流星群のシーンは浅野いにおの漫画家としての上手さが凝縮されている見開きとなっており、心が洗われる美しいページなので是非、本で読んでいただきたい!自分は金がないのでマンガアプリで済ませました!
ここでの体験はプンプンの人生にとっての黄金期と言って相応しいでしょう。死体を捜しに行くという『スタンドバイミー』的シチュエーションと少年グループによる秘密の工場探検といった『20世紀少年』的エッセンスが練りこまれていて何度読み返しても面白い!
正直ここで終わってもいい位の出来ですが、そこは欝展開に定評のある浅野いにお。物語はまだ始まってもいなかったのです・・・!
●ここからが本当の地獄だ…
夏休みが明け、隣町に引っ越すというハルミン。まぁ隣町だしすぐにまた会えるよきっと、と空元気でハルミンはプンプンに絶対壊れないという自転車を譲ります。一番仲の良かった友達の転校にプンプンは精神的にまいってしまって、入院していたお母さんの『事故』もあり、愛子ちゃんとの約束を放棄してしまいます。
好きだった愛子ちゃんとの間に微妙なディスタンスが生まれ、ある日家に帰ると自宅に居ついていたおじさんのクチバシから衝撃の告白がなされます。
『これからプンプンは小野寺プンプンに名字が変わるよ。』と。
――プンプンの家庭は少し複雑で物語冒頭でプンプンパパがプンプンママに暴力を働いて刑事告訴され、入院したプンプンママの代わりにその弟であるおじさんが親代わりをしているといった字列からして狂っている状況であり、現実を受け入れられなくなったプンプンは泣きながら愛子ちゃんから手に入れた縦笛の先端部分を吹きながらハルミンから譲り受けた自転車を漕いで家出をします。
その中でプンプンは誰も自分の内情を理解してくれない事を嘆いて石段から転げ落ちながら『今日から大人になる』と決心します。
誰もいなくなった校舎の体育館で床に溶けながらエヴァンゲリオンの挿入歌なんかを歌った後、家に帰ると更年期障害のプンプンママが「この……!!」と怒りを込めて棒のような腕を振り上げます。
ぶたれると身構えたプンプンでしたがその頭にはぽん、とお母さんの優しい手。「お母さんを…ひとりにしないで……」わけもわからず涙が止まらないプンプン。
夕食時、家出の捜索から戻ってきたおじさんを向かえたリビングのソファでプンプンがひとり泣きじゃくっているといつの間にか眠ってしまったその背中に誰かが一言、こう呼びかけます。
『おやすみ、プンプン』
ドォォォン……!このタイトルコールにより第一部『小学生編』が終わりを告げます。
●肝心な“欝どころ”はどこか?
第一部の時点ではやはりプンプンの家庭環境でしょうか。筆者も小学生時代にプンプンと同じように親の離婚やそれによる半グレで家出をしたこともあってかなりプンプンに感情移入出来ました。マンガアプリで読んでいたのですが、出先で思わず落涙しかけました。
大人にも彼らなりの事情があり、生活があるのですが家族がバラバラになってしまうのは辛い。家に近づくな、と警告されているプンプンパパが橋の向こうから「あいしてるぞー」と手を振る場面は陳腐かもしれませんが胸に来るものがありました。
プンプンはこの時点ではクラスメイトに恵まれ、表面的な欝マンガでありがちないじめや暴力を受けていません。しかしその体の周りにはべっとりとした不安や喪失感が憑り付いており、それが第二部の『中学生編』に向けて形態化されていきます。
『おやすみプンプン』、この作品の欝要素はその世界観が生み出すシュールでオルタナティブな空気感と言えるでしょう。