Neetel Inside ベータマガジン
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↑本作の主人公百鬼丸。妖怪から自分の体の部品を取り返す度に人間に近づき、そして超人から人間的に徐々に弱くなっていく設定に筆者は中二心を鷲掴みにされました。


●コレって、子供向け作品ですよね……?

 書きたい事はたくさんありますが端折って最欝回『ばんもんの巻』のあらすじへ。

 どろろという名の盗賊の子供を相棒として迎え(くっ付いて来ているだけ)百鬼丸とどろろのふたりは荒野の丘に大きな板が立っているのを見つけます。百鬼丸が持つ刀が目当てでついてきたどろろとしばしマンザイを繰り広げた後、その大板の影で身を休めるどろろと百鬼丸。

 するとどこからともなくヒューっと灯りが点きましてね、気がつくとあたしの身の回りを妖狐の大群が囲っている訳ですよ。すやすやと寝息をたてるどろろにそろぉり、そろぉりと妖狐の一匹が近づいていって、そこで刀を引き抜いた百鬼丸。

 ギャー!グワー!ぎゃー!!とバッタバッタの大立ち回り。夜明けと共に撤退していく妖狐達の群れ。あたしゃおっかねぇけど、その狐達の死骸をね、見に行った訳ですよ。

 するとね、死体がひとつも転がってないんです。怖ろしいでしょぅ?以上、夏の風物詩風にお送り致しました。


 狐を退けると今度は侍の兵隊がふたりの居る大板の前に馬に乗る大将を従えてやって来ました。その中には縄に繋がれた貧相な身なりの平民が大勢居ます。事の成り行きを板の影から見届けるどろろと百鬼丸。

 すると大将の「殺せ!!」という号令と共に弓矢による平民たちの処刑が始まります。どうやらこの大板、みせしめとして人を殺す場所として使われるキラースポットだったようで、というか百鬼丸助けないんかいー、という読者のツッコミを受け侍達の惨殺行為にぶち切れたどろろが単身、侍の大将に食って掛かります。

 どろろをかばってその大将と刀を交える百鬼丸。すると百鬼丸の意識の中でなんともいえない…あったかみみたいなものがグーっとこみあげてきます。

 そう、この平民たちを虐殺した侍の大将こそが百鬼丸を悪魔に差し出した産みの親、醍醐景光だったのです…!お互いに底知れぬ違和感に気がつき、刀を納めてその場から軍を引く醍醐景光。

 どろろは去っていく連中のその背中に悪口雑言をぶつけると殺された子供に念仏を唱えて彼らを土葬で埋めてやります。その後、物資補給に大きな町に立ち寄ったふたりはそれぞれ別行動を取り、百鬼丸は喫茶店で茶を飲もうとするも「ばんもんの向こう側から来た」人間であると店員に拒まれ、店にやってきたチンピラ侍六人に絡まれます。

 それらを苦も無く返り討ちにすると彼らを遣わせた隻眼の男が現れ、彼は自ら多宝丸と名乗ると百鬼丸を「メシぐらいくわせてやる」といって屋敷に招きます。

 この多宝丸、カニのような独特のヘアスタイルと渦巻き模様のついた洒落たかみしもを羽織り、皮肉の効いた台詞が多く、結構いいキャラをしています。本作品の映画版では俳優の瑛太がこの役を務めています。ちなみに筆者は女の子に瑛太に似てるって言われた事あります。←聞いてないww


 閑話休題、屋敷に招かれた百鬼丸は一室で突然現れた妖狐を刀でいなして退けると朝会った醍醐景光が多宝丸と共に部屋に訪れます。ふたりはチンピラ達を一瞬で片付けたその腕を見込んで直々に我が兵軍にスカウトしようとしますがそれを突っぱねて居眠りを始める百鬼丸。

 武士としての職に誇りを持つ多宝丸は傍若無人たる態度が腹に据えかねる様子。あー、なんかこの後の展開が大体予想できる。

 似たもの同士による相手への己との近さゆえの反目。ブッダやBJでも見られる登場人物達のライバル関係のように漫画の神様はこの辺りのキャラクターの心象描写がとてつもなく上手いです。

 眠りから目覚めた百鬼丸は庭で醍醐景光の妻、多宝丸の母となる人物と出会います。「ぼうや」と呼ばれ、心をかき乱される百鬼丸。「そんな、おれにうみのおやなんざいねえ!!」と錯乱状態の内に百鬼丸は屋敷を駆け出します。


 一方、別行動を取っていたどろろは橋の下でストリートチルドレンの助六と知り合います。助六はばんもんの向こう側から来た少年で、いくさの最中にこちら側の陣営に紛れ込んでしまって家族の居る自分の家に帰れなくなってしまったと嘆きます。

 彼を無事自分の家に送り届けてやると息巻くどろろ。ばんもんを挟んで藩同士の争いが始まりその最中に助六をばんもんの向こう側に向かわす事に成功しますがどろろは侍たちに捕まってしまいます。

 先日同じ場所で殺された少年たちのようにばんもんの前に縛り上げられるどろろ。すると隣に見覚えのある浮浪児の声が響きます。「助六、おっかちゃんに会えたかー」どろろが訊ねると助六の口から衝撃の告白が。

「おっかぁは死んでた!!おとっちゃんも殺されてうちも焼かれちまってなんにもねえやい。なーんにも……」

 涙に暮れる助六をどろろは精一杯励ましますが、多宝丸を総隊長とした侍軍が彼らを作戦を妨害した罪人である、と難癖をつけて処刑を始めます。

 ばんもんの端から順に矢で射殺される平民たち。「百鬼丸はやくきてくれー!!」という読者の叫びもむなしく「おっかあ」と叫びながら助六は喉元を矢で射抜かれます。

 作中で若干の躊躇はあるものの、容赦なく老若男女を殺していく多宝丸軍。生まれてからなにひとつ楽しいことを知らずに家族が皆殺された真実を突きつけられて絶望しながら死んでいった助六の凄惨な死は胸に訴えかけるものがあります。

 どろろの殺し順になってやっと現れた百鬼丸。「おせーよホセ 」といわんばかりにきさまにはもうがまんができん!!と馬の上で刀を抜く多宝丸。どろろを助け出し、連中の作戦を妨害したという罪状で藩の合法的に百鬼丸を殺害しようと企てる多宝丸の刀が斬り合いになった百鬼丸の刀をへし折ります。

 これには“元無敵”の百鬼丸をおおっと目を剥きます。力では多宝丸の方が上。しかし勝機を焦った多宝丸に百鬼丸の妙技が炸裂し、ふたりは真昼の太陽にじりじりと照らされながら手負いの中、罵りあいを始めます。


●避けられなかった兄弟殺し

「あのふたりは血をわけた兄弟なのだぞっ!!」

 息子ふたりの決闘を耳にして馬を走らせる醍醐景光。利き腕を負傷した多宝丸はにらみ合う百鬼丸に対して呪詛のように「ノライヌ」と唱え続けています。

 人を四つ足呼ばわりするのは放送コードに引っ掛かります。再アニメ化の時にこの場面がどう修正されるか、興味があります。

 目を血ばらせて「そのあつたいをつく口も いまにきけなくしてやらあ」と殺る気全開の百鬼丸。すると何者かが百鬼丸の心の中に呼びかけます。

「百鬼丸聞けっその相手はおまえの弟だぞ」声の主である妖狐の囁きにうろたえる百鬼丸。そして「醍醐景光はおまえの父親なのだぞ!!」と告げて高笑いをあげる妖狐。

 今風に言えばBGMとして三浦大地の『excite』が流れ「それ以上言うなー!」と仲間が駆け寄ってきそうな妖狐による暴かれしtruth。

 しかし状況は差し迫り、これを勝機と見た多宝丸の刃が近づきます。

「そうだ おまえは弟を殺せまい」

 妖狐のあざけ笑いをかき消すような叫び声が辺りに響き、斬り合った後に音も無く倒れた多宝丸。

――やってしまった。妖狐がそう告げなければ百鬼丸は何のためらいも持たずに多宝丸を殺害したでしょう。それが妖狐のリークにより多宝丸が百鬼丸の弟である事が知らされた。

 失われた命は戻る事なく、百鬼丸は今後もこの少年漫画のタブーである『兄弟殺し』に心を痛めていく事となります。

「多宝丸といったな。もう一度目を開けておれの顔を見ろ。おれはな、きさまのあにきだよ……もっと話したかったぜ」

       

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