最悪の罠

◆ボルトリックの迷宮 B?F

最初に目が覚めたのはケーゴだった。

◆ケーゴ

真っ暗な中、身を横たえている。
遥か上に星空のような瞬きが見える。
暫くは自分の置かれた状況が分からなかった。

思い出せば赤面物の失態だ。
カーパー戦に続いて、また役に立たなかった。
追い詰められて判断を誤り、薬物過剰摂取からのショックで昏倒してしまったのだ。
ガザミも倒され、フォーゲンも一度はやられていたらしい。
その間に、ねーちゃんが上手い事やって、ホワイト・ハットが敵を倒し、そしてホールの底が抜けて、今に至るんだ。

「マジか……」

これは凹む。くそ!と左腕を振り上げ、床を叩こうとして、柔らかいものをぽよよんっと殴った。

手で探る……ああ、これはおっぱいだ。
ねーちゃんのおっぱいだ。
そうだ、一緒に落ちたんだから、近くに皆がいるはずだ。
すると右隣には……外骨格に触れる。うん、ガザミだ。
これは膝か?こっちが腰か?

「……」

スケベ心ではなく、純粋な探求心からガザミの股間付近を弄る。
いや、どうなってるのかなーって……。
外骨格の下に張りのある筋肉質な柔肌がある。
そうか……外骨格がパンツみたいになってるんだな?
どこかで開閉できる筋と繋がっているのか。
つまり……ここに指を潜り込ませると……。

「うっ……」

ガザミが声を上げたので、「うおお!!」と声を上げ慌てて手を引っ込める。
暫く頭を抱えて息を殺す……大丈夫だ。問題ない。

「火を……」

右手を伸ばし、指先の感覚だけを頼りに自分の荷物を探り当て、そのポケットを漁る。
左手ではねーちゃんのおっぱいを触り続けていた。謎の安心感がある。

「たしかここに……火種が……あった!」

ぼわっ。と闇に明かりが灯る。
音も吸い込まれそうな闇の壁に囲まれている。
火種の明かりを頼りに松明をさがし、火を付けた。

光の届く範囲内には壁が見えない。
天井からスライム上に黒い泥土が垂れてきて、床にトロトロと溜まりを造っている。

左隣にはねーちゃん。右隣にはガザミ。それぞれ仰向けに身を横たえていて、足元には胡坐をかいた形で寝ているフォーゲン、ねーちゃんの向こうにはホワイト・ハットがうつ伏せに倒れていた。

「……ガモと壁ちんちん男は……いた」

モブナルドは個人的にまだ知り合いではない。
今後も、俺の中で彼はずっと「壁のちんちん男」だろう。
「恐怖!壁から生まれた勃起射精男」でも良いかもしれない。もはやモンスターの域だ。

二人は少し離れた所で倒れていた。
ガモはモブナルドを蹴落とそうとする姿でひっくり返っており、全裸のモブナルドはガモのパンツを膝下までズリ下ろしたまま失神していた。ガモの股間は起立している。

見てはいけないものを見た気がして視線を外し、口直しにねーちゃんを照らし見る。
少人数で密閉空間に身を置くという特殊な環境が作用しているのかもしれないが、今では何か凄く近しい相手であるような気がする。
肌の上に乗っかってるだけの破れた衣装をヒョイと持ち上げてその下を見る。そう、こんな事も出来るくらい親しい相手だ。
所々赤みがさしていたり、体液が乾いて白くなってる跡があったり、まだ濡れて光っていたり……。
股間にパワーが集中してしまい、あの亀男達に暴行された跡を性的に見てしまうのを嫌悪して、服をきちんと掛けなおした。

ふーっと一息ついてから立ち上がり、高々と松明を掲げて上を見る。
天井は見えない。
星空のように見えていたのは、本当に地上まで抜けているのではなく、おそらくヒカリゴケか何かだろう。
息苦しさはない。
松明の揺らめきで、風の流れがある事を知る。
窒息の心配はなさそうだ。

「……あ、ヤッベ」

そこで初めて、この場に可燃性のガス溜まりがあった可能性を考える。
特に何も考えず、闇を恐れて火を付けたが、そこでドカンといってたら大変なことになっていた。
これもまたミスだ。でも、同じ失敗をくりかえさないと心に誓う。
俺はこのダンジョン探索を糧にするんだ。
失敗に凹んでるだけじゃダメだ。成長するんだ。

イメージだ。イメージを持て……。
戦いしか知らなそうな戦士達を連れて、トレジャーハンターケーゴは迷宮に足を踏み入れる。
不用意に松明に火をつけようとする年配男性を制し、ガスの可能性を指摘する……。フフフ、いいぞ。
そこで仮想の戦士に「匂いが無いから大丈夫だ」と反論された。俺も反論する。無臭の可燃性ガスもあると。
じゃあそれをどうやって探るんだ?いつまでも火をつけられないじゃないかと言われて、確かにそうだと首をひねる。
……よし、これは次のダンジョンまでの課題にしよう。

出来ることをしよう。出来ることを増やしていこう。
共用の荷物を漁り、調理セットを取り出すと、せっせと調理を始める。
皆が起きた時に、振る舞えるようにだ。
下っ端の仕事みたいでカッコ悪いが、もう俺には変な見栄はない。
このパーティーのために頑張ろう。仲間のために何かをしよう。
それが、例えばこの調理なのだ。

「フッ……いい匂いをさせているな……」

フォーゲンが目を覚ました。
「おつかれさまです」なんて言いそうになって、下っ端だけど下っ端根性はよくないな、と思い直す。

「先に起きたから作ってたんだ」
「……頂こう……」

周囲を見渡し、状況の把握をしている。
そして彼も何とはなしにシャーロットのおっぱいを触った。
俺は見て見ぬフリをした。

次いでガザミが起き、ガモが起きてモブナルドを蹴とばしパンツを引き上げ、蹴られたモブナルドが跳ね上がって大奇声を発し、その奇声でホワイト・ハットが目を覚ます。
ねーちゃんだけは眠り続けていた。

「皆さんはボクが怪我を癒して起こしましたが、お姉さんの疲労は回復してないですから……」

魔法少年は眠り続ける女戦士にヘコヘコと這い寄り、おっぱいを触った。
回復の魔法とかじゃなくてただ触っているだけだ。
ガザミがパカッといい音を立てて少年の頭に拳骨を落とす。
ぐおおおおお!と蹲るホワイト・ハット。スゲー痛そうだ……少し機嫌の悪そうなガザミさんに酒と肉を献上する。

「まあ寝かせておこうぜ。どうする?先に周囲だけでも探索するか?」
「フッ……リーダーが動けない以上、探索をするなら戦力を分散せねばならなくなる。得策ではあるまい……」
「やだああああああああああ!!!暗いところはやだあああああああああああ!一刻も早くお家にかえしてええええええええええええええええええ!!!」

突然大音響で騒ぎ出したモブナルドをガザミが睨みつけ、失禁させる程に心胆寒からしめ、黙らせる。
怖い……。ガザミマジ怖い……。

皆で軽食を食べる。実時間は分からないが、順番としては夕餉時だ。
今日はここまでとして、キャンプしようとの結論に達した。

そうと決まれば中央に焚火を起こし、テントの設置に動く。
ねーちゃんの分も俺がやる。
皆あまりしゃべらず黙々と作業を進める。
特にガザミは敗北を引きずっている様子で、それでイライラしているのだろうか。時々「くそっ!」とか「ちっ!」とかそんな呟きが聞こえてくる。
ガモは機材をチェックしている……ボルトリックと会話が出来ているらしく、ボソボソと陰気な声で話している。

重苦しい雰囲気だ。

考えてみれば、どれ程落ちてきたかもわからない、何処にいるかもわからない、そんな状況なのだ。
帰れる保証が無いじゃないか──!?
そう考えると急に心細くなってきた。
皆もそんな圧迫感に焦れているのかもしれない。

食べ物をもってねーちゃんのテントに行く。覗き込むが、起きる気配はない。
まさかこのまま死んじゃうとかないよな?
不安が不安を呼ぶ、そっと近寄り、傍らに腰を下ろす。
顔色は良いし、呼吸もしっかりしてる。当たり前だが安心した。
ガザミが着せたのだろう、替えが無かったからか、破れた服のままだった。

「……」

不安で顔を見に来た、というのもなんかスゲーカッコ悪いが。
安心したらムラムラしてきたというのもかなりカッコ悪い。
どうしたんだ俺は?このダンジョンに来てから変だぞ?
アレか?これも密室のせいか?
うん、そうかもしれないな。
そうにちがいない。
ツリバシナントカってヤツだ。きっとそうだ。

ねーちゃんの肌に手が引き寄せられる。
そう言えばキスしたら目覚めるとか。なんかそんな伝承あったよな?

「オイ。今は寝かせておいてやんな」

ガザミだああああああああああああああああああああ!?
入り口にガザミがいるぅううううううううううううううううううぇ!?うぇw

「フッ。いたんですかガザミさん」
「……目覚めてやしねーかと思って来たんだけどな」

人間本当に後ろめたいと真顔になるのだと、そして少し笑っちゃいそうになるのだと、学んだ。
ガザミも手に食事を持っていた。
そうか、この二人は俺達より付き合いが長いんだ。

「ガザミさんが…」
「ガザミでいい」
「ガザミが……ダンジョンの奥にスゲー奴がいるって言ってたのは……あいつ等だったのかな?」
「……どうかな。そんな気がしてるが、そうじゃない気もしてる」

お前は?と質問を返された。

「俺は……この先にまだ何かがある気がしてるんだ。でも、我儘に付き合わせて、ねーちゃんは今こんな感じだ……」
「冒険者なんてエゴイストでいいって言っただろ。そもそも、お前一人の都合でここにいるんじゃねぇよ。それが一因だったとしても、リーダーが……いや、全員で決めた事だ」

会話が途切れる。
俺はガザミにどんな答えを期待していたのか。
わかってる。「気にするな!」「行こうぜ!」と、背中を押して欲しかったんだ。
でも、それは卑怯な気がした。
そして、目が開けた。
この状況から、皆で地上に戻る。その為に死力を尽くす。
それこそが俺の求めていた「宝」だ。
俺が欲しかった「自信」だ。

目の覚めるような財宝とか、世界の不思議とか。
そんな物はオマケに過ぎない。
拳を握りしめて立ち上がった。

「ここからは帰還が目標でいいよな?!」
「……と言うかだな、ケーゴ」

ガザミは咳ばらいを一つ挟んだ。

「もうアタシ達には進む以外に道がないんだぜ?」




◆ボルトリックの迷宮 B?F 5日目(?)

翌朝(仮)になってもねーちゃんは目覚めなかった。
ガザミがそうしろと言うので、朝餉後に皆を集め、俺がリーダー代行として挨拶をする。

「ねーちゃんのダメージは深そうだし、ここから先は帰還を目標として行動したいんだ」
「フッ……」
「そうですね。それでいいんじゃないでしょうか……」

特に反対する意見はない。というか、フォーゲンもホワイト・ハットも特に意見を持ち合わせていないようだった。
今から砂時計で時間を記録する事に決め、現在を朝七時とし、午前中はこの地の底から這い上がる術を見つけようと務めた。
俺達が寝ていたのは、半径20メートルもの空間だった。
壁は絶えず粘り気の強い黒泥(?)が流れ落ちてきていて、上るのは不可能だと分かる。
床のどこかに穴が開いているのだろう、流れ落ちてくる黒泥に部屋が侵食される様子はない。

こちらに進めと言わんばかりに、通路が真北へ続いている。
やはり行くしかない。
休憩後、再び皆の前に立つ。

「……という訳で、先に進んで帰りの手立てを見つけようと思う。そこの通路を進むしかない。ねーちゃんとキャンプは守らないといけないから、二手に分かれよう。俺は探索側にはいる」
「ボクが残るよ。お姉さんを守らないといけないからね……」
「私も残りますよ」

ホワイト・ハットがシャーロットと荷物の番を名乗り出る。
モブナルドがどさくさに紛れに便乗する。

「……俺も残る」

ガモも行かないと言い出した。

「ほら、リーダー。どうするんだよ」

ガザミに背中を叩かれる。意見を取り纏めるのが俺の仕事だ。
何かに襲われたら、俺達は走って逃げればいい。
このキャンプは死守しなければならない、フォーゲンはここに残すべきだろう。
ガモは元々、非戦闘員として同行しているのだから、戦力と考えてはいけない。

「じゃあ、ホワイト・ハットとフォーゲン、ガモは残りで。俺とガザミと壁……モブナルドは、探索組な」

3─3にフォーメーションを組む。
ガザミは事前に睨みを利かせ、モブナルドの悲鳴を封じていた。
戦力の分散に失敗していたら、パーティーメンバーの命が脅かされる事になる。その責任がのしかかってくる。
リーダーって辛い仕事なんだな……ねーちゃん、我儘いってゴメン。
各自荷物をまとめて洞穴前に集合する。
全裸だったモブナルドはガモの衣服を借り、武器はおろか荷物は一切持たずの何しに行くんだスタイルで、死にそうな顔しながらガザミの隣に立っていた。

「よし。いくか!」

キャンプをサブリーダのフォーゲンに託し、帰還への一歩を踏み出す。
謎の高揚感、そして使命感に奮い立つ。

「ガザミ、イザとなったら逃げの一手で」
「まあ仕方ないか。所で本当にコレ(モブナルド)を連れていくのか?」
「目の届かないところに置いておくと、なんかやらかしそうで怖いからさ……」
「あ。なるほど……」

泥壁の洞窟は、いつどこで天井が崩れるかも、底が抜けるかもわからない。
生き埋めになれば確実に死ぬ。
モブナルドは帰りましょうよ、帰りましょうよと呟き続けている。
気持ちは分かるが……ねーちゃんならどうしただろうか?皆をやたらに不安にさせるからやめろ!と叱るに違いない。

「うるせぇ」

ガザミがピシャリと黙らせた。
泥の通路を抜けると、そこは別世界だった。

肌紅色の壁が蠕動し、脈打ち、目の覚めるようなオレンジ、青、紫、緑……原色をちりばめた海洋植物状の何かが揺らめいている。
まるで海底にいるみたいだ。
事実、タツノオトシゴのデカいやつみたいなのが宙を泳いでいる。こちらを襲ってくる気配はない。
そこかしこの構造物がゆったりと呼吸をしていて、その度に淡く発光していた。

幻想的だ。あまりに幻夢的なので、実は俺達は死んでいて、幽界に来てしまったのかと思ったほどだ。

「スゲェ……」
「なんだ。なかなかいい所じゃないですか。婚約者を連れてきてもいいかもしれませんね!ほら!これなんか凄く……」

モブナルドが踊るように駆け出し、壁際でくねくねっとしてる、奇麗に光るチンアナゴ様の何かを掴んだ。
刹那、大量に生え出したチンアナゴ(仮)がモブナルドに巻き付き、包み、そのまま壁へと引き込む。

「あ」

という間に脈動する壁の中に消えたモブナルド。
そして波間に浮かぶように再浮上し顔だけをだした。無表情だ。

「お、オイ……」

ガザミが腫物に触るように、恐る恐る声をかける。

「……」

モブナルドは無表情のままだ。

「……ケーゴ、お前リーダーだろ!なんとかしろ!」
「おい……モブ……」

手を伸ばして触れようとした途端、その目はカッと開かれ、鼻の穴は広がり、顎よ外れよと言わんばかりに開口した。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああお!!!」
「うわあああああああああああああ!!!!?」

地を揺るがす音響兵器を思わせる勢いで叫び出し、白目をむいてガクガクと振動を始める。痙攣じゃない。振動だ。
壁全体がモブナルドを揺すっているんだ。
唾と涙と鼻汁が飛び散るのと、怖いのとでとてもじゃないが近寄れない。
だがこれは異常だ。危険だ。助け出さねばならないが、引きずり込まれる恐れがある。

「おああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

助けてくれと言っているのか。
ガザミは俺よりももっと壁から身を遠ざけている。
判断だ!リーダーとしての判断が求められている局面だ!

「ほああああああああああああああおアおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」

ビクンビクンと跳ねるモブナルドの顔。
そこで状況が変化した。
一本の棒のように、ビシッ!と気を付けをして背筋を伸ばした全裸のモブナルドが壁からズブズブと膝までせり出してくる。
子供心になんの脅威も感じないサイズの勃起ペニスから、ぴゅ!ぴゅ!と精を飛ばす。
そしてまた壁に逆再生で引き込まれていく。
床にまき散らされた精が床に溶けるように消えていくのを見て、この壁は彼の全身に性的な刺激を与え、精を搾り取り、養分としているのだと仮説を立てた。
これはマズい!

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

見苦しさが凄いが、鬼気迫る表情もまたすごい。
緊迫感は亀男たちと戦った時と同等レベルにまで跳ね上がっている。
ねーちゃんの木馬とか、可愛いものだったのだと改めて思い知らされる。
考えろ!仲間を救う手立てを!考えろ──!

「そうだ!ロープだ!次にモブナルドが出て来たら投げ輪で引っかけて引っ張るんだ!」
「あいよ!」

ガザミは素早くロープを取り出し、輪を作る。
それを受け取り、モブナルドの次の射出を待つ。

「ほああああああああああああああおアおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」

せり出してくるモブナルド。一定の呼吸で出たり入ったりを繰り返すようだ。
膝まで姿を晒すとまた精を飛ばし、逆再生が始まる。

「今だ!!!」

ロープを投げる。
外してパサリと床に落ちる。
手繰り寄せて構える。
モブナルドはすでに埋まっていて、休止期(無表情期)になっている。
次こそは決める!

「おあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

次のサイクルが始まった。
絶対に引き込まれるわけにはいかない!
どうしてもぺっぴり腰になる。

「ほああああああああああああああおアおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」

三度目のせり出した。今度こそ!

「そこだぁ!!!!」

ロープを投げる。
外してパサリと床に落ちる。

「うわああああああああああああああ!!!!」

もう俺は大パニックに陥っていた。
こんな状態では、いつモブナルドが息を引き取ってもおかしくない。
見た目も最悪だが、それ以上に苦しいはずだ。
焦りに焦って正常な判断が出来ない。
くそ!こんな時のための聡明薬だったのに、全部使ってしまった。

ガザミにやってくれと頼もうと思った。
次を外したら頼もう……!そうだ!そうしよう!!!
精神的圧迫感の少ない無表情期に、こちらも呼吸を整える。
カッとモブナルドの顔の開けるところが全部開いた。ゴゴゴ……とせり出してくる。

「おあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


これがラストチャンスだ……!
落ち着くんだケーゴ!これは乗り越えられる試練だ!俺は出来る!

「南無三!!!」

輪はモブナルドの頭を捉える。

「よし!引け!」

ガザミがロープを引くと、モブナルドの首が……。

「しまったあ!!!!」

このままでは死んでしまう。モブナルドの首に触れてロープを解こうとした。
咄嗟に身体が動いてしまった。
なぜモブナルドがせり出してきていたのか。
一度捉えた得物を、その三分の二が出る程にまでリリースするのか。

これは生き餌だ。
助けようとする仲間を捉えるための生餌だ。
大量のチンアナゴ(仮)が壁から飛び出す。
恐怖戦慄した。
俺も、モブナルドの様に!?

「いやだあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

泳いだ。触手の海を。
叫んだ。力の限り。
手を伸ばした。腰が引けてるガザミに。

「ちっ!」

ガザミが俺に触れる。
それはつまり、また新たな得物が引っかかった事を意味した。