社漫画全てを見渡しても特に面白い一作ではないかと思う。過激なエログロに頼らず、王道少年漫画で面白いというのも凄い。新都社ってアングラ感があって一般人に紹介しづらいところがある。だがそんな新都社にあって、本作は安心しておすすめできる内容だ。
 余談だが、感想を書くにあたって、どう書くか悩む時、新都社漫画を多数読んでいるうちの奥さんにも「これ読んでる?」と聞いて意見を求めることがある。本作を読んでいるかと尋ねてみたら「面白そうだけど長いから読んでなかった」と言われて、絶対面白いから読んでみ?と言ったら、「本当に面白すぎて止まらん・・・」とのこと。
 というわけで、長くても手を出してみる価値は絶対にある。私も今回、長期連載だが礼儀としてプロローグから読み返してみたのだが、やはり面白すぎて止まらない。いつもより時間をかけて丁寧に読み、二日がかりで全話読んだ。私はいつも仕事の片手間の暇つぶしに新都社作品を読んでいるのだが、仕事の方を忘れて熱中してしまうぐらい面白い。逆につまらない漫画か、面白くても読むのに疲れる漫画だったら何度も中断・休憩して気分転換しなくてはとても読み続けられない。面白い上に読みやすいということだ。

 一言で本作を言い表すなら、「新都社のワンピース」というのがしっくりくる。
 主人公が海賊と侍という違いはあるが、どちらも様々な歴史上の人物をモデルにしたキャラが多く、侍や海賊以外にもフランス騎士、中国拳法家、ガンマン、剣闘士、黒人奴隷、インディアンなどなど。世界中の独自の戦士による異種格闘技戦が見られる。侍と騎士、侍と中国憲法家のどっちが強いか?なんて、少年の心を持っているならワクワクする妄想だろう。ディスカバリーチャンネルでもやってるような題材だ。それを漫画の中とはいえやってのけ、見所のあるド派手なアクションで魅せてくれるのだからたまらない。
 バトル一辺倒でもなく、ギャグシーンも多彩だ。それも清十郎の何事に対しても緩いところとか、ビリーの包帯とかうんこの件とか、ジェシーの料理とかうさん臭いところとか、そのギャグセンスも秀逸だ。わざとらしくないというか、無理に作っている笑いではなく、これだけ大勢の登場人物がいながら、それぞれのキャラが抜群に立っているため自然に面白い。
 キャラ立ちといえば、清十郎が本当に好感度が高い主人公をしている。作中では中堅クラスの強さしかないのもいい。最近少しづつ成長して強くなってきているが、それもワクワクするし、めっちゃ応援したくなる。少年漫画のお手本のような主人公だ。
 ストーリー的には伏線の張り方が上手い。自分たちを正義と信じ切っている邪教集団との対決に収束していくが、物語初期にブラックコロシアムでバニヤンと戦っていた頃から出現し、清十郎の父の過去編を二回に渡って行い、いやがおうにも最終決戦へと盛り上げてくれた。
 余談だが、話の筋はセガサターン「天外魔境第四の黙示録」に近い。アメリカっぽい新大陸に出現した邪教集団と侍・インディアン・ガンマンらが協力して戦うという図式がそっくり。ロード時間が異様に長くて、今やったら確実に古臭く感じるだろうが、ストーリーは見所があるし、PSP版もあるらしいのでやってみるといいだろう。
 
 さて、うちの奥さんとか台詞を読まずに高速でスクロールして漫画のアクション部分を「すげぇ」と言いながら読んでいたのだが…。
 本当に読みやすい漫画だ。バトル描写は物凄い迫力だし、初期から凄かったけど最近益々磨きがかかっている。最終章でのケビンvs清十郎とヘラクレスvsバニヤンは本当に凄かった。特にヘラクレス戦は容赦なく人が死んでいった。ジェーンとかマカンダルとかこいつは死なないだろうと思っていたキャラでも実に容赦がない。このあたり、感情が欠落していてポッと出のキャラであるヘラクレスがやってのけるのが上手いと思った。読者的にはこれまで様々なドラマがあって感情移入していた分、ヘラクレスを倒そうと抗う人々を応援しつつ、作中の人々と同じく絶望を味わった。漫画で絶望を感じるなんてドラゴンボールのナッパ戦とか以来かもしれない。そのへん、過去編しか死人が出ない温さがあって、お涙頂戴展開ばかりで物語の進展が遅いワンピースに飽きてる者としては、小気味よく感じる。剣や銃で戦っていて死人が出ないはずがないものね。
 ワンピースといえば最近、ゴチャゴチャしすぎているともっぱら評判だが、初期はシンプルで見やすかった。その点、本作は初期ワンピースのような見やすさと、伏線の張り方、キャラ同士の因縁の付け方、ゴチャゴチャした状況を図解で整理してくれる親切さと。あらゆる点でワンピースの良いところどりをしているように思える。第四章から一つの舞台であちこちで複数のバトルが起きている感じがワンピースっぽいなと感じていたが、こちらの方が分かりやすい。累計何億と売れている商業漫画を引き合いに出して言ってしまうが、信じがたいごとにワンピースより刀遊記の方が上位互換で面白い。ワンパンマン並みにブレイクする日も近いのではないだろうか。

 最終章が随分長く続いている。
 アイアン・マウンテン号のところと、教団本部に殴り込みかけるところとで分けても良かったかもしれない。
 最新話でバニヤンが死んでいたが、バニヤンが死ぬことは何と第五十一話でカーテリーがタタンカに対して「バニヤンの側を離れないで」と心配そうに言っているあたりからして、既定路線だったのだろう。清十郎の死も予知されていたがそのあたりどうなってしまうのだろうか。最終章らしく、これまで張られてきた伏線をすべて回収しにきている。
 集められた達人五人、ケビン・ヘラクレス・ジェラール・師匠・中国拳法のじじいといるが、順当に実力が下の方から死んでいっているようだ。残る三人の達人のうち、次はジェラール戦ではないだろうか。色々と過小評価されてきたリシャールがどう頑張れるか見ものだ。クロノ戦も実に良かったし、フランス騎士勢の戦いは大好きである。
 クリント・イーストウッド師匠は味方だろうから中国拳法家のじじいとやりあい、清十郎は影郎と直接対決か。ジェシーやシャオロンがどう動くかが気になるところ。
 というわけで、最終章だけで全体の半分を越しそうだし、そろそろまた「よくわかる状況説明図解まとめ」が欲しいところだ。
 是非完結まで見届けたいし、完結したらまたプロローグから読み返したい。作画に大変な労力だけでなく熱量もかかっていると思われますが、ファンとして楽しみにしています。頑張ってください。






以上です。

       

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