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ぼくらはマンガで欝になった
『どろろ』

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 ブンブンハローベータマガジン。

 今回で三話目となった『ぼくらはマンガで欝になった』。これまでの話からどういう傾向の企画がご理解頂けたんじゃないでしょーか。

 欝展開のある名作漫画作品の一部分をピックアップして心が振るえる感情をみんなで共有し、明日へ乗り越えていこうというこの企画。

 えっ、作品の傾向が偏っている?サブカル女子にモテようとしてる?だまらっしゃい、今回はこちら!

 先日約50年ぶりに再アニメが決定した手塚治虫の不朽の問題作、『どろろ』。

     


     

……おいおい、とうとう漫画の神様いっちゃったよ。コメント無さ過ぎて変な方向に拗らせちゃったよ。

 そう思って居るそこのアナタ……ここまですべて筆者の計画通りです。安心してください。これがメンタリズムです。

 さて、手塚治虫といえばさっきも挙げたとおりのいわずと知れた漫画の神様。ジャングル大帝や鉄腕アトムにブラックジャックなどの名作は何度も映像化され筆者のようなクソ雑魚レビュアーが語るのもおこがましいレベルの国民的認知度を誇っています。

 今回はその手塚氏の妖怪時代劇、『どろろ』を取り上げていこうと思います。


●重すぎるストーリー展開と血みどろの世界

 時は戦国、天下取りを目論む武士の醍醐景光は産まれる前の自らの子供をその願いを叶える条件として48体の魔神像に捧げ、その悪魔に同じ数だけ体のパーツを奪い取られ欠損した状態で生まれてきた赤ん坊が母親が看取る中、川に流される一話から始まります。

 なんかもう、このわずか20ページの一話目から既に凄惨たる異質を放っています、この『どろろ』。ちなみに流されたこの子供はどろろではなく、拾われた医者に百鬼丸という名を付けられ体を改造され、自らの体を取り戻す旅に出ます。

『自分の体を奪った妖怪を一匹ずつ倒してから己の体を取り戻す』。こういった肩書きだけなら王道の少年漫画にも聞こえます。

 しかしこの作品は読者が一般的にイメージする妖怪モノとは一線を画しています。普通の子供向け作品のそれであれば、悪さをした少年を妖怪が見かけてべろべろばぁと驚かすものが思い浮かばれますが、このどろろ世界の妖怪たちはガチで一般人を殺しにきています。

 それどころか人間同士の戦争にかこつけて人の心を操り死体を自らの肥やしとして増やすべき目的で争わせる知能犯的な妖怪さえ現れます。

 百鬼丸はこの血で血を洗う乱世の中で命がけの戦いを生き延び、助けた人々から妖怪の仲間だと疎まれながらも、ひとつずつ、着実に自らの体を取り戻していきます。

     


     

↑本作の主人公百鬼丸。妖怪から自分の体の部品を取り返す度に人間に近づき、そして超人から人間的に徐々に弱くなっていく設定に筆者は中二心を鷲掴みにされました。


●コレって、子供向け作品ですよね……?

 書きたい事はたくさんありますが端折って最欝回『ばんもんの巻』のあらすじへ。

 どろろという名の盗賊の子供を相棒として迎え(くっ付いて来ているだけ)百鬼丸とどろろのふたりは荒野の丘に大きな板が立っているのを見つけます。百鬼丸が持つ刀が目当てでついてきたどろろとしばしマンザイを繰り広げた後、その大板の影で身を休めるどろろと百鬼丸。

 するとどこからともなくヒューっと灯りが点きましてね、気がつくとあたしの身の回りを妖狐の大群が囲っている訳ですよ。すやすやと寝息をたてるどろろにそろぉり、そろぉりと妖狐の一匹が近づいていって、そこで刀を引き抜いた百鬼丸。

 ギャー!グワー!ぎゃー!!とバッタバッタの大立ち回り。夜明けと共に撤退していく妖狐達の群れ。あたしゃおっかねぇけど、その狐達の死骸をね、見に行った訳ですよ。

 するとね、死体がひとつも転がってないんです。怖ろしいでしょぅ?以上、夏の風物詩風にお送り致しました。


 狐を退けると今度は侍の兵隊がふたりの居る大板の前に馬に乗る大将を従えてやって来ました。その中には縄に繋がれた貧相な身なりの平民が大勢居ます。事の成り行きを板の影から見届けるどろろと百鬼丸。

 すると大将の「殺せ!!」という号令と共に弓矢による平民たちの処刑が始まります。どうやらこの大板、みせしめとして人を殺す場所として使われるキラースポットだったようで、というか百鬼丸助けないんかいー、という読者のツッコミを受け侍達の惨殺行為にぶち切れたどろろが単身、侍の大将に食って掛かります。

 どろろをかばってその大将と刀を交える百鬼丸。すると百鬼丸の意識の中でなんともいえない…あったかみみたいなものがグーっとこみあげてきます。

 そう、この平民たちを虐殺した侍の大将こそが百鬼丸を悪魔に差し出した産みの親、醍醐景光だったのです…!お互いに底知れぬ違和感に気がつき、刀を納めてその場から軍を引く醍醐景光。

 どろろは去っていく連中のその背中に悪口雑言をぶつけると殺された子供に念仏を唱えて彼らを土葬で埋めてやります。その後、物資補給に大きな町に立ち寄ったふたりはそれぞれ別行動を取り、百鬼丸は喫茶店で茶を飲もうとするも「ばんもんの向こう側から来た」人間であると店員に拒まれ、店にやってきたチンピラ侍六人に絡まれます。

 それらを苦も無く返り討ちにすると彼らを遣わせた隻眼の男が現れ、彼は自ら多宝丸と名乗ると百鬼丸を「メシぐらいくわせてやる」といって屋敷に招きます。

 この多宝丸、カニのような独特のヘアスタイルと渦巻き模様のついた洒落たかみしもを羽織り、皮肉の効いた台詞が多く、結構いいキャラをしています。本作品の映画版では俳優の瑛太がこの役を務めています。ちなみに筆者は女の子に瑛太に似てるって言われた事あります。←聞いてないww


 閑話休題、屋敷に招かれた百鬼丸は一室で突然現れた妖狐を刀でいなして退けると朝会った醍醐景光が多宝丸と共に部屋に訪れます。ふたりはチンピラ達を一瞬で片付けたその腕を見込んで直々に我が兵軍にスカウトしようとしますがそれを突っぱねて居眠りを始める百鬼丸。

 武士としての職に誇りを持つ多宝丸は傍若無人たる態度が腹に据えかねる様子。あー、なんかこの後の展開が大体予想できる。

 似たもの同士による相手への己との近さゆえの反目。ブッダやBJでも見られる登場人物達のライバル関係のように漫画の神様はこの辺りのキャラクターの心象描写がとてつもなく上手いです。

 眠りから目覚めた百鬼丸は庭で醍醐景光の妻、多宝丸の母となる人物と出会います。「ぼうや」と呼ばれ、心をかき乱される百鬼丸。「そんな、おれにうみのおやなんざいねえ!!」と錯乱状態の内に百鬼丸は屋敷を駆け出します。


 一方、別行動を取っていたどろろは橋の下でストリートチルドレンの助六と知り合います。助六はばんもんの向こう側から来た少年で、いくさの最中にこちら側の陣営に紛れ込んでしまって家族の居る自分の家に帰れなくなってしまったと嘆きます。

 彼を無事自分の家に送り届けてやると息巻くどろろ。ばんもんを挟んで藩同士の争いが始まりその最中に助六をばんもんの向こう側に向かわす事に成功しますがどろろは侍たちに捕まってしまいます。

 先日同じ場所で殺された少年たちのようにばんもんの前に縛り上げられるどろろ。すると隣に見覚えのある浮浪児の声が響きます。「助六、おっかちゃんに会えたかー」どろろが訊ねると助六の口から衝撃の告白が。

「おっかぁは死んでた!!おとっちゃんも殺されてうちも焼かれちまってなんにもねえやい。なーんにも……」

 涙に暮れる助六をどろろは精一杯励ましますが、多宝丸を総隊長とした侍軍が彼らを作戦を妨害した罪人である、と難癖をつけて処刑を始めます。

 ばんもんの端から順に矢で射殺される平民たち。「百鬼丸はやくきてくれー!!」という読者の叫びもむなしく「おっかあ」と叫びながら助六は喉元を矢で射抜かれます。

 作中で若干の躊躇はあるものの、容赦なく老若男女を殺していく多宝丸軍。生まれてからなにひとつ楽しいことを知らずに家族が皆殺された真実を突きつけられて絶望しながら死んでいった助六の凄惨な死は胸に訴えかけるものがあります。

 どろろの殺し順になってやっと現れた百鬼丸。「おせーよホセ 」といわんばかりにきさまにはもうがまんができん!!と馬の上で刀を抜く多宝丸。どろろを助け出し、連中の作戦を妨害したという罪状で藩の合法的に百鬼丸を殺害しようと企てる多宝丸の刀が斬り合いになった百鬼丸の刀をへし折ります。

 これには“元無敵”の百鬼丸をおおっと目を剥きます。力では多宝丸の方が上。しかし勝機を焦った多宝丸に百鬼丸の妙技が炸裂し、ふたりは真昼の太陽にじりじりと照らされながら手負いの中、罵りあいを始めます。


●避けられなかった兄弟殺し

「あのふたりは血をわけた兄弟なのだぞっ!!」

 息子ふたりの決闘を耳にして馬を走らせる醍醐景光。利き腕を負傷した多宝丸はにらみ合う百鬼丸に対して呪詛のように「ノライヌ」と唱え続けています。

 人を四つ足呼ばわりするのは放送コードに引っ掛かります。再アニメ化の時にこの場面がどう修正されるか、興味があります。

 目を血ばらせて「そのあつたいをつく口も いまにきけなくしてやらあ」と殺る気全開の百鬼丸。すると何者かが百鬼丸の心の中に呼びかけます。

「百鬼丸聞けっその相手はおまえの弟だぞ」声の主である妖狐の囁きにうろたえる百鬼丸。そして「醍醐景光はおまえの父親なのだぞ!!」と告げて高笑いをあげる妖狐。

 今風に言えばBGMとして三浦大地の『excite』が流れ「それ以上言うなー!」と仲間が駆け寄ってきそうな妖狐による暴かれしtruth。

 しかし状況は差し迫り、これを勝機と見た多宝丸の刃が近づきます。

「そうだ おまえは弟を殺せまい」

 妖狐のあざけ笑いをかき消すような叫び声が辺りに響き、斬り合った後に音も無く倒れた多宝丸。

――やってしまった。妖狐がそう告げなければ百鬼丸は何のためらいも持たずに多宝丸を殺害したでしょう。それが妖狐のリークにより多宝丸が百鬼丸の弟である事が知らされた。

 失われた命は戻る事なく、百鬼丸は今後もこの少年漫画のタブーである『兄弟殺し』に心を痛めていく事となります。

「多宝丸といったな。もう一度目を開けておれの顔を見ろ。おれはな、きさまのあにきだよ……もっと話したかったぜ」

     


     

 顔を近づけて優しく弟に語りかける百鬼丸。死の直前、閉じられていた多宝丸の右目が開きます。明言されていないので筆者の推測になりますが、妖怪を倒して体を取り戻していく百鬼丸と自らの死によって生まれつき開かなかった右目を取り戻した多宝丸の対比として描かれている儚いワンカットです。

 その後、妖狐の本体を倒し、勝利報酬として鼻を手に入れる百鬼丸。世界中の匂いが全部鼻に入ってくるような全能感を堪能した後、ふたつの藩を隔てるようにして反り立っていたばんもんを圧し崩し、両方の町に平和が訪れます。


●まとめに

 体の一部を取り戻してもどろろと百鬼丸の旅は続き、息子が殺された事を知った醍醐景光はこの一件に激高して藩を挙げて包囲網を敷いて、『兄弟殺し』をした百鬼丸は見ていて気の毒なほど精神的に落ち込んでいきます。

 容赦なく、ほぼ無秩序に大量の人々が人が殺され身内さえも手に掛けてしまう『ばんもんの巻』という一切の救済が無いこのお話。普段見かける手塚氏のコミカルで親しみのある絵柄がこの殺人描写の多い『どろろ』では更に淡々とした恐怖感を読者に植えつけて心を蝕んでいきます。

 戦国の世において米ひとつ分より軽い平民の命。鬱蒼とした世界を垣間見た体験により、今自分が生きていられる事のありがたみを得た気がします。


『どろろ』総評価

おススメ度

★★☆☆☆

欝度

★★★★★

読みやすさ

★★★★★


今回も長くなってしまいすいませんでした。

 今回はこの辺りで失礼します。


       

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Neetsha