Neetel Inside ニートノベル
表紙

生命力
蜘蛛

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 なりたい職業ランキングで殺し屋が一位を取る事は一生ないだろう。
 理由はどうあれ、人を殺したい人なんてそういない。
 更に代えのきく職業である。人殺しなんて今流行りのAIとかの方が、よっぽど向いている。
 それでも私はその仕事、殺し屋を生業にしている。理由は簡単、この仕事が好きで誇りを持っているからだ。
 単純に人の命を奪う事も好きだし、高い報酬をいただくのも好きだ。
 ただ一番好きなのは。
 命のやり取りという極限状態で依頼者やターゲットなどが見せる人間の本質。表も裏もない本当の姿。それに触れるのが何より好きだった。
 それと同じ位好きな事がもう一つある。

 私はビルの屋上に立ち、発展した街並みの夜景を眺める。
 良い夜景だ。一仕事終えた後、屋上に上り鼻歌を歌ってぼんやりと光の散らばる景色を眺める事が最高に好きなのだ。
 この街の滞在期間もだいぶ長くなってしまった。
 魅力ある、夜景が私の足を引き留めているのだろうか。

 どのみち、今回の仕事もあと少しで終わりだ。
 ビルの隙間を住処とする蜘蛛女として、恥の無い仕事をやり遂げようと改めて覚悟を決める。
 


 普通の人と出会いたい。そう考えるようになったのはいつからだっただろうか。
 大家、湖南、犬飼、胴田貫。
 大学に入学してから、俺の周りには曲者が揃っているじゃないか。
 別にそれが悪い事だとは思わないけれども、曲者だけでは身がもたない。やはり普通の人と出会いたい。
 だが類は友を呼ぶと言うから、そもそも俺はその類なのかもしれない。
 もしそうなら、普通の人と出会い、仲間になるのは絶望的じゃあないか。
 いや。以前の俺は。もっと普通の人に囲まれていた。なら、俺は何かのきっかけを境に普通の人間ではなくなったのではないだろうか。そう思えてくる。
 ではそのきっかけは何か。分からない。分からないのならそれは、俺が忘れている、入学当時の出来事なのではないだろうか。これまで大家を主にして何度となく仄めかされてきた、出来事なのではないだろうか。
 しかし。普通とは何なのだろうか。何を持って普通と言うのだろうか。
 一度考えを巡らし始めると、とことん広げてしまう。
 ランニングの最中はいつもこうだ。みんなそうではないのか?
 俺は夜のビル街を走っていた。
 ランニングは俺にとって一番の趣味で、月300kmランナーだ。要するにジョギングや公式レースなどを含み、必ず毎月300km以上走るのである。この間見たテレビでiPS細胞を発見した山中教授も月300kmを走るランナーである言っていた。あんな偉大な人物に親近感が湧いて、大層気分が良いものだ。
 このため、最近はますます気合が入っている。
 更にイヤホンでHOWEVERを聞いていると、夜空を見上げ、両腕を仰いでしまう。そう、TERUの真似をしたくてたまらなくなるのだ。
 そんなことをしていると、近くで誰かが呻くような声が聞こえた。気がした。
 辺りを見やるが、特に変わった様子はない。曲中にある何らかの音が、人の呻き声に錯覚したのだろう。安心して、俺は再び空を仰ぐ。その途端、俺は何かに衝突した。
 俺は大きく姿勢を崩し、視界が一気にぶれる。慌てて、標識の柱を掴み事なきを得た。
 一体何が起きた?俺はイヤホンを外し息を落ち着かせながら、衝突した場所を振り返る。
 そこには、一人の女性が横向きに倒れていた。
「イタタ」
 彼女は上体を起こし、腰を擦った。乱れた長い髪が目立つ。
「大丈夫ですか」俺は咄嗟に手を差し出す。
 それに応じて彼女も俺の手を握る。
 酷い目に合わせて申し訳ない、その気持ちは彼女と目が合った瞬間消し飛び俺の中にときめきが溢れ出した。


 
 俺は突如現れた少女を連れ丁度、近場だった湖南の部屋に押し入る。
 この部屋について解説しておくと、ここは湖南の祖父が所有するビルに隣接していて、以前は事務所の一室である。驚くことに、ビルを所有しているだけあり当の祖父は某総合企業の会長で、一族で会社を経営している。
 総合企業の名の通り業務の内容は幅広く。常に時代の流れを読み、現在は第4次産業まで手を伸ばすほどに流動的な経営をしている大企業だ。
 そんな御曹司の湖南と、同じ学び舎に通っている事は驚きである。とはいっても、彼女とは学部の偏差値がまるで違うので、比較にならないのだが。ついでにいうと、大家も俺と同じ大学である事にコンプレックスを抱えているような発言をしているが、彼の在籍する学科とも天地の差がある。
 少し話が逸れたが、その大層な出自を持つ湖南は今、大層怖い顔を俺に向けている。
「どこを怪我したっていうんだ?」湖南は不機嫌な様子を浮かべる。
「怪我をしたのは俺じゃないよ」
 湖南が俺を睨み付けて言うものだから、そう答えてしまう。
「こちらのお嬢さんですよ。ここの近くでランニングをしていた古畑君と衝突してしまいましてね。右の足首を軽く捻ったようですよ」嫌な気配でも感じたのか、狸こと、胴田貫が代わりに答える。
「そうか、そのお嬢さんがなんでここにいるのかな?」
「狸さんが言っただろ?近かったからさ」俺は正直に答える。
 ひどくバッシングを受けるだろうと覚悟していたが、湖南は眉間に寄せた皺を緩めて「そうか」といい、椅子に腰を下ろした。
 俺と狸はつい目を合わせる。
 拍子抜けだ。
「あの、何だか。お邪魔してしまって申し訳ありません。湖南さんと古畑さん。でしたよね?」
「ああ、そんな事無いですよ。ええと」
「中瀬です」
「中瀬さん。改めてすみませんでした。つい夢中でランニングしていて、前方不注意で」
「いや、本当に大丈夫ですから。気にしないでください。こんな治療もしてもらって」
「応急処置ですから、ぜひ病院でみてもらってください」狸が答える。
「ありがとうございます」
「しかし、街角で年頃の男女が身をぶつけ合うだなんて。運命的ですねえ」狸はしみじみ言う。
「なんてこというんだ」俺は思わず否定の声を挙げる。が、逆効果であることに気づき妙に恥ずかしい気分になる。ふと中瀬さんを見ると、俯いていて、俺と同じく恥ずかしがっているようにも見える。
「はっ」
 湖南の声が割って入る。
「聞くに堪えない。なんて刺激の足りない掛け合いだろうか!普通だ、普通。普通の会話だ」
「何だよ急に」
「普通者同士、気が合うみたいだな」
「ふつうものってなんだよ」
「普通は普通だと言っている。特に娘。ビルの隙間で何をしているのか知らないし、興味もないが、そんな事をしたところで、普通は普通だ」
「もはや何を言ってるのか分からないぞ」
 分からないが、あまり気分は良くないのだろう。しかし隙間とは、何だろうか。
 湖南に何が見えているのか。
「カカシも見惚れてるんじゃあない、助平め。そんなに隙間女の髪が綺麗かね」
「な、なんてことを言うんだ」
 お得意の透視能力で完全に見透かされている。分かりやすく動揺してしまう。
 しかし隙間女とは一体何なのか、あまりいい響きではない。
 なにか、おかしいですね。と狸さんが呟いた。一瞬その言葉の意味は分からなかったが。
「確かに、何で透視できているんだ?心拍数が上がっているのか」
「うるさいぞ。何様なんだ?カカシが汗臭いから息を止めているんだ。酸素欠乏症で心臓が暴れているんだよ」
「なんだよそれは、本当は違うんじゃないか?」
「それ以上言うな」湖南は例に無いほど声を荒げた。
 場が静まる。
 駄目ですよ。と狸さんが呟く。確かにデリカシーが足りない。
「すまなかった」
 俺が謝ると、ふんと鼻を鳴らし、「まあ。ゆっくりするがいい」と吐き捨てる。
「とにかく、年頃の女性を気安く連れ込むのは感心出来ないからな。ちゃんと送ってやるんだぞ」
 なんなんだ。情緒不安定すぎないか。
 しかし、言われてみれば湖南の言う通りで、状況がどうあれ初対面の異性を見知らぬ場所に連れ込むのは穏やかな事ではない。
 俺も中瀬さんも、少し日常離れした出来事に、冷静な判断をとれなくなっていたのかもしれない。
「すみませんでした」もう一度中瀬さんへ謝る。
「いえ」中瀬さんは控えめに返事をする。
「そうだ。犬飼もついでに見送りに行けばいいじゃないか。カカシの見張りだ」
 犬飼も居たのか。しかし、俺の見張りとは。
「やあ。なにやら不穏な空気だったんで潜んでいたんだが」
 奥の部屋の扉が開き、犬飼が姿を見せる。
「割と穏やかだったよ。というより、こっちに非があるから何も言えないね」
「古畑君も慣れたもんだね」そう言って犬飼は笑った。
「ああ。そうだ、こちらは犬飼だ」
 俺が中瀬さんに紹介すると、彼女は明らかに驚いた様子を見せる。
 一瞬、彼女の様子が理解できなかったが、犬飼が目隠しとして巻いている心眼鉢巻を見ての反応なのだと分かった。
「この目隠しは何というか、いろいろ事情があってさ」
 俺が気を遣っているのを察して、犬飼が俺の言葉を制する。
「僕は目が見えなくてさ、目隠しとしてこの鉢巻を巻いてるんだ」
「そうだったんですね。無礼な事を、すみません」
 彼女は心底申し訳なさそうな顔をする。
「いい子じゃないか」犬飼は俺に卑しい声で耳打ちする。
 みんな揃って、なんだというのか。



「夜遅くなってしまって申し訳ない。俺達のことが不安だったら、タクシー代払うけど」
「大丈夫ですよ」中瀬さんはぽつりと言う。
「古畑さんも、犬飼さんも良い人そうですし」
 あまり感情の籠ってない様子だったが、変に照れくさい。
「あはは。簡単に人を信用してはいけないよ。表があれば裏があるって言うだろう」
 何故、犬飼は不安にさせるようなことを言うのだろうか。
「それ分かります。私の場合は裏の方が大きいから」
「何ですかそれ」俺は訊ねる。
「人の表裏って、硬貨みたいに表裏一体じゃなくて。表と裏で距離があったり大きさが違ったりすることがあると思うんですよ。裏表のない人もいれば、良くも悪くも別人のように変わる人もいる」
「じゃあ、中瀬さんは後者ですか?」
「はい。私は、豹変するとかそんなことは無いです。いや、もしかしたらあるかもしれませんが」たどたどしく話を進める。「ただ、隠しているつもりはないですけど。友達とか、親しい人にも、秘密にしている。私の裏の部分がありますよ」
 そう言って中瀬さんは鞄の紐を握る。
「なるほど」何と応えたものか。
 結局、中瀬さんは裏の部分が何なのか語らなかった。
 ここまで、慌ただしくしてきた為に忘れていたが。
 あのとき中瀬さんはどこから現れたのか。その大きな謎を忘れていたのだ。
 中瀬さんに衝突した時、俺は一瞬空を見上げた。だがその直前には確実に誰も居なかったのだ。あの通りの、俺の正面には、人も物も無かった。だからこそ俺は安心し、気ままに空を仰ぐことができた。
 彼女と衝突したのは、曲がり角でもないし、建物の出入り口でも、車から降りてこれる場所でもない。
 やはり突然現れたのだ。
 この謎の正体は、中瀬さんの秘密とやらに関係しているのかもしれない。

「そういえば、私とぶつかった時、何聴いてたんですか?」
「ああ。GLAYですよ」
「そうなんですね、私も好きですよGLAY。どっちかといえばラルク派ですけど」
「俺もラルク聴くよ。やっぱりkenのギターは最高だよ。まあでも、俺はGLAY派だけどね」
「へえ。でも古畑さん。HYDEに似てますよね?」
 そんな馬鹿な。
「光栄だけど。似てないと思う」
「そうですか?目とか似てるけど」
「音楽とかよく聴くんですか?」
「はい。だから古畑さんが良いイヤホンつけてるのを見て気になったんです」
 共通の趣味を知って、妙に盛り上がってしまった。
 更に話を続けようとしたとき、「おかしいな」と突然犬飼が呟く。「二人とも後ろを振り向いてくれ、誰か居ないか?」
 どうしたのだろうか。俺と中瀬さんは揃って振り返る。
「誰も居ないな」
「居ないですね」
 通行人と自動車。
 特に変わった様子はない。
「どうしたんだよ」
「…誰かが、僕たちの後をついてきている。そんな気がするんだ。一定のリズム。一定の距離感で足音が続いているんだ。これはただの通りすがりではありえない。筈だ」
「でもどうして」
「分からない。もう少し歩こう」
 二歩、三歩。
 犬飼の様に俺が勘付くことなどできないが、自然と神経を集中させてしまう。
「振り返ってくれ」犬飼が突然言う。
 だが、振り返った先には誰も居ない。
 通行人すら、いない。
「あの、大丈夫ですか」中瀬さんが不安気に言う。
「静かに」
 犬飼は冷や汗をかき、いつになく剣呑な様子をみせる。その雰囲気に飲まれ、俺も肩に力が入る。
「2m先。電柱があるか?」
「ある」
 俺が答えた瞬間。
「電柱の裏、誰か居るのか!」
 犬飼が声を荒げる。
 しばらく沈黙が続き、やがて電柱の裏から一人の人物が現れる。
 中肉中背の、スーツを着た男。
 全く知らない男だった。
「誰だ?」
「俺は、知らない。中瀬さんは?」俺が訊くと、中瀬さんは俯き首を横に振る。

「男二人。お前たちは、その女の仲間か?」
 俺達が訊くより先に、謎の男が声をかけてくる。
「仲間。では、あるかな?さっき出会ったばかりではあるけど」
 謎の男に対して、つい真っ当に答えてしまう。しかし、仲間とは何とも妙な表現である。
 中瀬さんも困惑しているのか、控えめに頷く。
「さっき。出会ったばかり?」男は俺の言葉を咀嚼し、反復する。「じゃあ、その女の正体も知らないのか?」
 正体?何を言っているのか。
 俺は犬飼と中瀬さんの顔を交互に見る。二人とも、表情をじっと固めたままだった。
 そして、正体という言葉は先程の中瀬さんの言葉に結びつく。
――私の場合は裏側の方が大きいから。

「その女は、蜘蛛女なんだよ。つまり」
 蜘蛛女?なんだそれは。
「殺し屋なんだよ」男は言った。



「殺し屋ねえ」
 大家は言った。
 大学構内のベンチに座り、大変興味深そうな様子を見せた。
「それも蜘蛛女とはね」
「知ってるのか?」
 俺の問いかけには答えず、大家はスマホを弄る。
 昨夜、謎の男は中瀬さんの事を蜘蛛女というあだ名のついた殺し屋だと告げると、「隙間から現れている場面を何度も押さえている」と言い去っていった。
 彼の言葉は意味不明なものばかりで、これに関して、中瀬さんは肯定も否定もなかった。ただ正体不明の人物に付きまとわれたのはかなりの恐怖だったと思われる。
 その後は、何事もなく彼女をアパートまで送り届けた。セキュリティの強固なアパートだったのでその日のうちは大丈夫だった。だが、今後も同じ男が現れる可能性は大いにあるので警察には被害届を出し、俺達で今後も必要な場合は彼女を送り届けることになった。
「これだ」大家はスマホを差し出す。の画面には蜘蛛女についての記述がある。
「なんだこれ」
「都市伝説だ。何年か前に流行ってたんだよ。知らないか?」
「知らないな」
「普段はビルの隙間に潜んで、ターゲットを現れるのを待つ。そしてターゲットを前にしたとき、手を伸ばして捉え隙間に引き込むんだ。巣をつくり獲物を捕らえる蜘蛛の様に。さらにそいつが現れた場所には蜘蛛の糸が落ちてるんだ」
「蜘蛛の糸?」なんだそれは、妖怪なのか?
「まるで蜘蛛の糸のような、女の長い髪の毛だ。だから蜘蛛女」
「なるほど、よくできた話だ」
「だろ?もちろん作り話じゃなくてさ、俺は実話だと信じてるんだが」
 大家は楽しそう。意外と好きなんだな。
「で、その中瀬さんが、不審者に蜘蛛女だと言われたわけか」
「そうなんだけど」
 現場に残される女の長い髪の毛。俺は中瀬さんの艶やかな長髪を思い出す。
 そして思い当たる事はもう一つ。中瀬さんは、俺と衝突する直前、ビルの隙間から現れたのではないだろうか。そう考えれば、謎は解ける。
 だが、そうなると増々彼女が蜘蛛女である証明になるのではないだろうか。
 中瀬さんの大きな秘密とは、蜘蛛女ではないだろうか。
 
「なんだ、いつになくぼんやりしてるじゃないか」
「…ああ」
 不吉な予感はどんどん膨らんでいく。
「まさか、気になっているのか。中瀬さんとやらが」
「は?」
 大家の言葉で不吉な予感が一旦萎む。
 アタリだ。
 そして再び彼女の笑顔が浮かぶ。
「彼女の魅力と不信感が拮抗して混乱している。と言った所か」
 またアタリだ。
「恥ずかしながら、概ね正解だ。流石、俺の事をよく分かってるな」
「まあな。恋に恋焦がれていた入学当時の姿のままだったからさ」
「…俺の事か?」
「そりゃあ、そうだが」
 また入学当時の話か。
「いや、まあ入学当時の事はもういいか」
 気を遣ったのか大家は話を切り上げる。

「とにかく昨日の不審者は蜘蛛女と関わりのある人物なんだろう。そして中瀬さんは本物の蜘蛛女もしくは、蜘蛛女と共通項が多く、蜘蛛女と勘違いされている人物ではないだろうか」
「ああ、そうだと思う」
「それなら、俺達のやる事はあまり変わらない。予定通り、中瀬さんを毎日送り届けて、彼女を保護すると共に、正体を探るんだ」
 探る、という言葉は何とも後ろめたい。
「それと、不審者をだ」
「なるほど」
「だけどな、ここまで蜘蛛女の都市伝説が実話である前提で話をしてきたし、火のない所に煙は立たないともいうだろう。それでもただの出鱈目である可能性の方が圧倒的に大きい。俺はそういう話が好きだから、贔屓目で信じたい。それでも都市伝説は都市伝説だ。その不審者が、ただおかしな事を吹いている可能性が高いだろう」
「確かに」その通りだ。
「蜘蛛女の都市伝説を信じる不審者が、蜘蛛女と共通項の多い中瀬さんを偶然見つけ、付きまとっている。それが一番可能性が高いと俺は思う。それを証明するために中瀬さん、いや不審者を探るべきなんだよ」
「その通りだ、大家」やるべきことは固まった。
「そういえば、湖南の所に行ったんだろ?何か言ってなかったのか?」
 普通者同士気が合うじゃないか。その言葉が思い浮かぶ。
「取り立てて変わったことは言われなかった」
 変な事はいつも通りだが。
「そうか」
「いや、一つ変わったことがあったな。湖南は酒を飲んでるわけでも、特別湖南の気を惹く物があったわけでも無い筈なのに、透視能力を使っていたんだ」
「…それは、困ったな」大家は何かに気づいた様子を見せる。

       

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