Neetel Inside 文芸新都
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意志と表象としての世界
2019年1月

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1月2日/縁起も何も、特になく

どこかの哲学者が言った、◯◯の構造という言葉を調べるため古本屋を巡っている。
たまに足を運ぶお店に寄ると、天井にはフクロウやコウモリが数匹飛んでいる。
絡まれないようコソコソと本棚を端から端まで探すけれども見つからない。
以前このお店で見かけたはずだけど、誰かが買っていったのかしら? あの時に買っておけば、なんて少し後悔して帰路に就く。外は真っ暗で、ちらちらと雪だけが光っている。
雪道をぷらぷらと歩いていると中華料理店を見つけ、そこで炒飯を注文する事に。
そういえばこのお店は、何年も前に一度来た事があるはず、と確信はないけれどふと思う。

いつの間にか、海沿いの荒道を歩いている。
勾配は異様に急で、時折ロッククライミングをしてまで頂上を目指すほど。
西の方角を見下ろすと、海に面したところにパソコンがたくさん置かれている。
50mほど崖を降りそこにたどり着くと、配線に足が絡まりすべて水没してしまった。

また場面は変わり、周囲は髷を結った武将ばかり。多分、戦国時代。
小声で謀反の相談をしている。
場違いな私は、とりあえず頷くことに徹していた。

     

1月5日/知らない知っている部屋

以前住んでいた部屋で目を覚ますと、すでに別の住人が入っているのか、様子が変わっている。
数年間ここにいた、という実感はあるけれど、一方で私の知らない風景。
お洒落な用途不明のオブジェや観葉植物、壁を壊したのか間取りも違っている。
ただ、棚をつける時に失敗して壁にできた傷や、絵の具を落とした床などは変わっていないから、私を安心させる。
とりあえず、髪から靴下まで、全身が濡れているので着替えとタオルを探すことに。
そこで気付いたのが、現在の住人はインテリアの造詣は深いようだけれど、それ以外には無頓着なのだということ。
床やキッチンにはゴミや埃が溜まっているし、臭いもするような気がして嫌な気分に。
やっぱりここのタオルだとかを使うのはよそう、と思う。
そういえば部屋も妙にジメジメしているな、とバスルームの方を見やるとドアの隙間から蒸気が漏れ出ている。
体が濡れているということは、私がシャワーを浴びたりしてそのままなのだろうか。
ドアを開けると異様な湿度と、カビだらけの床や壁に驚き、ここは長居するべきではないと足早に立ち去る。

     

1月11日/白み始めた夜の果て

永遠もすでに永遠に過ぎたらしい、といったような事を賢者が言う。
ユング的に言うと、恐らく究極の到達点なのだろうか。
ただ、賢者は男性における象徴のはずだ、なんて夢の中でも理性が働く。
そこから場面が飛んで、暗い地下道。
天井に入り乱れるパイプの様は、血管のよう。
その隙間という隙間を、蜘蛛のように這い回る。
そのうちに広々とした大聖堂のような場所に出る。
周囲は七色のモザイクでできたガラス。
背後にあった大きな扉から外へ出ると、夜と朝の間と呼べるような
明るいけれども真っ暗な空間が果てにあった。

     

1月19日/星の王子さま、そして

すごく小さなロシア帽、ウシャンカを被っているらしい。
あまりにもサイズが合っていなくてそれ以外の服装は分からないけれども、多分寒い所だ。
少し歩いてみると、さっき見たような看板。
「ここ」から「ここ」まで10分、と書いている。
どうやら、少し歩くだけで元いた場所にぐるりと戻ってしまう、小さな星の上。
先日、どこかでぼんやりと聞いた言葉を思い出す。
永遠の果てには、永遠に歩いて、そのさらに果てまで永遠に歩かなければいけない。
ベルクソンなら量と質との混同と言うだろうけれど、今の私には現実問題だ。
でも、空を見上げるとたった数光年先にあるような巨大な星の数々。
今までに見たことがないような不定形の宇宙。
このままここにいてもいいかな、と少し思う。
その一方でここにいてはいけない、という思い。
右ポケットに入っていたハサミで、左耳と鼻を削ぎ落としたところで、世界が明転する。

     

1月21日/不条理な天辺

5cmほどの、いくつかの鉄パイプだけで組み上がった高さ100m近い塔の上。建築用の枠組を想像するのが、いちばん近いかもしれない。
上、というのは正確ではなく、辛うじて掴まって、足を滑らせないようにしているだけだ。
足場と手すりは並行した一本のパイプだけ。ブーツの底はつるつるで、気を抜けば今にも落ちてしまいそう。
手すりを頼りに、一歩一歩足を下ろしていこうと試みるけど、手や足に力を込めるたび手すりも足場もグラグラと動いてしまう。
どうやら、私の重みでバランスをとっているらしい。
これでは下へ行くには落ちるしか方法が無い。
空を飛べたら良いのだけれど、生憎そんな能力もなく、落ちないよう落ちないよう、手すりを痛いほどに握る。
そんなふうに力を込めれば、また塔はグラグラと動きはじめる。
周囲にはこの塔より高い建物は無く、家々が点のように見える。
どうしよう、と思案に暮れる。少しずつ日が傾いてきた。
力尽きて落ちる以外、未来はないのかもしれない。
あるいは、ずっとこのままなのかもしれない。奇妙なバランスの中で。

       

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