Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ノベル『ボルトリックの迷宮』
ミシュガルド温泉

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ミシュガルド温泉!

それは交易所から北東に位置する森に突如湧き出した温泉である。
何故、火山帯でもないこの場所で温泉が湧いたのはまったくの不明であるが、未知の大陸であるから、何が起きてもおかしくないだろうの精神で、SHWの物好き達が出資して、温泉宿を建築させた結果、亜人専用スペースや人間専用スペースも備えた人気スポットとなった。
その湯の効能は、神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、などに効くと言われている。
どこまでが真実かは不明だが、それは体を温め、血行を促進する以上の効果が望めることは間違いないらしかった。
余談だが、催淫効果のある温泉も湧いているらしい。
このミシュガルド温泉では未だに、未知の効能を備えた新たな温泉が湧くことがある。
(ミシュガルド合同調査報告所・第二調書より)


◆ミシュガルド温泉

ミシュガルド温泉は偶然にも、ボルトリックの迷宮(交易所から北に半日程)から、そう遠くない位置にあった。
馬車が走ったのは3時間ほどだろうか、まだ日が出ている時間帯に到着する。
宿の手配、宴会場の手配、そして温泉の手配は全てボルトリックが済ませてくれた。
『ボルトリック御一行様』と、なんかイヤな感じの団体名で登録されていたのは、この際我慢するとしましょう。

「ようこそお越しくださいました」

女性従業員の案内に従って施設の廊下を歩く。清潔感があり、静養にもってこいな印象だが、窓の外には大小さまざまな露天が見えていて、楽しげだけど覗き放題なのはマイナスポイントだ。
フォーゲンとガモが身体を窓側に傾かせて歩いてるのが恥ずかしい。
その点ケーゴは偉い!覗きとかしないでちゃんと正面を向いている。

「こんな処が交易所の結構近くにあるなんて知らなかったな。ケーゴは知ってた?」

彼に話しかけて、その目付きが険しいことに気付いた。
顔を上げて見れば、甲皇国の軍服を来た一団がすれ違う動線上を歩いてきていた。
ニヤニヤとした揶揄の視線が私を捕らえている。ケーゴではない、私だ。
ボルトリックの元を訪れていた軍人の嫌な目つきを思い出す。彼らとはあまり関わりたくない。
私を守る構えを見せてくれたケーゴの頭を抱き、強引に窓外に向けさせた。

「ほらほら!あそこなんて間欠泉になってるじゃない!」

フォーゲンとガモは窓の外に好みの裸体でも見つけたかで、窓に顔を貼り付けてだらしない顔をしている。
ホワイト・ハットはフォーゲンのコートにしがみついて遊んでいるし、ガザミは上機嫌に酒瓶を呷っていて、彼らに気付いていない。このまま何事もなくすれ違う。

不意に、若い軍人が酔っているからふらついたような動きをして私に抱きつき、お尻を鷲掴みにして、顔を寄せて胸元の匂いを嗅いできた。

「ちょ……!」

彼の胸板を押し返す。
ヘラヘラしながら謝りもせずに一団に戻った痴漢男は、仲間達にヒューヒュー言われなから、祝福されるように叩かれ、「マジだったw」とか何とか言って盛り上がっていた。そのまま廊下を歩いていく。

「ねーちゃん……」

険しい表情のケーゴが心配して見上げてくる。彼の中では看過できない事態だったのだろう、その口角をスマイルスマイルと人差し指で持ち上げた。

「喧嘩しても負けないけど、アイツ達頭おかしいからね。ありがとうケーゴ」
「んん?何かあったのか?」

怒ってくれたケーゴを嬉しく思いつつ、振り返ったガザミには何でもないと伝えた。これから楽しい打ち上げなんだから、あんな奴等に関わる必要はないのだ。


「本日、この悦びの湯は、皆さまの貸し切りとなっております。どうぞごゆるりとお寛ぎくださいませ」

案内された温泉は豪勢な別館にあり、貸し切りとなっていた。
かなり質の良い造りをしていて、真新しさもあり、日頃からVIPのみが利用している温泉なのか、最近出来た温泉であるのか、そのどちらかだろうと思われた。
勿論混浴となっている。
傭兵団育ちの私にはさして高いハードルではないが、だからといって恥ずかしくないわけではなく、ケーゴ、フォーゲン、ガモ(ホワイト・ハットはおこちゃまなので除外)に裸を見せる事に対しての緊張や抵抗に若干身じろぎした。

「と、とりあえず……入ろうか?」

皆はダンジョンの扉を開けるときと同等の緊張感を漂わせ、コックリと頷いた。


◆ボルトリック

ボルトリックの「見るエロ作品」を視聴して、ミシュガルドにおける前線基地の運営環境並びに慰労等を管理する役職の甲皇国軍人ジャン=ピエール・ロンズデールは感動の涙を流しながら叫んだ。

これは素晴らしい!
この映像で見る物語というものは、兵士の慰安のみならず、甲皇国軍の理念啓蒙にも大いに役立つ、恐るべき発明である!
「映画」と名付けてはどうだろうか!
これは世界を席巻するメディアとなるだろう!
貴方は歴史に名を残すことになる!

予想を遥かに上回る理解を示して賛美の声を送り、甲皇国軍内における流通及び最新映像機材の提供を申し出てくれたロンズデールだが、それには注文がついていた。
「必ず、本番行為を盛り込んでほしい」と。
「エロとグロこそ、見るものの心に刺さるようなリアルな映像作品となるのだ」と。

「ボルトリックの見るエロシリーズ」は早々と2本を出荷していた。
寝ずに編集した「迷宮第一層編」と「迷宮第二層編」である。
既に数回の上映会を開き、特に若い兵士に受けが良いと聞く。
ロンズデールが兵士達の意見を取りまとめ、次回以降の参考にして欲しいと送ってきた書簡には、以下の言葉が並ぶ。

・もっと小柄で可愛い女優がいい。
・もっと綺麗な女優がいい。出来るのなら甲皇国の女性が良い。
・多少ブスな方がエロさが際立つから女優はこれでもいいが、本番シーンがないと使えない。
・本番シーンがない。本番シーンがほしい。
・暴力が足りない。泣きわめく女を押さえつけて無理やりするくらいが望ましい。
・SHWの女や亜人を使って純愛されても困る。レイプものが望ましい。
・男優の「サイズ」が小さいのではないか。
・そもそも男優が草食すぎるのではないか。
・俺を男優に使ってほしい。

実に清々しい意見だ。
ボルトリックは視聴者の熱意に胸を打たれ、亀頭が熱くなる思いであったのだが、現在編集中の3作品目でも本番行為には至っていない事にも焦りを覚えた。
甲皇国軍とのごん太のパイプを手に入れ、後の世に巨匠として名を残すかどうかの瀬戸際である。
こうなれば、迷宮攻略パーティーが解散するまでに本番行為を誘発して記録に収めようとの結論に達した。

そこで思い浮かんだのがミシュガルド温泉の存在である。
出資者の一人であるボルトリックの力と意向が施設の隅から隅まで、おはようからお休みまで及ぶ、まさに第二のボルトリックダンジョンであった。
ダンジョン攻略から戻った彼女等をどう温泉宿へ導くか……それを悩んでいたのだが、驚くべきことに女の方から「温泉に行きたい」と言い出した。
天もこのエロ界の麒麟児・ボルトリック・マラーの勝利を望んでいるのだ。

商隊を急がせ、自ら馬に鞭を振るい、まだ日のあるうちに温泉へと到着すると、ボルトリックは温泉宿に怒鳴り込み、商売女を3人は抱きながら、一般公開していない催淫の湯を押さえさせ、施設の入り口から廊下から、温泉、宴会場、宿泊個室、その隅々に至るまでの全てに複数の小型映像記録装置を仕込ませ、宿の従業員には「これから行くお客さんの乱交を強力にバックアップしろ」と厳命して、ガモには最新のハンディ映像記録装置を渡した。
最悪の場合を想定し、男優志望の甲皇国軍人を呼び寄せて、「どんな形であれ必ず本番行為を撮影する悪魔のプラン」が完成する。

シャーロット達が寝泊まりする隣室に、複数のモニター・各種受信機・編集用機材を持ち込み、巨大ロボットの操縦システムを彷彿とさせる座席に収まって、「ボルトリック・マラー、行けます!」と親指を立てて見せた奴隷商人は、既に己の勝利を確信していた。

◆ミシュガルド温泉 催淫の湯

それは綺麗な露天の湯殿だった。
あたり一面、庭園風に整備された中に、美しい温泉が沸いている。
新築木造の東屋は脱衣処となっている他、大きな姿見鏡や、休憩用のソファーやベッド、遊技台なども添え付けてある憩いのスペースとなっていた。
見れば、柱、床、天井、洗い場、温泉の底に、それ自体がキラキラと輝く宝石が埋め込まれている。
テーブルには、黄金の呼び鈴や氷で冷やされた高級酒、ミシュガルド温泉銘菓なる甘味とフルーツの盛り合わせが置かれていた。

「すっげ……」

ケーゴが服を着たまま洗い場に降りていき、温泉を覗き込む。商人の子である彼には、よりリアルに資産価値が分かるのだろう。

「ルームサービスに母乳はないのでしょうか……」
「フッ……これを貸切か……」
「あの豚野郎、どんだけ金持ってんだ?」
「ボルトリックさんの実兄は、交易所の元締めジャフ・マラーだ……と言えば、あの人の凄さが少しはわかるか?」

そうだったのか。
ジャフ・マラーと言えば、私でも知らないようで知ってるような気がする有名人だ。

「そう言えばガモ。アンタ自尊心ちょー高そうなのに、ボルトリックに関しては結構従順なのはなんで?」
「なんだと……?」
「だってそうでしょ。ガモってば如何にも「奴に従っているのは金のためだ」みたいな反骨精神丸出しキャラのくせして、妙にあのおデブちゃんの肩をもつというか……もしかして実の親子とか……?」

ボルトリックがオークに産ませた子供がガモ。うん、絵的にはありそうな線だ。

「フン。お前のような女には分からんさ」

あ、なにその言い方。
抱かせろーなんて言ってたクセに。
皆の前で言ってやろうかと思ったけど、その後が怖いし、彼のプライドを考えてやめておく。
こんな所で喧嘩をするよりも、早く身体を洗いたい。
6日間も身体を洗えなかった私達の前に、沸き立ち煌めくお湯があるのだ。

「ほらほら!勿体無いから早く入りましょう」

全員を急き立て、タオルを手に間仕切りの奥へと入り、裸になるとそっと顔だけを出す。
皆その場でこっちを見ていた。

「な、なにしてるの!ほら!皆も!」

それでも皆は動かない。
恥ずかしがってる!?
タオルを胸元で把持して、前に垂らして下腹までを隠し、仕切りから姿を晒す。
一応、男性陣の皆様に慰労を兼ねてのサービスを、などと色気づき、片手でタオルを押さえつつ、バッサバサの髪を掻き上げてみせる。

帰ったら私をうんっと虐めてくれると言っていたケーゴは赤面して目を反らし気味になり、ガモも見ていない風にばっちり舐めるような視線を向けてきて、ホワイト・ハットは高めにぴょんぴょんし、フォーゲンは小さく「フッ……」とか言ってるけど目を爛々とさせていて、全然クールじゃなかった。
反応は上々なようだ。
皆のリアクションに気を良くした罪のない乙女は、この上もなく調子に乗って、御姫様ポーズっぽい何かを決めてみる。
それにイラっとしたのか、サッと寄ってきたガザミが、足の指を使ってタオルを掴み、そのまま私から雑に奪い取った。

「何やってんだよ」
「ち、ちょ!!!!」

全部曝け出されてしまい、慌ててその場にしゃがみ込む。

「それ!皆でリーダーの労ってやれ!」

ギャハハと笑うガザミの音頭で、皆が私を取り囲み、担ぎ上げる。
そのまま運ばれ、そーれ!の掛け声とともに、高々と温泉に投げ込まれた。
飛沫を上げて湯をくぐり、鼻と口から飲み込んで蒸せ、お湯を跳ね上げて顔を出す。

「シャーロット。リーダーお疲れさん!」
「フッ……やはり一番風呂は功労者でないとな」
「ねーちゃん、ありがとうな!」
「いいパーティーだったのではないでしょうか……」
「フン。まあ乗りかかった船だ。乱痴気騒ぎまでは付き合おう」

ガザミが酒盃を差し出してくる。今こそリーダーからの攻略終了の言葉を、という訳だ。
お湯の中から皆を見上げる。

「……皆、お疲れ様。今回は、この中の誰か一人でも欠けていたら、攻略できなかったんじゃないかと思っています」

ガザミは終始一貫して攻守に渡る要だった。
ケーゴは、閃きと勇気でピンチを脱する原動力になった。
ホワイト・ハットの魔法の力は欠かせないものだったし。
フォーゲンが居なければ、死人が出ていたかもわからない。
ガモは、途中まではゴネていたけど、最後の最後に重大な戦力になってくれた。

「ケーゴ、タオル頂戴……」

彼からタオルを受け取り、改めて胸元から下腹までを隠して立ち上がり、杯を掲げた。

「今回の報酬は、クリア報酬3000プラス日当500YEN6日分!6000YENの荒稼ぎ!」

皆の合いの手にも熱が入る。

「更に、この高そうな温泉も宿も、ぜんっぶガモのお父さん持ち!」

ちがうぞ!と返事してるガモを全員で笑う。

「今日は存分に楽しみましょう!」



それから──。
ガザミが飛び込んできたものの、男性陣は誰も裸にならず、東屋まで戻ってお酒やフルーツに手を出し始めていた。

「フッ……ほう。ナニナニ?甲皇国鉄鋼業の株価が……」
「なるほどな。桶屋が儲かるという訳か……」

フォーゲンが新聞紙を逆さに広げて小芝居を始め、ガモが隣で頷いていたりして、いつの間にかとても仲が良い。
ホワイト・ハットが呼び鈴を鳴らすと、温泉宿の職員がやってきて、え?母乳ですか?などと受け答えしている。
ケーゴは謎のストレッチを延々と続けており、全身の関節という関節をあらかた動かし終えると、顔ヨガまでして時間を稼ぎ、それすらも終わると、今度は姿見鏡に向かってシャドーボクシングを始めた。

ちょっとちょっと!温泉に入る気ないのー!?

「ガザミっ。あいつらも投げ込んでよっ」
「やなこった。お前がやりな~」

魚人のガザミにとって温泉は相当に心地いいのだろう、結構だらしない表情でくつろいでいる。そしてオッサン化して、チビリチビリとお酒を飲みつつ、鼻歌を歌い、水鉄砲で攻撃してくる。
東屋に飽きたホワイト・ハットが、裸になって可愛らしいちんちんも露にトコトコと洗い場を横切り、温泉にぽちゃんと浸かって、ガザミの水鉄砲を顔に受ける。

「このお湯……ガザミさんの母乳からお酒と肉の風味を抜いて薄くした感じの味ですね……」
「……忘れろ」
「肉とお酒ばっかり食べてるから、おっぱいがそんな味になっちゃうんじゃないの~?」
「うるせぇ!!」

おーこわ、と言いながらガザミの怒りを躱し、身体を洗うためにお湯から上がる。覚悟はしていたけれど、すぐさま男性陣の視線が飛んできた。

今私の裸を見ているのは、共にダンジョンに潜って生死を共にした、信頼と好意のある仲間達だ。
なので、私にとってこの状況は、居心地悪いものではなく、寧ろ彼らとのコミュニケーションの一環であって、すんごく恥ずかしいけれど、辱められているようなものではない、絶妙なバランスにあった。

いつ男子もお風呂に入ってきてくれるのか。
誰が隣に来てくれるのか。
誰が「奇麗だ」とか「素敵だ」とか話しかけてきてくれるのか。
誰が最初にその手で触れてくれるのか。
そんなドキドキを味わいつつ……あ、石鹸がない。

「ケーゴっ!」
「いっ!?お、俺!?」

タオルで肌を隠し、シャドーボクシングを続けていた彼を呼びつける。ケーゴは顔を赤くしながら、私の側までやってきた。その視線が、胸の谷間やお尻などに注がれる。

「……なんだよ」
「ごめんっ。ソープがないの、貰ってくれない?」

ケーゴはいそいそと東屋に戻り、黄金の呼び鈴を鳴らした。実は鳴らしてみたかった、と顔に書いてる。
やってきた女中さんが「承りました」と頭を下げ出ていくと、ほとんど間を置かずに全裸のイケメン男性が籠を手に浴室へと入ってきた。

「失礼します。お嬢様にお届け物に上がりました」

その身体は見せるために程よく鍛えられたスリムな筋肉で飾られている。全身に薄くオイルを塗っていて、裸像彫刻のようだ。
前から後ろに撫で付けられたオールバックの黒髪が、よりシュッとした印象を強くしていた。
彼は唖然とする男性陣の前を通り過ぎ、洗い場へ降りてこちらにやってくる。
私の目の高さで、その大きな男性器が揺れている。
目が泳ぐ。
ローズの香りを漂わせた彼は、すぐ側まで来ると歯を見せて微笑み、跪いて籠の中のシルクの布に包まれたピンク色のソープを差し出してくる。

「どうぞ。貴女の肌に合うといいのですが」
「あ……」

私は真っ赤になって声を失う。
そりゃ、お客様が裸なんだから、彼らも裸じゃないと失礼にあたるって、理屈はそうなんだろう。
温泉宿だから、女性に対する性的なサービスもあるんだろう。
初対面の素敵な男性が裸で微笑み、嫌味のない視線で私の身体を見て、逞しいペニスをググっと上向かせていくのだ。
それが完全に勃起するまで、他意なく釘付けになってしまう。

「お嬢様。宜しければお身体をお流しいたしましょうか?」
「え!?あ!」

こんな素敵な大人の男性に身体を洗ってもらったら、どうなってしまうかわからない。皆の前で初対面の彼に縋りついて抱いてと泣き叫ぶ恐れすらある。
しかし、そこは淑女な私。何とか断り、お礼を言って石鹸を受け取る。
彼が露天を立ち去ると、私は胸を抑えてその場に倒れ込んだ。
びっくりした。
まだ心臓がドキドキいってる。
暫くそのまま喘ぎ、なんとか平静を取り戻すと、改めて東屋のダメンズ3兄弟を見る。

目が合う。
一人の例外もなく慌てて左斜め上方へと目を逸らす。
私は、はぁーとため息を付いた。

「6日もお風呂入ってなくて結構匂いもするんだから、さっさとこっちきなさーい!」

彼等はしぶしぶ衝立の向こうに姿を消し、腰にタオルを巻いて再登場する。
3人の不自然に盛り上がった股間、あれは私の所為?そう思うと、悪い気はしなかった。

「ケーゴ。こっち!」

隣のスペースを叩いて彼を呼ぶ。
遠くに座って身体を洗い始めようとしてた彼は「いっ!?」と返事をした後、前屈みにやってきた。

「ちゃんと隅々まで綺麗に洗ってね」

そう言って彼にソープを手渡し、私も身体を洗い始める。
フォーゲンとガモは洗いもそこそこ、覗き込むように後ろを通って温泉へと入った。
ケーゴも身体を洗うのは言うほど好きではないらしく、私の目から見てぜんっぜん洗えていないのに、逃げるように湯船へ駆け込んだ。
皆に見守られながら身体の汚れを洗い流し、髪も洗って、水気を切る。
そうして、私もようやくお湯に浸かる。

全員で手を伸ばせば隣の相手に触れれる程度の円座を組む形になる。時計回りにガザミ、ホワイト・ハット、私、ケーゴ、フォーゲン、ガモだ。
お湯は乳白色に濁っていて、目を凝らさないと相手の肌は見えない。
何か共通の話題を探していると、フォーゲンが黄金の呼び鈴を取り出した。

「フッ……」

鈴の音が響くと、何処で聞いているのか不審に思うほどの速さで扉が開き、従業員が顔を出した。

「お呼びでしょうか?」
「フッ……」

コイツ……用もないのに呼んだな……。

「冷たいモノをお願いできます?」

仕方がないので私が咄嗟に用件を作る。「承りました」と答えた女性従業員が戻った後、また即座と言っていいタイミングで、グラスを手にした全裸の男性2人、女性4人が入ってくる。男性二人は私とガザミへ、そして女性四人は男性陣へと向かう。
ケーゴ、フォーゲン、ガモの首が伸びた。

「あ、そちらで結構です!」

飲み物を東屋に置くようにお願いし、全裸軍団にお引き取りを願った。

「フッ……だがこれでわかったぞ。俺達が何かを頼めば全裸の美女が来る……」
「ここは温泉宿だからな。追加料金を払えば……」
「フォーゲン。東屋から今の飲み物取ってきて……」

私は青年コンビの猥談を速攻で阻害した。
持ってこさせた冷たい飲み物を喉に通しながら、ダンジョンの思い出話を語り合う。

「そういえばさ、あのローパー!ケーゴがどうやって倒したのか、ちゃんと教えて!」
「ああ。あれね。カッコよかったね~ケーゴちゃんは」
「俺、最初はビビってたんだけど、覚悟決めたら見えたんだよね。全部。いや、集中力が増す薬みたいなの飲んだんだけど。そしたら凄かったんだ、こうやったらこう倒れるだろうとか、頭の中に浮かんできて。それで、実践すると本当に、触手の動きの一つ一つまで、想像通りなんだ。ガザミのつけた大穴に、鍵穴に鍵を差し込むみたいに剣が入っていってさ。そういえば、最後の馬男の斧を逸らした時は、今度は薬を飲んでないのにその感覚があってさ」

照れながらケーゴは身振り手振りを交えて説明を始めた。
大興奮で自分の冒険を振り返るその姿を茶化さずに、皆で声援を送る。ガモですらその輪の中にいた。
そうこうする内に緊張も和らいで、互いの距離も縮まり、多少の接触が増えて一体感が増してくる。

「じゃあケーゴ。ほら、アタシ達が知らない木馬の話をしてくれよ」
「ダメ!それはダメだからねケーゴ!」
「えー……あれは、ねーちゃんが……」
「コラ!ケーゴ!」


その時私達は、ボルトリックの仕掛けた罠がパーティーに忍び寄っているのだと、気付く由もなかったのである。
催淫の湯は、全員の身体と心を着実に犯していた。

       

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