Neetel Inside 文芸新都
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12 忘れもしないあの夏の日


2年生になった。
ガワラは転校し、文学部の新入部員は私1人になった。
新入部員は1人も入らなかった。
悲しいが仕方ない。

ちなみにアニメ部は5人も新入生が入部したらしい。
あんな濃すぎる空間にそんなに部員が入った事は驚きなのだが、
1年生は300人いるらしいので、300分の5、
つまり60人に1人の割合でディープなアニオタがいたのだとすれば
納得出来ない統計ではない。

その300分の1にすら引っかからなかった文学部は
危機的状況に瀕していた。
3年生の4人と合わせて部員数は5人。
この学校は部活動として存続させていくためには部員を5人用意する規則があり、
つまり誰か1人でもいなくなれば即廃部。
3年の先輩が夏に引退した場合も廃部という事になる。
まずい状況である。
だが、すでに先輩方には策があるらしい。

ところで、この高校は文化部が掛け持ちという制度を覚えているだろうか?
文学部の3年生にも3人、アニメ部と物理部と文学部を掛け持ちしている人がいる。
つまるところ、先輩方が考えていた策とは他の部から部員を引き抜き
掛け持ちさせることだった。

この掛け持ち制度のおかげで、
この高校は現在、文化系の部活が30個以上あるカオスな状態だった。
頭のいい進学校を謳っている割に頭が悪い制度だ。

さて、話は戻るが、文学部の危機に先輩方が取った行動は、
自分たちが掛け持ちしている部活から、
部員に掛け持ちするよう頼むということだった。


結果、アニメ部の3年生1人と2年生が2人、
そしてアニメ部に入った1年生の新入部員が1人、
文学部と掛け持ちをすることになった。
濃いメンツが揃っている事で校内でも有名なアニメ部だけに、
どんなオタクが来るのか私も内心ドキドキだった。

2年生の2人を、カンとマッキーとしよう。
この後、現3年生が引退した後に私が部長になるのだが、
マッキーは副部長を務めてくれた人物である。
理系の学生で普段は割と常識人なのだが、
会話の最中、唐突に奇声をあげることがある。
別に病気とかいうわけではないし、
TPOは弁えている。部活の時だけそうなる。
そういうアニメ部のノリらしいのだが、
知り合って1年ほど、どう接して良いかわからなかった人物だ。


カンとは、10年以上の長い付き合いとなる。
彼はアニメ部で最も漫画を書いている人物だ。
暇さえあれば漫画を書いている。
授業中に机で同人誌の原稿を書いて、教師にキレらた事がある。
将来、彼はプロの漫画家としてデビューし、雑誌で連載も持つことになるのだが、
それは後の話。

3年生は、1年前の入学式で語尾に「ニョ」を付けて部活動紹介を行ったあの先輩だ。
この時の口癖は「うぐぅ」になっている。
「kanon」というゲームに嵌まっているらしかった。

残りは1年だが、こいつが問題児だった。
名前はクロとしておこう。
こいつは、こゆいオタクが揃うと校内でも評判だったアニメ部の中でも、
いっそう個性的な人物だった。
私の人生で現れた変人ベスト3には入る。

まず、とにかく落ち着きがない。
休み時間はいつも廊下をダッシュしている。
そして上級生の教室にやって来ては、勝手に上級生の席に座って
アニメ部の部員と濃いアニオタ話をして帰っていく。

頻繁にそんなことをやっているので、
上級生の間でもクロは有名だった。
クロの存在が、アニメ部の風評に拍車をかけた感がある。

アニメ部つながりで、クロはリノにも絡みに行く。
リノと私は2年でも同じクラスになり、私は遠巻きにその様子を見ていた。
隠れオタであるリノは、クロがやって来ると露骨にイヤな顔をする。
リノがアニメ部に入っているのは1部の人間しか知らないのだ。
最初は他人のふりをしているリノだったが、
クロがあまりにもしつこくやってくるので途中で観念したらしい。
1年の時はうまく隠していたのだが、
リノがアニメ部に入っている事は2年のクラスでは
クロのせいでほぼ全員が知る所となった。

そんな個性的な連中を新入部員として迎え、
文芸部は新たに9人となった。
今まで通りに部誌の発行、批評会という活動で1学期が終わろうとする頃、
カンが私にこんな事を言った。

「アニメ部の部誌を文化祭で出すんだけど、きみも作品出さないか?」


どうやら私が絵を描いているのを見ていたらしく、
それでお誘いしてくれたらしい。
さて、どうしたものか。

現状、1年前ほどアニメ部に対して嫌悪感はない。
すっかりオタクに染まっていたし、文学部の中で接する機会も増えた。

彼らの部誌は1学期に1冊程度の割合で発行されている。
絵はギャルゲー風だ。
ギャルゲータッチの絵には抵抗はあるものの、
あれば読むぐらいの免疫はすでについている。


そして、文学部の活動ですっかりおざなりになっているが、
私は元々漫画家志望なのだ。

ネーム(漫画を書く前のストーリーを実際にコマ割りにしたもの)
はすでに何本も仕上げているし、ペンタッチの練習もしている。
1度形にしておくのもいいと思った。
私は、カンからの誘いを受けることにした。


2年の文化祭にて。
私は、とうとう漫画作品を1本、描く事になったのだ。


1年生より宿題の量も増え、本格的な受験対策が始まる。
去年より時間が取れないのは間違いない。
けど、1年間文学部で磨き上げてきた話を作る技術と、
自主的にやっていた絵を試すいい機会だ。
私は燃えていた。

夏休み中に、はじめて自分の漫画を1本、書くのだ。
処女作ならぬ童貞作。
楽しみだ、どんなものを書こう。

そんな期待を胸いっぱいに膨らませた夏休みが始まり数日。
私の人生の中でもっともやる気に満ちていたあの日。






忘れもしない。


家から届いた1本の電話。
あのどす黒い感情を、私は死ぬまで忘れることはないだろう。






















弟が、まだお(初代)に殺されかけたのである。







       

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