ソープの風呂は温かい




『ソープの風呂は温かい』



レポってことは、実体験ってことでしょうね。僕はソープ・風俗の類は行ったことないし、苦手でもあるので、読むことが苦痛かもしれません。しもねたが、苦手なのです。

「No.1に偽り無し、か?:サヤカさん」

文体的には、古い探検談を読んでいるような感じがしますね。ノンフィクションのやつです。「私達は、帆船○○号で船出した。この船はまことに・・・」というような。

僕には、見知らぬ他人と肌をすれあわす、そのことに抵抗があります。この作者にはそれがないのでしょう。なかなかの行動家、冒険家、探検家といえます。

うーん、この描写の細やかさは、やはり作家的ですねえ。前述の古い探検談のようですよ。「下準備として、徹底的に情報を精査」なんてところに非凡なものを感じます。「精査」「性差(ジェンダー)」ではなく「精査」このひびき、理知的なたくみさを感じる。

人物としては、いわゆるソープ嬢、サヤカさん、アイさん、アンリさん、ミイさん、マユさん、など多種の人物が登場する。これら一人一人の特徴を「()」のなかにおさめる形でざっと表記してある。

これら一人一人の「嬢」にそれぞれの人生があると思うと眩暈がしますね。作者はあくまで自己の欲望をかなえる対象としてわりきっているようだけど。

「当欠多いが接客がいい」と、勤務の事情や態度に言及するところがあって、なかなか通のものの見方を感じる。それとも、ソープに行く人はある程度、そういうものの見方をするのかな?

作者はRという店にはいっていく。なんでも、今回のサヤカさんは「No.1」と公言されているらしい。まあ、期待もつのりますわな。

店名はふせてありますが、サヤカさんのプロフィールはかなり細かく書いてある「20歳、T159、B84(C)W56H85。」どこまでが本当のことなのか(作者が嘘をついているという意味ではない)わからないけど。

いったい、この作者は何回くらい風俗店をおとずれているんだろう?本当に、表記がこまかい。
例えば、

「サヤカさんはいつも予約が埋まっている。予約可能になったとたんに一気に埋まるのだ。ものの1分程度で、だ。


ネット上でリアルタイムで予約状況がわかるので、そういうことがあるらしい。

引用。「
新人嬢などは、意外と予約が全て埋まることもある。これは新しもの好きの常連客が入るかららしい。」

何度もいうようだけど、まさにこれは一昔前の探検家が書いたノンフィクション・ノベルだ。そして又聞きの手法がいい味を出している「かららしい。」とは、どこで手に入れた情報だろう?

作者がサヤカさんの予約をとる場面、PCの画面に貼りついて秒読みをする場面はやたら熱がはいっている。「行動」とセットになっている「行動の予期」。「行動の予期」が起こす真実性。まるでロケットの秒読みのようだ。

作者はサヤカさんの予約を取ることに成功した。「成功と性交」の関連性。いわゆる「本番」をする店ではないのかもしれないけど、熱気はつたわってくる。

サヤカさんの予約の枠は、タイムセールの特売品のようにまたたくまに売り切られた!その早いこと早いこと。

ここで作者は「優越感」という言葉を使っている。なんといっても、サヤカさんの予約を取ろうとして果たせなかった男どもが山ほどいる、というわけだ。

当日の作者はのんびりとすごしたらしい。いちばんおいしい食べ物を最後に残しておくみたいに。ガツガツしていない。そのうえ持論まで語る。

引用するとこうだ。


「”ソープは風呂屋だから、汚れた身体で行くのが普通だ”という人もいるだろうし、仕事帰りに立ち寄る人は確実にいる。
そのように行っても悪くはないだろうが、接客する嬢にとっては、汚い客だとテンションも下がるだろう。ひいては客自身が損をすることになる。だったら最善の状態で行くのがベストだ。」

僕だったら、汚い客と思われるのが単純にいやで(見栄で)清潔にしていくかもしれない。でも、この作者は「サービスの質が下がるから」と考えている。

ソープという卑俗な題材をあつかいながらも、作者は妙に理知的で情熱家だ。

まあ、少し変わり者といっても良いと思う。とはいえ、風俗の体験談というのは、漫画や、エッセイなどでときどき見かける。なぜ彼らは風俗の体験を語りたがるのだろう?まるで、釣り(フィッシング)の日の天候や釣果をブログで発表しているみたいだ。

さて、作者とともに「R」へと出発しよう。店に到着してから、タバコを一本吸い、トイレで用を足したことまでこと細やかに描写される。

そしてこの心理描写。


「一瞬、何のことかさっぱり分からなかった。
というのも、今までの経験で、予約時間に店に着いたとしても、かならず数十分の待ち時間が発生するものだと思い込んでいた為、頭が「さあこれから待つぞ」という態勢だったのだ。
あたふたしている私に・・・」

まあ、そういうこともあるのだろう。それにしても、小説的である。やはり文芸新都というだけのことはある。ブログに書かれる文章なら、もう少しちがう形になるんじゃないか?

店員との会話、エレベータ前の様子、・・・作者はなにを伝えたいのだろう?これは本当に風俗の体験記なのだろうか。まるで十年ぶりに愛娘と再会するみたいだ。

ここで作者はサヤカさんと対面する。そこに失望はない。思いのほか期待通りだったらしい。あれよあれよいう間に二人は流れ、流され、作者は驚きながらこうもらす「これがNo.1の接客か」と。

サヤカさんはだいぶ手馴れてるみたいだ。それに対して作者のほうがまごついている。一応、ソープなりの手順というか、ものごとの順番があるらしいのだけど、サヤカさんはそれをすっ飛ばしてくるのだと。

作者がソープに行くのは半年に一回だっけ?

一方、人気のあるサヤカさんは、毎日毎時毎分毎秒といった具合に仕事をしている。その「落差」が出ているようにも感じる。

細かい描写もなかなかたくみだけど、短くピリッとくる言葉もある。作者がサヤカさんのブラジャーを外し、胸をもみしだいたときの短い言葉「直は効く。
」なんて。

このあと、性愛の場面がつづく。それに関しては、割愛する。僕は、露骨すぎるしもねたは苦手だ。ただそれだけの理由。

もちろん、作者は性愛の場面だからといって、描写を荒々しくしたりはしない。差別はしない。こと細やかで、均等である。

不思議なのは、作者が性愛の場面を細やかに書き、前後はおまけのように適当に書く、という態度をとらないことだ。

最初から最後までがプレイであり醍醐味だと言わんばかりに。この辺りが作者の作家性で、こだわりなんだろう。ヘミングウェイというと違うかな?だいぶ違うな。すこぅしハードボイルドなリアリズムを感じる。


私は、この賢者タイムの会話が結構好きである。」とのこと。やはり、前後を大切にしている。「イッておしまい」ではないのだ。作者はがさつな人間ではないのだろう。

トークタイムに対する作者の思い入れ。そして、嬢の心情まで想像されている。たんに、金銭でやりとりされる性行為、という僕のイメージとは違っていて、若干、抵抗がやわらぐようにも思う。

サヤカさんとの会話の内容。これまた具体的。作者の記憶力はなかなかのものだ。録音してあったみたいだ。

ここで、作者の口からサヤカさんの様子が語られる。いわく、「えー、もっと年上だと思った!あ、見た目とかじゃなくてさ、言葉遣いとか、気遣いとか。すごい洗練されてる感じだし」と。「No.1」の貫禄は伊達ではないということだろう。

二人はそろって喫煙者。もう一度、愛戯が行われる。作者の、お約束の「やはり、演技なんだろうなぁ」という感想。そう思うことで、イクまでの時間が稼げるらしい。奇妙なものだ。

作者は大満足をし、最後にこうつけくわえている。「
その日、帰りに寄ったラーメン屋で客同士のケンカに巻き込まれたのはまた別の話。




『作品感想』



風俗のレポートなんて、いやだなあ、という最初の感触とは別に、なかなか、作家的なところを見せてもらいました。

行ってみるか!とはならないけどね。色んな世界があるものだ、という感じ。細やかな部分を収集する、という傾向は共感もできた。

サヤカさんはどうしてるんだろうね。どこからきたんだろうね。一期一会とはいうけれど、もし作者がサヤカさんを再び指名することがなければ、なんというか、うつくしい、奇妙な出会いと呼べなくもない。


sage