Neetel Inside 文芸新都
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次、どうぞー。という声と共に俺らは観覧車へと入っていった。
「キンチョーするな」
「うん」
小さい箱の中で二人は不揃いの呼吸を繰り返す。
息遣いが聞こえる。すー……すー……。
息遣いに紛れて俺の心臓の音が。ヤバい。すげードキドキしてるかも。
「ーーあのね」
「あ、うん?」
真理子と視線が合う。そして体温へと流れ込んで溶ける。
溶けて……溶けて。

ガコン。
なんの音?
ガ、ガ。
「え?」
待ち望んでいた夕日がもう目の前にある。
大きな夕日が口を開けて嬉しそうに待っている。
早く、こっちにおいでー。
誰にも見られないように静かに手招きを降る。
(なんで、夕日が目の前に?)
(なんでだと思う?)
ガコン。
観覧車が揺れる。揺れてそのままずっと回り続ける。がり。がり。がり。がり。がり。がり。がり。観覧車は? 観覧車はどこに? がり。どこに行く?
(下に行くんだよ。)
がり。がり。がり。がり。真理子はずっと泣いている。どうして泣いているのか俺には分からなかった。がり。どうか真理子泣かないで。真理子。がり。がり。がり。がり……。
「あ…」

夕日が逆さまだ。

ぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅり。浮遊感が一気に襲ってくる。見ていた景色が浮かんでいく。どこに? もしかして、下? ぎゅりぎゅりぎゅり。橙の空が瞬く間に白へと飲み込まれていく。悲鳴。おちている? なんで? なんで。落ちる。落ちる。落ちる、落ちる、落ちる! 落ち、目、目が、目。目。目。目。目。目。目。目。目。目。目。ぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅりぎゅり。真理子はまだ泣いている。あぁ、そうか。俺ら、死ぬんだ。だから真理子泣いていたのか。あはは。は、ははは。真理子が死ぬとき、悲しんでやらないといけないのになんで悲しくならないんだ? あーあ、俺って薄情! あっはっはっはっは…………。
……そっかー、死ぬのか。
急に虚しくなってきた。まだ生きてしたいことが山ほどあったのに。
幸広にどんな顔して天国で待たなくちゃいけないんだろうか。
真理子もそうだ。真理子が死んだ後に一番悲しんであげないといけないのに。
本当、俺ってサイテーな人間だな。
どうか、どうか、神様がいるんだったら、真理子と幸広だけは幸せにしてあげてください。
俺は別に死んでもいい。だから神様! ーー…って、神様がいたらこんなことになっているわけないか。ははは。
……。
あーあ。俺も幸せになりたかったなぁー……。


       

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