Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ノベル『ボルトリックの迷宮』
依頼の真実

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◆ミシュガルド温泉 催淫の湯

宴の間を後にした私は、もう一度温泉を目指した。
飛び出していったケーゴの行方を捜すにしても、ちゃんと身体を洗っておく必要があるからだ。

彼を見つけ、ケーゴはありのままで良いのだと伝えなくちゃならない。少なくとも、私はケーゴにはケーゴの愛しで愛して欲しいと思う。ガモはガモ、フォーゲンはフォーゲンであり、正しい大人のSEXなど無いのだと教えてあげるのだ。

温泉に向かう途中でピタリと足を止める。
あの調子だとガザミとガモはまだ性交中だろう。嫌だな……と思うが、フォーゲンの精を滴らせたままじゃ何もできない。
そういえば、浴室前の廊下にはあの甲皇国軍人達が転がっているのではないだろうか?
仲間の所に戻って「あの人」とやらを連れて戻り、待ち伏せしている可能性も否定できず、部屋に寄って荷物の中から戦斧を取り出し、改めて温泉に向かう。廊下は無人で、奇麗に清掃されていた。
速足で露天に身を滑り込ませ、後ろ手に扉を閉め、安堵の吐息を漏らす。

「あれ?」

ガザミとガモの姿が無い。
ベッドに寝ていたホワイト・ハットもいない。
皆、自室に身体を休めに行ったに違いない。
ガザミとガモは二人で熱烈絶賛エッチ中かもしれないが……。

身体を拭き、膣内を洗浄し、再び温泉に浸かって、全身を弛緩させて緊張をほぐす。
7日ぶりの、独りでのんびりとする時間だ。
皆が思い思いにアフターに入っているのだとしたら、寂しいけど今から再び大宴会する流れにはならないだろう。疲れもある。ボルトリックの所に行って、全員分の報酬を受け取っておこう。それを持って皆に手渡し終えたら解散にしよう。
明日の朝は各自好きな時間に宿を出て、交易所まで戻ればいい。

フォーゲンの事はもう全然怒っていないのに、なんだか気分が落ち込むような、モヤモヤがある。

「……はぁ」

そして……また淫らな気持ちになってくる。私は病気なんじゃないだろうか。
お湯の中で「挿入即発をされてそこでポイ」されてしまった、可哀想な自分を慰め始める。フォーゲンに期待した、アレやコレを自分で自分にするのだ。

「ああーっ……!」

30分ほど浸かり続け、休憩するために上がって、東屋のベッドに身を投げ出す。いつの間にやら新しく添えつけられている冷えたフルーツ盛りを口にして、初めてお腹が空いていたことに気付いた。
寂しさからか、やっぱり最後に皆で夕餉を食べて奇麗に解散したいな、と思った。

うとうとしていたら、ガラリと廊下と浴室を繋ぐ引き戸が開く。
誰かが私を呼びに来てくれたのではないか?
そんな思いから「ねーちゃん!みんな待ってるよ!」とケーゴが呼びに来てくれた幻想を見た。

そう。それは幻想だ。
実際は違った。
甲皇国軍の軍服を着た、体格の良い男性がニヤニヤと笑みを浮かべて立っていた。


◆軍人ABC

苦痛と屈辱を味わった気位高き青年下士官は、仲間が慰労会を開いていた別室の大広間にたどり着くと、大声で叫んでいた。

「廊下ですれ違った、上映会の被写体達がいただろう?あの野良犬共にやられたんだ!」

3人の内2人は重症であり、即時病院送りとなった。
この事態に血気盛んな軍人達は大いに憤慨し、二流国SHWの中の下層民である「冒険者」などに舐められたままではおけぬと色めきだった。
ケーゴに鼻を潰された青年は、仲間の盛り上がりに気を大きくして、事実とは異なる出来事を彼らに語った。

「あの淫乱女が、俺達の制服を見て媚を売ってきたんだ。だらしない身体を恥ずかしげもなく俺達の前に投げ出して、まったく酷いものだった。当然俺達は歯牙にもかけなかったのだが、しつこく自ら股を開いて俺達を求めてきた。廊下でだぞ?それでも、あんな女相手では戯れでもその気にはなれないから、その尻を蹴とばして追い払おうとした。そこに女の仲間がやってきて、後ろから俺達を一方的に殴りつけたのだ……」

奴らを吊るせ!と大いに盛り上がる。
一団の中から力自慢の男が立ち上がり、自ら上着を脱ぎ棄て、その鍛え上げられたヘビー級のボクサーのような上半身を晒す。彼は、その淫乱に仕置きをしてやる、顔をボコボコに殴りつけた後で、ハメたままここに戻ってくると宣言し、場を更に盛り上げ、ヤンヤの喝采を浴びて大宴会場から出ていった。入れ替わりに、出て行った男よりも大柄で屈強な男性兵士を従えた女性軍人が入ってくる。

「いったい何の騒ぎだい?」
「リーザーベルさん!SHWの奴らに……!」

リーザーベル・ヒノエ・シャーデンフロイデ。貴族の血筋であり、功がなくとも軍の上層部へと食い込むことは間違いなしの女軍人である。やや軽薄そうだが整った目鼻立ちをした美人であり、その場で慰労会をしていた者は全て下士官であったが、その中にあって彼女は上級士官のごとく振る舞い、周囲も彼女を持て囃していた。
彼女にとって、そこはハーレムであった。若い雄たちの女王であり、全員と性的に密接な関係を結んでいた。
SHWの下賤な女のイヤらしい映像で雄共が興奮している、それだけでも気に入らなかったのに、その女の手下によってペットが2人も病院送りにされ、1人が鼻を潰され泣いているのを見て、残忍で傲慢な彼女が黙っているはずもなかった。
手にした乗馬用の短鞭で側近を打ち据えると、脇に立っていた屈強な男性は喜びの声で答える。

「……そいつらについて、知ってることを全て話しな!」

そして彼女はボルトリックを呼びつけ、シャーロット達の映像を視聴し、現在の状況までを聞き出した。

「なるほどねぇ……その売女は、今晩仲間の小僧に手を出そうってのかい……」

好色な視線をギラつかせて、自らの唇を舐めると、その残忍な脳で直ぐに復讐プランを構築した。

「いいかい、お前達!剣士や亜人共はやっかいな戦力だから手を出すな。その代わり、甲皇軍と知りながら跪かなかった代償は、女とガキに払わせる!今夜、その二人を襲う!小僧の見てる前で、女の髪を切り、怯えて小便を漏らすまで殴って蹴って、輪わし、その後あの交易所の門に吊るしてやるんだよ!」

そして小僧はアタシが貰ってやる、とシーザーベルはほくそ笑んだ。


◆ミシュガルド温泉 催淫の湯

身体を隠す暇もなく、東屋へ上がり込んできた大男は、私を見て、ヒューと口笛を吹いた。

「実物の方がイイじゃねぇか」

言葉の意味は分からないが、私は彼の好みのタイプであるようだ。

またー!?一体何がどうなっているの!?

私があんまり奇麗すぎるから、世界中の男が殺到しているのだ。きっとそうなのだ、で終わりにしようとするが、そんな訳ないでしょ!と冷静な自分が突っ込みを入れてくる。うん。残念だけどありえない話だ。
大男は分かりやすすぎる程にスケベな笑みを浮かべて、腕を伸ばせば届く距離まで来たが、私の右手を見てギョッとした表情となって歩みを止めた。
そう。私は戦斧を握っているのである。

「不細工さん。私に何か?」
「あ、いえ。すいません、部屋を間違えました。テヘッ」

大男は「いい月ですねー」とか言いながら、後ろ歩きで廊下に出て行き、よいしょ、と丁寧に扉を閉めた。
今のが「あの人」だろうか?

私は気持ちを切り替え、新しい湯着に着替えると、ボルトリックの部屋に向かった。
ノックもせずに扉をあけると、ムワッとした籠った臭気が私を襲った。ボルトリックの体臭と、汗や精の匂いが混じって部屋中に漂っている。オエッとえずいた。
涙も出てくる。なにこの毒ガスは。

本人の姿は見えない。
暗い室内の卓上に、ぼんやりと光を放つ無数の「キカイ」が見える。
直ぐに扉を閉めて再び温泉に駆け込みたかったが、「キカイ」を見て妙に肌がざわついたので中に踏み込み、それを見た。

それは、ここじゃない何処かの光景を映し出す鏡のようであった。
「何処か」じゃない。この温泉だ。
無人となった悦びの湯を映す鏡がある。
これは、あの湯を出た直ぐの廊下を映している鏡だ。
こっちは私の荷物が置かれた無人の部屋が映っている。

ホワイト・ハットがお部屋で寝ていた。

宴の間を映す鏡には、悲しそうな顔をしたフォーゲンが、独りでモソモソとお膳を食べている姿があった。

ガザミの部屋では、彼女がガモと尚一層情熱的に絡み合っている。鏡からはその声音が聞こえてくる。

『ああ!ガモ!すごいよ!ガモ!もっと!!!』
『あぁ~!あぁ~!ガザミ!また中に出すぞ!!!』

一生やってなさい。

「ケーゴは…」

彼は、自分の部屋にいた。
真っ赤に腫らしたペニスを自分で扱いていた。

「やだ……っ」

鏡に釘付けになる。
顔を赤くしながら、荒々しく自分のちんちんを握って、ゴシゴシと刺激をしている。
そんなにして、爪も切って無さそうだし、それで傷つけっちゃったりしないのかと心配になる程の激しさだ。

『うぅ!ね。ねーちゃん!俺イクっっ!!』

私を想像している。それが嬉しくて濡らしてしまったが、これは見ちゃダメなものだと顔ごと視線を切る。
そして、私の足が映っている鏡を見た。

これが人の目であれば……としゃがんで、その方向を見れば、ガモが担いでいた「キザイ」が転がっている。変な話だが、このキザイが私を見ているとして、それがこの鏡に映し出されているように見える。
キザイに向かって手を振る。鏡の中の私が手を振って答えた。

ガモのキザイが私に向けられていた意味が、今分かった。
どんなやり方で、迷宮を見ていたのか……その答えがこれだ。

「ぐあ!?おま、なにしとんねん!?」

トイレか何かで中座していたであろうボルトリックが戻ってきて、私を見て飛びあがって驚き、声を荒げた。

「ボルトリック……」
「な、なんや!?お?ヤルのか!?」

その顔は、私が彼の企みを知り、最早言い逃れができないと悟っているようだ。
逆ギレで恫喝して誤魔化す腹積もりだろう、酒樽のようなズドンとした胴体から生えた短い脚を開き、軸のブレていない意外に綺麗な左半身の中腰になり、その腕を肘張らせて八極拳に構えると、震脚して、ズシン!と床を唸らせた。

「ワイはこう見えても、若い頃は戦いに明け暮れた日々を送っていたんや……!楯突くなら散々に犯しつくした後、風呂屋に叩き売ってやるぞ!」

私は微塵も怯まず、真っすぐ行って右ストレートでぶっ飛ばした。
彼は殴られた頬を軸に身体を床と平行に浮き上がらせて、横腹で弾んで滑って反対側の壁まで吹き飛んだ。
窓を開けて換気してから、踞ってビクンビクンしてる彼の元に行き、その腰を思いっきり踏み砕く。

「ぎゃあ!!」
「説明してくれるかな~?甲皇軍の奴らとの関係もね」

そして、ボルトリックは土下座しながらポツリポツリと語り出した。

この「カメラ」と「モニター」は遠隔地の情報を「映像」と「音声」で見聞きする事を可能とした甲皇軍の最新機器で、戦争に革命を起こし、世界を変える程の一大発明品であり、知人の軍人から、巨額の報酬でその運用テストを頼まれたのだと言う。

「そこでワイは、趣味と実益を兼ねてスケベダンジョンを造り、ねーちゃんに声をかけたんや……」
「どうして私に……?」
「そら勿論!美人やし、エロい身体しとるし!カメラとモニターで見るにはちょうど良かったからや!」

納得の解答ではある。

「なるほど……」

全てのパズルピースがガッチリと組み合った。
大掛かりすぎて割に合わない嫌がらせとなっていた理由も明かとなった。

更に彼は、食事に媚薬を混ぜていたこと、ダンジョンに催淫の粉を撒く植物を植えていたこと、ダンジョンは一層のローパー変異種がいた辺りから既にハギスに乗っ取られていたこと、何人かの甲皇国軍人連中も一緒にモニターを見ていたこと等々、驚愕の真実全てを白状した。

あの嫌な目つきの軍人や、私を狙うように絡んできた青年軍人達も……私のアレやコレを見ていたから、あんな揶揄の視線で見て来たり、気安く触ってきたりしていたのだ。

羞恥に顔を扇ぐ。

初めからエロスを目的として造られたボルトリックのダンジョン……その禍々しさが、人の邪念を糧に育つ魔宮ハギス・アンドゥイエットを呼び込み、リアルタイムに私たちの痴態を眺めて高ぶらせたその煩悩が、魔宮と完全にリンクして、ダンジョンはより強力な催淫の迷宮となっていた。
最下層で壁に浮き出ていた私の女性器は、その前夜、ガザミにさせられた宴会芸を、ガモの構えたらカメラ越しにボルトリックが見ていた為に、彼と煩悩を共有していたハギスに認識されて擬態されたものだったのだ。

ほぼ全ての違和感に答えが示された。

これが、人と魔が一体となって造る、淑女を娼婦に変えてしまう悪魔の仕掛けの全容だ。
私が強制的にエッチな気分にさせられ、毎晩オナニーしてしまったのも、この悪魔じみたボルトリックの計画のせいだったのだ。
恐るべき罠の結果だったのだ。
まったくの不可抗力だったのだ。
誰も私を淫乱とは責めれないだろう。

自分でも大丈夫かなと思う程にオナニー三昧の日々を送っていた私はちょっと安心した。病気じゃなかった。

ん?と、言う事は……。

「……正直に答えなさい。お、オナニーも……見たの……?」
「そらもうバッチリ!」

エエもの見せてもらいましたわ!と笑顔を向けてきたボルトリックを鉄拳制裁する。

「この馬鹿!スケベ!痴漢エッチ変態!!そもそも今すぐ死んでしまえーっ!!!」

目の前のおデブちゃんを含む不特定多数の男性に痴態を見られてしまった事を知り、羞恥が突き抜けてぐっちょぐちょに股を濡らしてしまっている私は、恥ずかしさも手伝って逆上し、己を見失い、「ちょ!やめぇ!」と叫んで防戦一方となっている彼を蹴倒し跨いで、その上からガンガンに拳と踵の雨を降らせた。
彼の顔面が晴れ上がり、そのシルエットが3頭身になった頃にやっと手を止め、ふーっと深呼吸して羞恥と怒りを和らげる。

「……報酬は、3倍貰うからね」
「ええ!?そんな殺生な!!」
「この場で、この機械を全部叩き壊してもいいんだけど……?」
「いやいや!シャーロットはんにはかないませんな!わかりました!3倍!いえ!そのお美しい姿を盗み見た罰として!5倍の報酬をお支払い致します!」

私に30,000YENの値を付けた商人を見下ろす。
10YENで質の良い料理をお腹いっぱい食べる事が出来て、100YENで交易所最高級の部屋に一泊できる。
1000YENでワンシーズン生活が出来て、10,000YENも出せば、かなりグレードの高い魔法武器や防具が揃えられるだろう。

「……まあ、許すとしましょう。魔胆石は私が貰うからね」
「はいはい!是非お持ちください!お美しいシャーロット様!」

今すぐ支払えと手を出し、個人報酬30,000YENと獲得品の魔胆石を確認してから、皆の分も受け取り、エヘエヘとゴマをするボルトリックを一睨みしてからその超臭い部屋を後にした。


◆ボルトリック

シャーロットが尻を揺すりながら部屋を出て行ったあと、ボルトリックは揉み手を解き、怒りのあまり壁を蹴り飛ばした。
あの女に30,000YENの価値などあろうはずもない。
街の大広場で、ローパーとの性行為ショーを開催させたとしても、30,000YENどころか300YENも稼げれば御の字なのだ。

「くそ!あの売女め!」

彼は収まらぬ怒りに任せてもう一度壁を蹴り、小指を箪笥の角に痛打して悶絶した。
実に哀れな姿だ。
だが、ボルトリックはシャーロットとの戦いには実質勝利している。
「カメラ」で見た映像を「記録してとどめ、それを増やすことができる」などとはお天道様でも気付くまい。
本当の金づるは守り抜いたのだ。

「……まあいい。30,000YENなど直ぐにでも取り戻せる。お前の恥を売ってな……!」


◆ミシュガルド温泉 別館

再び浴室で芯まで身体を洗い、ボルトリックの体臭を除去した後、私はまず最初にガザミの部屋を訪れた。
ガモと宜しくやっているのは知ってるので、その扉を叩いて大声で呼ぶ。

「ほらガザミ!報酬渡すから取りに出てこい!開けなければ蹴破ります!」

ちなみにこの宿、部屋に鍵などついていないので、蹴破らずとも普通に入室できる。

「さーん……にーい……いーち……」

カウントダウンを始めるとバタバタと音がして、全裸の──といってもいつもそうなのだが──ガザミが火照らせた顔を覗かせた。
ちょっと汗臭くない?と言いながら、ガモの分まで報酬を渡す。

「はい。二人で12,000YEN。確かめて。夕餉は宴会場にあるから」
「お、おう……」
「これで自由解散にします。ガモにもよろしく」
「お、おい!お前勘違いするなよ!アタシは……!」

ガザミのウダウダを聞かずに、こちらから扉を閉める。スッ飛んでガモのおちんちんをしゃぶりに戻るくせに、なーにが勘違いなものですか。
その証拠に、彼女は廊下まで私を追ってこない。
ガザミとガモの愛の巣を離れて、お次はホワイト・ハットのお部屋へ向かう。ノックするだけして入り、スヤスヤと寝ている彼のズボンのポケットに6000YENを差し込んで、布団を掛けなおし、ぽんっと猫のように柔らかい頭を撫でた。
大魔法の連発は小さな体に負担だったのだろう。深い眠りについている。

「ありがとう。ホワイト・ハット。おやすみ」

心配だから、明日もう一度様子を見に来よう。ベッドサイドに落ちていたトレードマークの魔道帽を拾い上げ、机の上に置いて、静かに部屋を出た。

足は次なる目的地、宴の間へと私を運んだ。
廊下のガラスを鏡代わりにして、髪を落ち着かせ、衣服の乱れを整えて、こっそり中を見ると、フォーゲンは捨てられた犬のような顔をして煮豆を一粒一粒と食べていた。
パンと!音立たせて襖を全開にして、中に踏み込む。
私に気付いたフォーゲンは、キリリと表情を整えた。

「フッ……煮豆オイシイな……」

全然かっこつけれていない。
気が動転しているのだろう。それもそうだ、彼の黒歴史となる「挿入即発」を受けたのは私なんだから、どう接していいかわからないに違いない。そんな彼に歩み寄り、隣に座って報酬を差し出した。

「お疲れ様。はい、これが報酬の6000YENだから確認してね。本当だったら1000YENは差し引くところだけど、フォーゲンだからお金は取らないでいてあげる」

これで、私がもう怒っていないと伝わっただろうか。フォーゲンだから不安だ。

「皆も疲れてるし、ここで解散とします。宿は明日の昼まで料金なしで使えるから、今夜はお酒でも飲んでのんびりしたら?交易所で見かけたらまた声かけると思うから、そのつもりで」

緊張で固まっている天才剣士に解散を告げて立ち上がり、私は広間を出る直前で彼を振り返る。

「大丈夫。誰にも話したりしませんから。そうそう、次からはお友達価格にするので、「練習」したかったらいつでもどうぞ」

扉を閉めてから、我ながら大胆発言だったと若干恥じらった。同時に「それでも意味分かってないんだろうな」と思った。


広間から客室へと向かう廊下を進む。
外はもう月明りの夜景だ。立ち止まり、窓を開けると、冷たい夜風が火照った頬を優しく冷ましてくれる。
これで、今回の仕事は終わり。
名残惜しいような、へんな感傷的な気分になっているのは、なんだかんだ言いながら、今回の仲間を気に入ってしまったからだろう。
別に、これで今生のお別れになる訳じゃない。また仕事に誘えばいいだけの話なのだ。

暫く夜風にあたり、星を数え、歌を唄って、窓を閉めた。

そして、私はついにケーゴの部屋の前に立った。

       

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