Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ノベル『ボルトリックの迷宮』
乱交の湯

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◆ミシュガルド温泉 催淫の湯

皆で温泉に浸かりながらの雑談に花が咲く。
メンバーが和気藹々としているのは嬉しいけれど、花が咲いては困る話題なので、私は大慌てだ。
ケーゴが私の痴態をどんな風に語ってくれるのかは気になるけど、流石に怖くて黙って聞くことは出来なかった。

「ダメ!兎に角この話はダメ!」

リーダ権限で強制終了を命じる。

「リーダー。それは少し横暴なんじゃないのか~?」
「ダメ!」
「フッ……隠すほどのことはあるまい?」
「ダメったらダメ!」
「そうだ。醜聞だと思うなら、尚の事仲間と共有すべきだ。まあ俺は知っているんだがな」
「くっ……!け、ケーゴは私の味方だもんね!?」

ケーゴと見つめ合う。心が通じ合うかと思ったけど、なんか厳しい顔をしているような気がする。
あれ……?

「それでさ、ねーちゃんが自分で飛ぶって言って、2メートルくらい助走してから飛んだんだ。そしたら……それが罠だったんだよね。空中でこう、大きなお尻をこっちに向けて脚を広げた形で止まっちゃって……」
「ああ、あれは無様だったな」

ケーゴは悪戯っ子の顔をして、クツクツと笑うガモと話を合わせつつ、こちらを見ながら話し出した。
ええええ!?
ちょっとちょっとやめて!
そんなに私のエッチな場面をしゃべりたくて仕方がないの!?

「ケーゴ!!!」

語気に怒気を混ぜて嗜めても止める素振りがない。

「それで、木馬の背に鬣みたいな絨毛があってさ、それが一斉に動き出したんだ。こう……」

手を使ってあのいやらしい鬣の動きを説明し始めたので、彼を後ろから抱きしめ、身を寄せてその口を手で塞ぐ。
裸での触れ合いに、ケーゴは真っ赤になって黙った。子供には刺激が強すぎたかもしれない。
ちょっとだけ彼の下腹を覗き込む。濁り湯の向こうには、確かに立派に成長したちんちんが見えて、嬉しくなった。
これもお仕置き!とそのまま彼を抱っこしてお湯に座り続ける。

「……」
「……」

何だかすごくドキドキする。
想像よりもずっと逞しい背中に、ケーゴも男性なんだと当たり前のことを思いながら、乳房が潰れるくらいにあてがう。
ビク!!とケーゴの肩が動き、我に帰って身を少し離して、皆との雑談に戻る。兎に角コレで、木馬の話は終わり!

「あのカーパーって気持ち悪いやつ、初めて見たんだけど……」

目の無い、鼻を削ぎ落された、口割けの顔。その姿形と合わせ、あの死を予感した一撃思い出して身震いする。
今一度あの戦いを皆で振り返る。鮮烈なのは、何と言ってもフォーゲンの強さだった。

「フォーゲン……凄かったよな……」
「流石のアタシもビビったぜ。まあ、フォーゲンが居なければ全滅していたかもな」
「フンッ……それは認めざるを得ないだろうな」

全員が彼への賛辞を惜しまない。ケーゴは兎も角、あのガザミやガモまで認めるというのは、実は大変なことだ。
しかし、当のフォーゲンは武勇を誇る訳でもなく、やや明後日の方向を見ながら「フッ……」とか言ってる。そして遠い目をし始めた。
会話が途切れた所で、ホワイト・ハットが逆上せた顔で立ち上がり、ふらふらと東屋まで移動を始める。

「大丈夫?そこにあるお水を飲みなさい」
「はい……」

顔を赤くしたホワイト・ハットは、東屋のベッドにぽてんと寝転がった。ちんちんがぴょこんと立っている。
湯疲れか、湯あたりか。魔力は凄いけど、子供だから心配だ。

「なぁ……皆の強さって、どれくらいなのかな?」

ケーゴが「冒険者に振ってはいけない危険な話題ナンバーワン」を口にして、場に緊張が走った。
「あれ?俺何か変なこと言ったか!?」って顔をしたケーゴに、ガザミが指折しながら答を返す。

「そうだな……一般人を1、フォーゲンを10として並べると……アタシが8、ガモが7、シャーロットは5、ケーゴ3、かね?」

「異議あり!私が5ならガザミもガモも5でしょ!」と、言ってやろうと思ったらお湯の中でケーゴが触れてきたので、言葉を飲み込む。
後ろ手に探ってくるようなケーゴの手は、横腹に触れて、腰に降りて、太腿へとたどり着き、そこで暫く私を撫でる。
強さがどうだとか、そんな事への不満は一瞬で消し飛んで、その変わりに「我慢できなくなっちゃったの?」なんてお姉さんぶったセリフが頭に浮かんだ。
私の太腿を撫で続けるケーゴの手は、誰にも見えていない。濁り湯なのを良いことに、二人だけの秘密にする。
それにしても、こんな所で……!
皆がすぐそこにいるのに……!
どうしてケーゴが積極的になっているのか本当の所はわからないけど、奥手なケーゴが触れてくれたことが嬉しくて肌を許し、彼に身を寄せて、黙って皆の会話を聞いていた。

「聞き捨てならんな。俺が7ならお前は6だ」
「なんだと~?」

今度がガモが噛みついた。言わんこっちゃない。冒険者は自分を売り込んで生きていく生き物だし、負けず嫌いが多いのだ。

「お前の戦い方は防御がまるでなってない。戦略性もない。俺を相手にしたら1分と持たんぞ」
「おっ。言うね~、このハーフオークが!」

殴り合いが始まりそうでハラハラする。
でも、そうこうする間にも、ケーゴはどんどん大胆になっていく。
彼の手が探るように内腿に触れて、私もそっと股を開く。
行き過ぎて下腹を抱き、下って恥丘に触れ、更に下って戻ってきて、ついには陰核に触れた。
積極的な彼にびっくりして表情を伺うが、ケーゴは素知らぬ顔をしていた。

「あぁ……!」

皆の前でこっそり年下の男子に虐められて、あっというまに濡れて、身震いが止まらなくなる。
お湯の下では足先まで感じて、V字に大股を開いていた。
ケーゴは陰核をこねくり回し、指の腹で押し込んでから、グリグリと虐めてくる。すっごくイイ。

「ふぁ……!」

はうう!となって大口を開けて舌を突き出し、ケーゴの腕にしがみついて、ゾックゾクに震える。
彼の指は陰裂にそって上下運動を繰り返しはじめ、時に少しだけ割って入ってきて、その入口をつつくと、すぐにまた上下運動に戻る。

「あっ……ん!!」

タオルで顔を覆い、呼吸を誤魔化し、喘ぎを隠す。
感極まり、大声で叫びそうになって、慌ててケーゴのそばを離れた。
いつの間にか出ていた涙を拭って、はぁはぁと乱れた呼気を整える。本当に、危なかった。

「おもしれぇ!じゃあお前はアタシに勝てるっていうんだな?」
「フンっ。俺は初めからそう言ってる」

結構露骨に喘いでしまったけれど、ガザミとガモの二人が大声で喧嘩しているのが幸いして、バレずに済んでいたらしい。
恥ずかしくてケーゴの顔がまともに見れない。
でも、きっとあっちも恥ずかしそうに笑っているに違いない。そう思った。

ケーゴの悪戯から逃げて、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。改めてガザミとガモを見る。
口論を楽しんでいるようにも見えるし、本気で罵り合っているようにも見えた。

「馬鹿な亜人女め。どうやら痛い目を見ないと分からないようだな」
「……そこまで言うなら試してやるよ。上がれ!」

ガモが決定的なセリフを口にした。ソコまで挑発されたら、ガザミが黙っているはずもなく、待っているのは本気の殴り合いだ。

ガザミが立ち上がり、ガモも立ち上がった。

「後悔するなよ?」
「!!!」

立ち上がったガモを見て、私は乙女な悲鳴を上げそうになった。
オーク譲りの筋力も備えているガモだが、その立ち姿は一見して細身な軽戦士のそれだ。
だが、そのペニスは何よりもガモのオークの血を証明していたのだ。
しかもそれが、怒張していた。勃起しているのだ。

洗い場に上がったガモがこちらを見てニヤリと笑うので、あまりに生々しい男性のソレを見せつけられた私は、恥ずかしくなって目を背けた。

「オメーの相手はアタシだよ!」

ガザミが先制し、ガモに掴みかかるようにして石畳の上に投げ倒すと、その上に覆いかぶさるようになって、彼の大サイズのペニスを握りつぶすほどに掴んだ。
ギリギリと音がするほどに締め付けている。ガザミの握力に耐えつつも、ガモのペニスが歪む。

「ぐっ……!」
「徒手じゃアタシが有利過ぎるしな、お前の得意そうなルールでやってやるよ!」

ハァハァと息も荒いガザミが下腹部の外骨格を開いて笑い、股間を露にすると、ガモのペニスを手繰るようにして、自分のソコに充てがう。

「やだ……」

私は上気した頬を押さえた。
負けず嫌いのガザミのことだから、ペニスを見せつけて威嚇してきたガモの自信を根こそぎに奪ってやろうと考えたのか。
そのガモ雄々しいペニスが、ガザミをその気にさせたのか。
なんとなく、後者であると思った。
彼女が結構頻繁に男を買いに行ってたりする肉食女子な事は知ってるし、冒険後の宴会は性が乱れがちになる事も知ってる。
でも、唐突過ぎる気がした。
そういえば、私に触れてきたケーゴだってらしくないし、私の裸を見て発情したのを隠そうとしていたはずのガモが、ギンッギンに熱り立たせたソレを堂々と見せつけてきたのも変だ。

そんな私の違和感を他所に、目の前で二人が性行為を始める。
何をされるのか分かっているガモにも拒否の姿勢は一切見られない。
前戯なしで、ガザミがガモのペニスの上に股を沈め、ズブズブと根元まで飲み込んでいく。

「ふぅ……」

腰を下ろし終えたガザミは、何度か大きく息を吐いて身震いした。気持ちいいのだろう。私も思わず自分の下腹を弄った。

「うぅ……!」

ガモは声を上げて、腹部から下腹部、大腿部の筋肉を緊張させ、浮き上がらせている。

「なんだ……けっこう……強いじゃないか……」

ガザミは自ら中腰としゃがみ座りを繰り返し、逆ピストンでガモのペニスを出し入れして責め立てる。

「うぐ…!!」

ガモが額に汗を浮かべ、全身をブルブルと緊張させている。
二人の結合部はちゃぐちゃぐと音立たせて濃いめの体液を滴らせてはじめ、その淫らな光景にフォーゲンが鼻血を吹いて波間へと沈んでいく。
強すぎる淫気に当てられるのは、フォーゲンだけではない。ケーゴだってそうだろう。
彼を見れば、身を乗り出すように立ち上がり、その目一杯大きくしてる真っ赤なちんちんを晒すのも構わず、大人二人のエッチをがっつり見てしまっている。
嫉妬してケーゴの視線を塞ぐ。

「ちょ!ねーちゃん見えない……!!」

ケーゴは、結構スゴイ力で私の手を振り払った。

「ガザミ!ガモ!二人ともっ!するなとは言わないから、周りに配慮して!子供が2人もいるんだから!!」

ガモの手がガザミの横腹を荒々しく掴む、そしてガツンと突き上げるように腰を浮かせた。反撃を始めたのだ。

「おぅう!?おっ!ふっ!」

ガザミが仰け反り、がに股になってブルブルと背筋を震わせる。
ガモは尚も突き上げつつ、その手でガザミの体を引き寄せて離さない。

「ぐ!くあっ!て、テメェ……!?」

肉食獣同士の戦いみたいなSEX。ガザミがどんどん気勢を失っていく。
ガモはその細身からは想像もつかない筋力で、腹の上でガザミを悶えさせたまま立ち上がり、そのまま体を入れ替え、彼女の髪を掴んで逆に石畳の上に四つに這わせた。

「おおぅ!おう!あ、あぅ!!!」

雌になったガザミが腰を高く持ち上げ、挿入を強請っている。
その尻に向けて、タメを持たせてバシン!と腹を叩き付けるように突き上げ、ゆっくり8割ほどを引き抜いてから、またガザミを壊そうとするかのようにバシン!と突き上げていく。破城槌みたいなピストンだ。

「くあ!あぅ!ふぅ!」

ガザミは自ら胸部の外骨格までも開き、アクメ顔を晒す。その表情だけでなく、痙攣している下半身を見ればもうギリギリなのが分かる。
目をギラつかせたガモは頬を膨らませる程に吸気を吸い込み、その全身を紅潮させ、腹筋をへこませて呼気を吐き出すと同時にまたペニスを突き上げた。

「あ!あ!ああっ!!」

ガザミの腰が砕けるが、ガモはそれを見て寧ろピストンの速度を上げ、サディズム性向を漂わせた表情で、歯をむきながら責めを続ける。
いつの間にか、その顔を覆うターバンが剥がれていた。

私は、ガモの事は全然知らないのだし、ガザミがどんなSEXをするかだってよくは知らないのだから、私達の目の前で荒々しく性交渉をし始めたからと言って、今の二人が異常な状態である根拠にはならない。

でも、私の勘が「これは変だ」と告げていた。
何かがおかしい。冷水でもぶっかけて強引にでもクールダウンさせようと考え、お湯から上がろうとして、後ろから誰かに抱きしめられる。

「フォー……ゲン……?」

ガザミとガモに見せつけられて、陰キャの彼まで大胆になったのか。
いや、違う。
この感じは……いつものフォーゲンじゃない。戦闘モードのフォーゲンだ。
積極的な彼に腰を抱かれ、口付けを迫られる。

「ちょ!ダメ!フォーゲンっ!」

ちらりと視線を落としてみれば、その股間はガモに見劣りしないほどスゴイ状態だった。
ケーゴが見てる前で、ガザミみたいに堕とされる訳にはいかない。

「フォーゲンっっ!!!」

私は遥か実力上の剣士にビンタを決めた。


◆ケーゴ

ムラムラする!

ガキみたいで凄くかっこ悪いから、表には出したくないが、今、俺は人生で屈指のムラムラの中に居た。
濁り湯の中、股間ははち切れんばかりに腫れている。

原因はわかってる。ねーちゃん達とお風呂に入っているからだ。

ダンジョン攻略中から、ずっとずっと溜まってきた欲求不満がある。指折り数えれば、ローパー戦で見た痴態と、すごかった木馬と、その後、夜のテントでの寸止めだ。それから後も、亀男にイタズラされてたり、魔胆石を引き抜こうとしているときだったり、乱れた格好を俺に見せている。
散々性的な姿を見せつけて、俺をこんなふうにしておいて、平気な顔して一緒にお風呂に入ってるねーちゃんに、変な疑念が沸いてきた。

もしかして純情をもてあそばれているのではないか……?

俺は、魔胆石を手にした時、ねーちゃんにかけた言葉を戯言とは思っていない。

『俺が欲しいだろ…?帰ったら存分に虐めてやるからさ……』

ガザミに多少乗せられたとはいえ、必死に背伸びをして、覚悟をもって口にした。その言葉にねーちゃんも答えてくれたハズだった。
根拠はないが、だからこそ魔胆石と俺の魔法剣が輝いたに違いないんだ。
だから、今夜その約束を果たすつもりで、ここにいる。
でも、ねーちゃんからは、今夜俺に抱かれるって気配が微塵も感じられない。
石鹸貰ってとか、隣で身体をちゃんと洗いなさいとか、完全に坊や扱いだ。

隣のねーちゃんを見る。
あの夜、テントの中で足を広げて俺を誘っていた女性なのは間違いない。
仲間と笑って話しながら、こちらを見て微笑み、肩を叩いてきたりしている。
今まではそれが嬉しくて、照れ臭かったはずだが……今は違う。

フォーゲンやガモより、俺との距離が近いのは、俺が大人の男じゃないからだったりしないか?

ムラムラ感とネガティブな思考が混じり、胸の中で渦を巻き始める。

そう言えば、ねーちゃんが酒場で子供を泣かしたとか、泣かされたとか、色々聞いたことがある。
子供だから、安全安心だとちょっかい出されてるんじゃないだろうか!?
このまま黙っていたら、あの「約束」も子供の戯言だった事にされる……?

そんなのはイヤだ。

俺は、自分でも驚くほど、ねーちゃんから一人前の男として接される事を望んでいた。
そのためには、性的に攻め返すべきだとの結論に達する。
丁度ガザミに話題を振られたタイミングでもあったので、皆に向けて木馬の話をし始めた。

彼女は面白い程に慌てた。その顔を赤くした狼狽振りを見て、ちょっと胸が晴れる思いがした。
ダメだ話すなと大騒ぎしてるのはシャーロットだけで、他の皆は大いに盛り上がっている。

「それでさ、ねーちゃんが自分で飛ぶって言って、2メートルくらい助走してから飛んだんだ。そしたら……それが罠だったんだよね。空中でこう、大きなお尻をこっちに向けて股を広げた形で止まっちゃって……」
「ああ、あれは無様だったな」

性的なワードを織り交ぜて現場を語ると、ガモがナイスなフォローを入れてくれた。臨場感が溢れ出す。
ねーちゃんは両手で頬を覆ってこっちをめっちゃ見てる。「あのケーゴが!?」みたいな表情がなんだか凄く快感だ。

「それで、木馬の背に鬣みたいな絨毛があってさ、それが一斉に動き出したんだ。こう……」

俺は手を使って動きを説明する。顔面を紅潮させた彼女が縋り付くように抱きついてきて、俺の口を手でガッチリと塞いだ。

「ぅ!?」

素肌と素肌が密着し、背に乳房を押し当てられてるのを意識して心臓が高鳴った。性的に攻めに出てやる!と決意したのがつい先程で、今は借りてきた猫になって、その感触を味わおうと、ねーちゃんに寄りかかってしまっていた。

うわああああ!!
ダメだ!このままじゃ勝てない!ガキ扱いのままだ!

大体にして、こんな風に密着してくる事が、舐められてる証拠なんだ!
フォーゲンやガモに抱きつかないのは、それが性の乱れを誘うことになるからだろう。
ならいっそ、この場で振り向いて、唇を奪って、押し倒してやろうか、そうすればねーちゃんも、俺を男として扱う他なくなる、そんな思いが頭をよぎる。

手が動きかけたが、行動に移す前に一度冷静になって脳内に行為を想い描いた。

再生されたのは、皆の前でねーちゃんを押し倒す場面ではなかった。
今夜寝室で一晩中ねーちゃんを抱いた、その翌朝の場面だった。

散々に俺にイカされたねーちゃんは、まだベッドの上で身を横たえている。
既に着替えを済ましている俺は、ブーツの靴紐を堅く結ぶと立ち上がり、荷物を肩に掛けるのだ。

「ケーゴ……もう行くの?」
「ああ、次の冒険が待っているからね……」

身体を見せて引き留めようとしてくる彼女の乳房を、俺は優しく愛撫した。
喘ぎが始まる所で、ピンッと乳首を弾く。

「また俺と仕事することがあったら、その時にもう一度可愛がってやるよ……」

そして縋る目つきの彼女を残し、俺は酒場へと降りて、パーティーリーダーとして次なる冒険へと進むのだ。

「さて、次はどんなお宝が俺を待っているのかな……」

今度の冒険で確実に成長した俺は、自信に満ちた顔で眩しい朝日を見上げていた。


これだぁ!!
イメージの俺は幾分美化されていたが、目指す姿が明確に照らし出された。
胸の中の黒いモヤモヤが、全部消し飛んでいく気がした。
ただ雄だと示すんじゃなく、俺の中の理想の男を目指そう。
今ここでしゃぶりついていったら、その理想にはたどり着けない。
ねーちゃんの身体を求めるにしても、男として求められた結果じゃないとダメだ。
そして、その為には性的に俺の方が攻め込むべきだと結論は出ていたはずだ。

……でも、性的に攻め込むってどうすればいいんだ……?
……あの石鹸持ってきたにーちゃんみたいに、勃起したチンチンを見せつけてやるのか?
……それは流石にはずかしい。
……今晩ねーちゃんの寝室の扉を叩いた時から、男として扉を開けてもらえないとダメなんだ。
……よし。直に触って、今からでもその気にさせてやろう。
ムラムラしてる事もあり、本能に従って答えを導き出した。

色々理論武装したが、とどのつまり、ねーちゃんに性的に触れたかったのだ。

皆と会話しながら、後ろ手に彼女の肌に触れる。
ねーちゃんは驚いたように一度だけ跳ねたが、その後は抵抗する素振りもない。
緊張しながら手を動かす。そして腰を撫で、太腿を撫でると、ねーちゃんが何も言わずに身体を寄せてくる。
大人同士の「密約」を交わした気がした。
興奮した。
内腿を探ると、足を開いてきた。
あの女性器を思い出し、股間の熱が高まる。
記憶を頼りに、柔いソコを触り、刺激し、嬲って、指先の感覚で理解して、段々と女の体に習熟してくるのを感じる。
ねーちゃんは大股を広げて感じているようだ。
ほんっとエロいねーちゃんだ、と思うと同時に、俺に男としての自信と余裕が生まれる。
このまま焦らしてやれと、指を差し込み、その中を掻き混ぜるとみせて、さっと引く。
年上の彼女が堪らず声を上げるのを聞いて、もう一度その入口をつつく。きゅ!とねーちゃんのソコが締まって俺の指を捉えようとする。そこを察知してヒョイと躱す。
焦れたねーちゃんが、小さく背中を叩いてくる。それを無視して、お湯の中でもヌメっている陰裂を強めになぞるだけに留める。
ちらっと見たシャーロットの顔は、もうイキ顔寸前で、完全に俺が主導権を握っているのだと確信した。
これでもまだ、俺を子供だと思うか?
このまま、彼女が声に出して抱いてくれと言い出すまで虐めたらどうなるか。そんな下世話な想像をしてしまう。

自分がスゴくスケベになってしまった気がしてきた。
俺、少し変じゃないだろうか……?
普通かな……?
普通だよな……?
想像で手が止まった隙に、ねーちゃんが俺の手から逃げ出した。
追いかけようとしたが、いつの間にか「どちらが強いのか」で本当に戦う所まで会話をエスカレートさせていたガザミとガモが立ち上がったので驚いて彼らに注目した。

「オメーの相手はアタシだよ!」

ガザミの投げ技から始まったのは、性器と性器を打ち合わせあっての超肉弾戦で、その迫力に目を見張った。
いやらしいものを見せないようにと、ねーちゃんが飛ぶように覆いかぶさってきた。
子供扱いするなと、その腕を外していく。

そして見た。

ガモがガザミの股を貫く勢いで腰を叩きつけていく。
あのガザミが喘ぎ、快楽に顔を歪め、腰をくねらせている。
エロい!と思ったが、それよりもスゲェ、というのが正直な所だった。同時にとてつもない重圧に襲われ出す。
ねーちゃんが男として俺を求めてくれる……それはつまり、アレと同じことが求められているって事でもあるのだ。

大人の男として、ねーちゃんを満足させること……俺に出来るのか!?
シャーロットのあのデカイお尻を後から責めようとして、弾き返されて腰砕けになったらどうしよう!?
そのお尻をもう一度しっかり確認しようと隣をみると、彼女は発情したフォーゲンに抱きしめられていた。

堂々と誇示されているフォーゲンのソレもスゲェ。
アレならガモと同じく、ねーちゃんを貫けるのだろう。
嫉妬心から、二人の邪魔をしようかと考えたが、ぐっと堪えた。
今の俺じゃ、きっとガキのママゴトみたいなSEXしか出来ない。
ガモとガザミが、フォーゲンとシャーロットがそれぞれエッチをする様を逃げずに観察して、少しでも大人のSEXを学ぶんだ。

そして、今夜、ねーちゃんを抱いて……男になる。


◆フォーゲン

「フッ……」

不味いことになった。
実に不味いことになった。
どういう訳か、いや恐らくは裸の婦女子と風呂を共にしているからなのだろうが、今俺は猛烈に勃起している。

俺の好みは、楚々として細身ながらおっぱいは大きい大和撫子であり、パーティーの女二人はそれには該当していない。
俺の息子は、我が意に反し、好みでもない女に反応している。反抗期らしい。
どんどんと膨れていく所を見ると、成長期でもあるようだ。

股間のソレは第二の心臓の様にドクンドクンと脈動し、腹にピタリと密着する程にピンコ勃ちしている。
これはアレか、二十歳を過ぎてもなお身長が伸びるという第三次性徴というやつか。

フッ……はずかしぃ。

これでは湯から上がる事も出来ん!
しかし、このまま逆上せて意識を失ってしまえば、湯船に浮かんだ時に伝家の宝刀を晒すことになる。
せめてもう少し落ち着いてくれたなら、「これが俺の通常サイズだ……」で押し通すことができる。
そうだ!爽やかな事を考えるのだ!!


爽やかな風……。
豊かな緑……。
青い海……。
ヌーディストビーチでくつろぐ女性メンバー達……。

いかーーーんっ!!!
駄目だ……!海はダメだ!
そうだ!山の事を考えよう!穢れを知らぬ、童の頃の俺になるのだ!!

……そう。山と言えば、修行の場でもあった文殊山を思い出す……。

俺は、武門に生まれた。
父は道場をもつ武術の大家であり、藩の剣術指南役でもある。
我が流派の創始者は「セイゲン」という、俺の国では知らぬ者の居ない剣豪であった。
俺は言葉を覚えるよりも早く木剣を握らされ、セイゲンの武勇を聞かされて育ち、初めて真剣を手にした時には、低空を飛ぶ燕を切り落とした。
それは父にもできない事であり、開祖であるセイゲンと同じことができた。
天稟があった俺が、優れた剣術家である父の指導の元、幼少の頃から剣術漬けの毎日を送った成果はすぐに現れた。
10歳を前にして周囲の大人も相手ではなくなったのだ。

そして、10歳になったばかりの俺は、文殊山の奥深くに立っていた。
里の女を乱暴して殺した無法者が、この山に逃げ込んだと聞いたからだ。その野武士の大男を見つけ、斬るためだ。

殺された女の事は覚えている。
菓子をもらったことが何度かあった。
肉感的で、髪は長く、面差しを思い返せばパーティーリーダーに似ているかもしれない。
そうだ。あれは不幸な相なのだ……。

俺が斬る。

それは誰から指示があったわけではなく、己の剣であれば大人でも倒せると増長しての軽はずみな英雄的行動だった。
事実、その男を斬り伏せはした。
だが、その男を切る理由を「里の女の名誉のため」と口にしたものの、本当の動機は「父上に誉れと思われたい」「己の腕を誇りたい」等の我欲であったために、それが負い目となり、やや気圧されて剣が鈍り、手傷を負ってしまった。

俺は、傷口を洗うために立ち寄った沢で足を踏み外して滑落し、寒さで意識を取り戻した時には、頭上に冬の星空が広がっていた。夜となっていたが、帰らなければと思い、感覚の鈍った手足で立ち上がり、剣を杖代わりにして闇の斜面を下った。

里の明かりが見えた。
無数の篝火も見える……!

俺が野武士征伐に山に入った事が分かり、騒ぎとなっていたのだと後で知った。

あの光を頼りに下れば帰れる。
その時は助かったと思い、萎えそうな気力を取り戻し、歩き出した。
(里の明かりを目指してそのまま山を下っていたら、二度目の滑落をおこし、死んでいただろう)

ふと風に獣臭が混じったのを感じた。

月明りも届かぬ深い夜の森の中に、輝くものがある。
一つや二つではない。十、二十を数えた。
狼の群れであった。
熟練の武芸者ですら彼らを恐れ、夜の山越えを控えるという……。

俺はここで狼に食われて死ぬのか。
神童と呼ばれ、父からも開祖セイゲンに並ぶ剣豪になるぞと言い聞かされて育った俺が、ここで死ぬ。
犬に食い散らかされた無残な屍を晒すことになるのか。
骨も残さず喰らいつくされ、野武士に斬られ死んだと思われるか。

母上は悲しむだろう。
父上は俺を恥と思うだろう。

死にたくない!

血を流し、立っているのもやっとの、人間の子供を前にして、狼は慎重に距離を詰めてくる。
優秀な狩人である彼らは、勝利を確信した時にのみ飛び掛かってくるのだ。

「く!くるな!」

杖代わりにしていたのを忘れて、剣を振り上げ、よろめいて無様に転倒し、致命的な隙きを晒す。
先頭の一匹が飛び掛かってきた。
その牙が迫る。
俺は泣き喚き、歯の根を打ち合せ、小便を漏らして、刀を棒きれの様に無様に振り回した。

俺が本当にセイゲンのように強かったのなら……こんな狼共など物ともせずに切り伏せ、里に帰ったのだろう。
俺がセイゲンであったなら……母上を悲しませる事は無かったのだろう。
俺がセイゲンだったなら……父上の名を汚すこともなかった。
俺がセイゲンだったら……こんな狼など、どんな姿勢からでも切り捨てて……。
俺がセイゲンなら……。

俺は……。



そこで記憶は途絶え、目を覚ました時には、父上と母上の顔があった。
山狩りにきた里の者が助けて運んでくれたのだ。
助けが来る前に、顔の半分も食われたであろうかと、ひたりと己の顔を触る。顔は、あった。
ちゃんと皮と肉が付いている。
手足を見た。指一本失っていない五体満足の身体で、噛み痕もなく綺麗なものだった。

「でかした!でかしたぞ!」

父上は俺を抱きしめて涙を流した。
俺を見つけたものの証言によると、彼らが駆け付けた時、俺は8匹の狼が伏して作った血海に座り、眠っていたらしい……。
誰かが守ってくれたのだ。
それは、セイゲン様であったのかもしれない。
あの時から、俺は謙虚になった。不要な争いは避けるようになった……。



………どうしてだ。
男根が回想前よりも大きくなってるではないか!?
今の話にそんな要素あったか!?

「ぐ……!」
「なんだ……けっこう……強いじゃないか……」

ガモとガザミの呻きが聞こえた。俺は、見た。

二人が──えっちをしている──。
ガモの男性器が──ガザミの女性器の中に出たり入ったりしてる──。
股間に総血液量の全てが流れ込んだ感覚があった。
鼻から多量の血が流れる。

俺の意識はそこで途切れた。


◆シャーロット

フォーゲンに抱きつかれた私を、ケーゴが見てる。

私は、ケーゴに見られながらフォーゲンに抱かれる自分を想像して、羞恥のあまりにその頬を叩いていた。

「フッ……!?」

叱られた犬っぽく目をパチクリと瞬かせている彼を、威嚇を兼ねて睨む。
この感じは、いつものボケーっとしてる方の彼だ。チラチラと胸の谷間を見てくるような陰キャくんなら御しやすいと、すこしだけ安心する。
今、目の前にいるのはいつも通りのムッツリスケベなフォーゲン。この手の男子には、恥じらって身体を庇うのは喜ばせて調子づかせてしまう事を、私は知っていた。
羞恥心を押し切り、彼の前で乳房も下腹も隠さないまま、両手を腰に当ててのモデル立ちをして、上から目線で叱りつける。

「何するつもり!?子供もいるのに?」
「フッ……え?いや?某(それがし)は……」

いつものフォーゲンの一人称は「俺」で、スイッチの入ったフォーゲンは「拙者」と言う。第三の人格「某」の出現は、彼の混乱の現れだろうか。
兎に角、最初に倫理的に釘を差して置くことが大事。「私は正しいけど、貴方は間違っている」を示せば、常識人の彼は怯まざるを得なくなる。

「万が一パーティーメンバーを強姦しようものなら、交易所に顔を出せなくなるの、わかってる?」
「フェ……」

怯んでる。
イマイチ薄めのリアクションだけど、私に気圧されているのは間違いない。
私の鋭い観察力が導き出した結論として、陰キャな彼らは恋愛脳的な思考(?)と肉食的なムード(?)の女からは逃げる。
「どさくさ紛れのエッチ」だとか「なぁなぁの間になんとなくエッチ」を期待し、拒否されそうな女には手を出さない。
好きな相手に好きとは言えず、「私の事が好きなの?」と問えば「ちげーよ!何いってるんだよ!フハッ!」と答えて、走り去るのである。

「……でも、知らなかったな~?フォーゲンが私の事をそこまで好きだなんて!」
「フヒ……」

へ~。そうなんだ?好きなんだ?と繰り返し口に出しつつ、彼の顔を右下から左下から観察し、聞き手と逆の左手側に回って、その上腕部におっぱいを押し当てる。
ギクシャク!となって背伸びするフォーゲン。
ゆっくりゆっくり身体を上下させて、その腕にパイズリする。ブルブルと硬直している陰キャくんの耳に息を吹きかける。

「で?私に何をしたいんだって?声に出して言ってみなさい」
「…………………フ」

剣士さんを見れば完全にフリーズしており、ビクビクと動いているのはそのヤバそうなちんちんだけ。もういいかと体を離し、手で乳房と下腹を隠す。
剣では勝てないが、男女の戦いでは私の圧勝だった。
ケーゴにも、淫行を拒む淑女の姿を見てもらえたに違いない。

実際の所、ガザミとガモがこれでもか!これでもか!とヤリまくってるこの露天にどんどんと満ちていく淫気は、私にだって影響していて、どうしようもなくエッチな気分になっていてた。
なにしろ、ケーゴに直に虐められて、ガザミとガモのSEXを見せつけられて、フォーゲン(イケメン状態)に腰を抱かれて迫られたのだから、淫らな気分にならない訳がない。

もうダメ、早くオナニーしたい。
それが、偽りのない本音だった。

ぎゅっと拳を握り、フォーゲンに背を向けて歩き出す。
駆け足になると動物みたいに追ってきそうなので、ウォーキングレッスンを受けているように優雅に、また一歩。また一歩と歩む。

「ああぁあ!い、イク!ちんぽでイク!!ガモのちんぽでイクーーーっ!!!」

物凄い陶酔の仕方をしてるガザミのすぐ隣を通過しようとして、わしっ!と太腿を掴まれた。

「ひっ…!?」
「何処へ行く?お前も泣かせてやるぞ……」

ハーフオークの戦士は、額に汗を浮かべながら、ハァハァと息を荒げ、ガザミを責めるピストンを続けつつ、私の足を掴んで強引に己に引き寄せた。
膝が抜けそうになっていた私は簡単によろけて、立膝をついてるガモの肩にお腹を寄せてしまう。
側にいれば、彼の精の匂いが立ち込めている。もう何度もガザミの中に射精しているのだろう。
ガザミの中から出ては再び潜っていくそのペニスを見せつけられ、逞しいソレが私にも突き入れられる所を生々しく想像して下腹が濡れに濡れた。

「ダメっ!」

べちっ!と彼の頭を唐竹割りにビンタして離れ、二人の体液でヌメる石畳に滑って転び、四つん這いで逃げる。
ククッと笑うガモは私からガザミへと視線を戻し、そら!そら!と彼女を責め立てた。

「言ってみろよガザミ。強いのは俺か?お前か?」

涎どころか鼻水まで垂らしているアッヘアヘのガザミが、呂律の怪しい舌で、ガモ!ガモぉ!と返事を返した。
皆が見ている前なのだから、プライドの高いガザミへの配慮が欲しかった。意見してやろうかと思ったが、今のガモに逆ギレされたら、何をされても不思議じゃない。私は立ち上がって走り、東屋に駆け込んで湯着を被り、転げるように廊下に出た。
扉を閉めると途端に力が抜けて、へたり込む。
お腹の中が痙攣してる。

「ああっ……」

その場に身を伏せて、下腹に手を這わした。湯気立つほどに熱い。
どこかの神話で、火の神を産んだ母神がそのまま死んでしまう話があったが、今の私なら火の子を産んでも大丈夫なんじゃないかと思う、そんな熱さだった。
もうお部屋まで待てない。


私は、廊下でオナニーを始めてしまった。


◆フォーゲン

鼓膜が突き破られたような衝撃で目覚めた。
俺は寝ていたのか……!?ここは……そうだ、混浴の湯だ。
そして、裸の女が目の前にいる。シャーロットだ。触れるじゃないか。なんぞこれ?

「フォーゲン!!!」

彼女は肌を隠して顔を赤くしていたかと思えば、乳と尻を放り出して裸を見せつけ、俺が何かをしようとしただのと喚いていたかと思えば、急におっぱいを押し当ててきて甘く囁き、撫でてくれと言わんばかりに尻を振って出て行ってしまった。
まるで台風だ。

「師匠……」

ケーゴ少年が手桶を持って傍らにやってきた。師匠??ああ、そういえば剣術を教える約束をしていたんだっけか、気の早い事だ。
差し出された手桶を受け取り、股間を隠す。手を使わずとも男根に引っ掛けておけば自動で隠してくれる優れものだ。
ケーゴ少年は、お通夜顔で鎮痛の面持ちを隠さず、俺を労わっている。
俺が告ってもいないのにフラれたみたいな空気になっているのはなんで……?

「フッ……何が……あったのかな……?」

俺の問いかけに、ケーゴは一瞬唖然としたものの、一つ一つ状況を説明してくれる。

「師匠がねーちゃんの尻を抱いて……キスを迫ってビンタされて……一方的に捲し立てられて……出ていかれちゃったように見えましたが……?」
「………フッ」

なんだと!?
俺がシャーロットに迫っていた??
そしてビンタされていたのか……。

「フッ……無意識だったのだ」
「え?」

俺は彼に説明する言葉を選んだ。こんな事は初めてであったので……いや、自分でも薄々感じていた事だが、俺の中には俺が知らない俺がいる。このダンジョンで分かった事だ。俺が知らない「超強い俺」を、皆が見たというので、無意識下で活動している可能性に思い当たった。
今まで戦いを避け、臆病に……あ、謙虚に徹した結果、それを目撃したものはいなかったのだ……今まで俺のピンチを救ってきたのは、俺自身だったという事になる。
……無意識下で剣が冴える。それではまるで至極の剣士の様ではないか……。
深く考えようとすると頭痛がするので、あえて追究はしない。

「……我が流派の極意でな、無意識下でも戦闘を可能とする。『至極』『無極』などと呼ばれることもあるが……達人ともなると、寝ていても己の刃圏を屋敷の隅々まで行届かせ、隙を作ることが無いという……」
「め、めちゃくちゃスゲェ……!!」
「フッ……この俺でもまだ奥義体得には至ってはいないが、その片鱗が出てしまったのだ……」

ケーゴ少年が目を輝かせている。半分は口から出まかせなのだが……ゆるせ。
ともあれ、これで俺の汚名は雪がれた事だろう。

「じゃあ!汚名返上に行かないと!!」
「フェ……?」
「師匠は無意識だったから、やり込められたんだ!今なら違う返事ができるはず!」

何故そこまで熱くなっているんだケーゴ少年!?
しかし、師匠の恥は弟子の恥、との言葉もある。彼から見れば俺は「言い寄ってビンタされ、捲し立てられて一言も返せず、去っていく女を見送った男」なのだ。思い出せば腹立つほどに理不尽だ……そして、確かに情けない……このままにはして置けぬか……。

「行きましょう師匠!!」
「……フッ」

止めろ……俺の自尊心を擽るな……本当の俺が目覚めてしまう……。(厨二病

「ガツンとやってやりましょう!ガモみたいに!!」
「フッ……」

確かに、ガモがガザミを相手にあそこまでの武勇を誇った今、男として負けてはいられない何かを感じている。

「師匠ぉ!俺に漢の姿を伝授してください!!!」
「フッ……行くか。あの女に漢を教えてやりにな……」

しゃあ!とガッツポーズを決めて、ケーゴ少年も手桶を股間に装着した。
あっさりノセられてしまい、ちょっと後悔する。
シャーロットであれば、確かになんとかなりそうな気もする。強引にいけば拒否されることも無かろう。おっぱい以外は好みではないが、俺の人生初の完全完封完投勝利も有り得るか……?

ズコバコやってるご両人の脇を通過し、東屋に上がると、度数の一番高い酒瓶を探し、手に取り、二つの杯に注ぎ、一方を彼に授けた。

「フォー…師匠、これは……?」
「フッ……出陣前の厄払いだ」

目を輝かせた少年と、肘で組み合わせるように腕を交差させながら杯を煽り、それを床に投げ落として叩き割る。
軍神を味方に付けて、意気揚々と扉に向かうケーゴ少年を飛び留める。

「フッ……準備運動を忘れずにな」
「あっ!そうか!!?」

足首手首股関節。首肩肘に股関節。屈伸屈伸股関節。腰の運動股関節。

「フッ……行くか」
「オスっ!」

二人して浴衣を肩に羽織り、廊下への引き戸に手をかけて、廊下から漏れ出てくるシャーロットの嬌声を聞いた。

『はぁ……も、もう、もうダメぇ!あ!あ!あーーっ!!』

すぐそこでオナニーをしているのだと悟り、愛弟子と顔を見合わせる。
二人の手桶の位置がググッと上に移動した。

「フッ……顔が赤いぞ少年」
「し、師匠こそ……」

お互いに肩をつついてヒャッヒャと笑い合う。
再び引き戸に手をかけて……何故か再び笑い合う。

「師匠、さあ……!」
「フッ……地の利は我らにあり。人の輪も得た……後は天の時を待つのみぞ……」

やや焦れ気味に地団太を踏む愛弟子を、それらしい台詞で諫める。
決して日和ってるわけではない。
武士の情けという奴だ。最高潮の時に出て行ったら流石に可哀想であろう。
……いや。そっちのほうが良いのか?否応なしのなし崩し的にエッチに持ち込むのなら、相手の弱みをガッチリ握った方がやり易いか。
しかし、恥ずかしいのを誤魔化す為に盛大に逆切れされたら……ちょっと怖い。あの女ならやりかねん。
やっぱりやめておくか……?

「師匠。実は……」
「フッ……?」

ここでケーゴ少年が語り出した。
迷宮最下層での「約束」を今夜果たしたいのだと。
しかし、ガモのソレを見て、戦意が揺らいでいるのだと。
俺の技を盗むことで、この冒険の最後に、男としての自信、そして冒険者としての自信を得たいのだと。
最後の2つは俺も持っていない気がしたが、少年に師匠と呼ばれ、深い悩みを打ち明けられた俺に、もう退く道は残されていなかった。
ガモに差をつけられ、今またケーゴ少年にも置いて行かれたら、俺は男として再起不能となる。突き進むしかない。
大丈夫だ。あの女が相手なら、俺は勝てるはずだ……。

「フッ……成程な。熱心な理由が呑み込めた。我が奥義を伝授しよう……。口伝其の一、最後方から戦場全体を俯瞰し、戦況を見極めよ……だ。」


俺はほんの少しだけ戸を開き、外を覗き込んだ。
ケーゴ少年も、一緒に覗き込んだ。

       

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Neetsha