Neetel Inside 文芸新都
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まるでだめなおっさんの鎮魂歌
ダメな大人の高校編

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06 まるでダメな青春


中学時時代、それは私の全盛期と言ってもいい。
勉強はかなりできたし、スポーツでも優秀な成績を残せた。
文壇に立ってスピーチをしたこともあったし、友達も多かった。
親友と呼べる人間もいた。彼は私のようになってなければいいが。
そんな私は県内でも偏差値でトップ3に入るそこそこ優秀な高校に入る事ができた。
実にリア充である。


だがその高校は男子校である。
繰り返そう。男子校である。

そもそも、男子校の存在意義ってなんだ?

戦時中であればわかる。
男は兵士、女は国内で工場で働く訓練と別々の事をするのであれば
学舎を分けるのにもメリットはある。
だが、今の日本で一般人が兵士になる事など想定していない。

賛否両論あるだろうが政府や国際的な思惑を抜きにして、
ただ現代の戦争という点のおいてのみ焦点を当てれば、
一般市民100人を訓練し、戦場に出す予算があれば、
そのお金でレーダー1台買った方がはるかに効率がいいのだ。

隊列を作り、銃や剣で突撃していた時代ならともかく、
現代戦争は兵器の差が戦力となる。
1000人銃を持って集まったところで爆撃機や戦車の前に為す術はない。


有事の訓練をする必要がない以上、
男子だけが学ぶべき学問などあまりない。
せいぜいどうやったら女性を口説き落とせるか、
悦ばせるセックスの仕方ぐらいのものだが、
そんなものを3年かけて教える学校があったら紹介して欲しい。
倍率が高かろうと入り直すかも知れない。
まあとにかく、現代において、男子校に存在意義がないことはおわかり頂けただろうか?


女子校ならわかる。
大切な一人娘が変な男と付き合って妊娠なんてさせられたらたまったものじゃない。
完全に防ぐのは無理だろうが、女子校に通わせることで
男性絡みのトラブルに遭遇する確率はかなり減らす事ができる。
親としても、娘が大切な女子校に預けることで安心感を得ることができるだろう。

だが男子校は違う。
まったくそんな意味は無い。
むしろ男子校に通い、女を知らない事で将来ホストに嵌まったり、
大学で悪い女に騙されたりする。
男子校で学べることは共学でも学べるがその逆はない。

男子校の存在意義がまったくわからない。
誰か教えて欲しい。




私はそんな男子校で3年間過ごすことになった。
中学時代の友達同士が付き合いだした、恋人ができた、
なんて浮ついた話をしている時に私は別の事をしていた。


なぜか私は文学部に入部し、アニメ部と親交を持ち、
オタク達と濃い話をしたり小説を書いたりしながら、3年間過ごすことになったのである。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



私は中学の時はバリバリのスポーツマンだった。
オタクなどとはもっともかけ離れた存在である。
腹筋は割れるほど鍛えていたし、友達とはカラオケに行ったりもした。
どっちかというとウェーイ系のノリだった。
漫画も少年ジャンプやマガジン程度しか読んでおらず、
唯一オタク的な知識と言えばエヴァンゲリオンぐらいだ。
当時エヴァは社会現象にもなっていて、アニメに疎い私でも耳にする事があった。


ではなぜ高校でもスポーツマンを選択しなかったのか。
その頃の私は、漫画家を目指そうとしていたからである。


前述したように、私は絵を描く趣味があった。
鉛筆の走り書きだが、ストーリーにした漫画はノート10冊分ぐらいはあった。
友人達からも絵が上手いと褒められた。
調子に乗った私は、高校在学中に漫画活動に取り組もうと志したのだ。

元々体育会系とか、そういうノリは苦手な部分もあった。
親しい友人とは明るいノリで接する事ができるが、初対面の人間相手は無理だ。
久しぶりに会う人間に対しても妙によそよそしくなってしまう。
お盆で親戚が集まる場所に行くのは苦痛でしかなかった。
私の家以外のいとこ同士は東京に住んでいてちょくちょく会っているらしく、
小さい頃から、いとこ同士で集まると疎外感を感じていた。

そういった部分もあったので、私は元々オタクとしての素質があったのかもしれない。


とにかく、高校入学当初は漫画アニメ研究部に入ろうと思っていた。
だが入学式後の部活動紹介で漫画アニメ研究部の紹介を見て、私は漫画アニメ研究部を諦めた。


アニメ部紹介、部長の第一声。
丸眼鏡をかけた明らかにヒョロヒョロの先輩が壇上に立ち、第一声こう言った。





「こんにちは、漫画アニメ研究部ですニョ!」




!!!!!!!!!?????
男子校である。
偏差値がそこそこの高校の、新入生の視線が集まっている壇上である。
恥ずかしくはないのか?????


仮に羞恥心を捨てられたとしよう。
ニョってなに? ニャならまだわかる。猫だ。猫はかわいい。
男が語尾ににゃをつけても気持ち悪いが猫はかわいい。
でもニョってなに?


これは後々になってわかったのだが、
当時オタクの間では「デジキャラット」というアニメが流行っていて、
そのヒロインのデジコというキャラが語尾に「ニョ」を付けるのだそうだ。
……と、本人から聞いた。

だからなんだって話だ。
ここは男子校だし三次元だしそいつはデジ子じゃない。
そもそもこの進学校の新入生でデジキャラットの挨拶をしてわかる人間がどのぐらいいるんだ。
もちろん私も知らなかった。
その時の私は、よくはわからないがこの人はイタい人なんだと思った。


「私達の活動を紹介しますニョ☆」



漫画アニメ研究部にいる人間と私の間には、
外国よりはるかに遠い距離と分厚い壁があるらしい。
私は入部をやめた。



だが創作活動はするつもりだったので、
代わりの部活に入ることにした。
それが文学部である。


文学部の部長は高身長のちょっとひょろい印象がある人だった。
おとなしめで、私が今まで付き合ってきた人種とは明らかに違った。
だがさっきの超絶電波受信男と比べればはるかにまともに見える。
説明もわかりやすいし、何より語尾が普通だ。

文字による創作活動を行い、定期的に部誌を発行するというもので、
絵の練習と掛け持ちすることは十分可能だろう。

絵の練習は家でするとして。
文学部でストーリー的な部分を磨いていくのも悪くないと思い、
私は文学部に入部した。

この選択が、私の一生を左右することを、私はまだ知らなかった。



       

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