Neetel Inside 文芸新都
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07まるでダメな高校生活



というわけで文学部に入部した。
文学部には3年の先輩1人に、2年の先輩が4人いた。
私を入れて新入生は2人だ。

文壇で文学部について説明していたのが3年の先輩だ。
初顔合わせを終えると、早速先輩から命令が下った。

「人数もいるし、今月部誌を発行したいから何か書いてきてくれ」

入学したてで右も左もわからない後輩に何を言ってるんだこいつらはと思った。
特に授業に関しては進学校ということもあって、ペースが普通の学校よりもはるかに速いのだ。

本来は3年間で学ぶはずのカリキュラムを2年までに全て終わらせて、残りの1年は
受験対策に費やすのだそうだ。
入学した初日に、「1年生は5時間、2年生は7時間、3年生は9時間、家で勉強するように」
などと担任が言っていたのを思い出す。もちろん学外でだ。

……うん?
労働基準法ってなんだっけ。
いや、学生には労働基準法は適応されないのか。
そういう問題ではないだろう。
というか、普通に考えて無理だろう。寝る時間がない。
クラスの誰かがその事を指摘すると、とりあえずそのぐらいの気持ちで取り組め、という事らしい。
進学校を謳っているこの高校においては、生徒の進学率が経営に大きく関わるのだろう。
とりあえず、授業が予習前提で進むのは間違いないようなので、
特に数学と英語は予め予習してくるようにとの事だった。

とんでもない学校に入ってしまったと思った。
部活動紹介と合わせて、まだ入学式だというのにこの学校にはすでに2回もドン引きしてしまった。
だが、漫画家を目指すにしても大学に行くことはマイナスにはならない。


「漫画を描くには漫画だけを描いていてはダメだ」というのが、当時の自分の持論だ。
スポーツ漫画を描くには実際にスポーツを経験した方がいいし、
料理漫画を描くのなら自分もある程度料理ができた方がいい。

手塚治虫は医師免許を持つほど医学知識が豊富なのを活かして「ブラックジャック」を描いた。
スラムダンクも、作者が実際にバスケをやっていたからこそ、あそこまでリアルに描けるのだろう。

高校3年、そしてその後の人生で漫画だけを描き続けていては、きっと面白い漫画は描けない。
どこかで行き詰まる。だから大学に行ったり、色々な人生経験を積むべきだ。
当時の自分はそう思っていた。実に賢い。
もっともこの時の理想とは裏腹に、
自分は大学どころか漫画すら描かなくなってしまうなんて、皮肉な話だ。
意志薄弱。だからこそまるでだめなおっさんたる由縁なのだが。




話題がだいぶ逸れてしまったが、
とにかく学校の勉強をしながらも、文学部として部誌を発行するために
作品を提出する事になった。
しかし、何を書けばいいのやら。
これまでの人生で小説なんて滅多に読んだ事は無い。
高校に入学するまで、ライトノベルの存在さえ知らなかった程だ。

せいぜい星新一か、芥川龍之介、国語の教科書に載っていた名作の抜粋程度である。
漫画なら週刊少年ジャンプを毎週読んでいたんだが。
さて、困った事になった。

悩んだ末、自分の処女作がはじめて完成したのは……2日後ぐらいだった。
事件はショートショートの推理モノだった。
寿司屋に家族が来た。子供を間に挟んで座り、仲良く家族で食事をする。
だが、父親は突然口から血を吐いて倒れる。毒殺だ。犯人は誰だ?

犯人は母親である。
父親の浮気が許せなかったから殺した。
子供のためにも自分が捕まるわけにはいかない、などと供述するが当然見逃すはずもない。
いや、子供を思うなら子供の前で父親を殺すなよトラウマになるぞとか、
探偵と助手役と被害者と子供と寿司屋の店員を抜いたら自動的に母親が犯人確定だよとか、
ツッコミどころは色々あったがなにぶん初めてなので許して欲しい。
唯一褒められた点は、犯人である母親の主張ぐらいのものだろう。

「子供のために取った皿を父親が横取りした。
子供が食べていたら子供が死んでいた。父親が皿を取ったのはあくまで偶然なのだ」

……まあネタバレしてしまうと、子供にワサビって辛いよねと、そういうことなのだが、
高校生がはじめて書いたにしては及第点じゃないだろうか。
とにかく、こうして作品を提出できた私はひとまず勉強に集中することにした。
学校の授業ペースは中学校の比ではないほどに速く、ついていくのがやっとだった。

1学期の成績は、学年でも中くらいだった。
中学校では常に20位以内をキープしていただけに少しショックだったが、
周囲も同じような連中が集まっているのだ。自然そうなる。

もちろん、その間にも漫画の練習はし続けた。
3年間に1度でいいから、ジャンプの新人賞に投稿しようと思っていた。






だが夏休みが終わる頃。
勉強も漫画もそっちのけで文章を書く事に嵌まっていくことを、
この時の自分はまだ知らなかった。









       

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