Neetel Inside 文芸新都
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日記
2017年12月

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2017年12月4日(月)

 写真が嫌いだ。そこには過去の私しかいない。そんな歌を誰かがうたっていた。日記も同じようなものなのかもしれない。過去の私しかそこにはいない。隠してはいるけど私はナルシストだから、他人が書いた文章より過去の自分を好きになれる気がする。だから日記を書くことにした。
 この広い世界でどれだけの人が私のことを知っているのだろうか。すれ違う人たちは私を知って、意識する間もなく忘れていく。ネットに公開すれば、きっと何人かが読んでくれて忘れていく。いつか私のことをみんな忘れてしまう。それは少しだけ素敵だ。だから日記を公開することにした。独りよがりに。

     

2017年12月5日(火)

 今朝、コーヒーを淹れた。一時期、はまっていろんなお店の豆を試してみたものだけど、結局コンビニのお徳パックを飲んでいる。あんなに嫌いだったインスタントコーヒーも飲めるようになってしまった。
 カフェインは血液脳関門を通過して脳に直接作用する。他に通過するものといえば、アルコール、ニコチン、抗鬱剤。こうやって並べてみると、カフェインが一番健全に思える。私は健全だと再確認する朝のひとときであった。

     

2017年12月6日(水)

 余ったシュークリームを食べてくれと母が言った。言い訳を手にした私は何の罪悪感もなく口に運んだ。ダイエットという人生の伴侶はどうやら私と添い遂げてくれるらしい。
 前髪を切りながらこまめに写真を撮る。カメラ、加工アプリ、鏡。どれに見られても違和感がないように。真横に向けて刃を入れてしまえば何かが変わるかもしれない。そんなことを考えながら淡々と縦に刃を入れた。痩せたら何も悩まなくて済むのだろうか。

     

2017年12月7日(木)

 今日もまたあいつがポエムをタイムラインに投稿する。どこかから借りてきた言葉でまるで自分が世界一不幸なふりをする。正直に言って見下している。
 けれでこうして日記を公開している私と何が違うのか。漫画を公開している彼らと何が違うのか。自己承認欲求を芸術の域まで昇華させれば許されるのか。そんなことを考えていたら、そもそも誰かに許される必要があるのかという茶々が無意識下から投げ込まれる。
 結局みんな同じでみんな違う。みたいなそれっぽいことを無理やり今日の結論にする。

     

2017年12月8日(金)

 昨晩、友人に誘われ相席居酒屋へ行った。やたらとシンプルな内装が偽の清潔感を演出していた。適当に友人のことを褒めながら、家に帰ったら冷凍ポテトをネット通販で探そうと考えていた。二軒目を誘う男を振りきって、友人と二軒目を過ごした。男たちとのグループチャットの画面を見ながら、文句を言った。所詮あの程度の男たちとしか出会いがない自分たちのレベルの低さには気づかないふりをした。

     

2017年12月11日(月)

 すべてを投げ捨ててしまえば楽になるんだろうけど、すべて投げ出した後で散らばったものを拾うのはあまりに大変。大それたことを言ってみたけど、実際は土日にやるべきことをやらずに遊び呆けていたらそのツケが回ってきただけ。お酒に酔って大して覚えてもいない人にまで連絡した。そのツケは回収せずに捨て置いてしまおう。夜中に誰かがインターホンを鳴らした気がするけど、出るのも面倒だから出なかった。酔っ払っていたから勘違いかもしれない。暖房が鼻の粘膜にダメージを与える季節になって、加湿器が欲しくなる。欲しいだけで買わない冬が今年も始まる。

     

2017年12月12日(火)

 昨日の夜中も二時過ぎにインターホンが鳴った。どうやら勘違いではないらしい。恐る恐る覗き穴から外を見たけれど誰もいなかった。扉は怖いから開けなかった。
 寝不足になると途端に効率が落ちる。まず取り掛かろうとするまでに時間がかかる。やり始めたところで頭が回っていないので、やる気が途端に削がれていく。年末に向けての焦燥感が私を襲っている。

     

2017年12月19日(火)

 高熱にうなされた一週間。水曜日の昼に寒気を感じたが最後、帰りはふらふらになりながら家についた。四十度を超えると死を連想する。嫌なことが立て続けにあると死んでもいいかなと思うこともあるけど、たかが高熱で生きたいと心から願ってしまう。インターホンが昼も夜もたまに鳴った。ドアノブに友人が掛けていってくれるコンビニの袋。薬やらおかゆやらが入っていて、中にはいつ撮ったのだろうといった私の写真が入っていることもあった。元気づけようとしてくれている友人の存在にひとりじゃないと思えた。

       

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