Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ノベル『ボルトリックの迷宮』
聖女降臨

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◆ガザミ

「あー!くそっ!くそーっ!!!」
「うるせーぞ!静かにしろ亜人女!」

魚人の女戦士はクソクソと喚きながらゴツゴツと壁に頭突きをしていた。
独房に移されて一日目、早くも壁がおでこの形に凹んでいる。

「ぐあー!!!」
「だから止めろって言ってるだろーが!!飯やらねーぞ!!」

思いっきり仰け反ってから、再び建物を揺るがすほどの勢いで壁に頭をたたきつけた。
思い出すのはあの肉体美で釣ってきた男軍人との出来事だ。


酒飲み勝負で浮世を忘れ、こちらからディープキスをして誘い、男の手を引き二階に駆け上がって部屋に引き込むと、「おいおい、あんまガッつくなよ!」などと逃げ腰になっている彼のズボンを下ろしてボロンとした極上のペニスを取り出した。
一度下から上へと外壁を舐めまわしてからしゃぶりついて、オーラルで味わう。
それはミチミチと音を立ててそそり立った。

「う……」

男が快感に呻く。
唾液を糸引かせてペニスを吐き出して、ハァハァと息を荒立てつつ、正面から抱き着くようにして腹を擦り合わせ、片足を上げて対面立位での接合を試みる。
が、男は故意にペニスを動かして挿入を焦らし続ける。

「てめー!いい加減にしろよ!」

軽く彼をビンタして、ペニスを掴み、宛がう。しかし彼の巨根はビン!!!と反り返って反発して逃げまわる。
ガッチガチのそれをなんとしても味わおうと、男をベッドに押し倒し、素早い動きで上位を取った。
レバーを引くようにしてペニスを上向かせて、跨ぐ。

「はっ!覚悟しろよぉ……お!?」

不意に後から頭を殴られたような衝撃を味わって、グラリと視界が回り、ベッドに顔から埋まるように落下した。
自分の身体がぐにゃりと脱力していくのが分かる。

「悪いな……」

男は何かバチバチと音を立てて発行する機械を握っていた。それを押し当てられたのだ。

その後何か侮辱された気がするが、思い出せない。
しかし、それを思い出さずとも、死にたくなる程の屈辱を味わった事実には変わりない。
ハニートラップに引っかかってしまった自分への怒りと、その数倍、数十倍にもなるあの男への怒りが、ガザミの心を支配し、渦巻き、かき乱し、自傷気味な破壊衝動を滾らせていた。

「ぜってぇ殺す!殺す!!ブッ殺す!!!」
「フン……大人しくしておけ」

鉄扉の向こうから聞こえた声は、牢番の軍人のものではなかった。
開いた小窓の向こうに、ハーフオークの戦士の顔が見える。

「てめぇガモ!どの面下げて……!」
「まったく。いい様だ。そうだな……ホワイト・ハットだ。またホワイト・ハットに母乳でも吸ってもらって、落ち着いたらどうだ?」
「う、うるせぇ黙ってろ!!!」

ガザミは不意に頭を抱えて叫び、毛を逆立てフーフーと肩で息をしながらも、次第にそのトーンを落としていく。
両者は無言のまま睨み合い、見つめ合い、ガモはガザミの呼吸が落ち着いた頃合いを見計らって、食事を載せたトレーを差し込んだ。

「……安心しろ、お前のには媚薬など盛られていない」
「くっ!」

ガザミはガモを睨みつけながらトレーをひったくり、皿まで喰らう勢いで全部を掻き込む。リスが頬袋に餌をパンパンに詰め込んだ姿のようになったが、咀嚼もそこそこに、食塊をゴクンと一度で飲み下した。

「……ちっ」

ガザミはトレーを突き返すと、ベッドにどさっと身を横たえる。
ガモはその姿を確認し、鉄扉の小窓を閉めるのだった。


◆ケーゴ

「フン!フン!フン!」

独房の中に雄々しい呼吸が響く。

「フン!」

ケーゴは無意味に正拳突きを繰り返す。
足は肩幅に広げ、ぐっと腰を下ろし、足の親指で地面を掴んで力をため、腰から捩じりこむように肩を入れ、肘から拳を打ち込むのだ。
これを左右交互に繰り返す。

「フン!」

今朝になってガモが皆に食事を差し入れた。
そこでの直接的な会話は無かったが、ホワイト・ハットとの「念話」により、メンバー全員が状況を確認した。
明日、軍内部の協力者がこの基地に到着する。まさしくフォーゲンが言っていた「機」だ。
師匠は何かを感じ取り、この脱出の機会が巡ってくる事を予見していたらしい。
彼らはロンズデールよりも中央に顔が利く立場らしく、「映像商品の流通」によって巨大な利権を手中に収めようとしているロンズデールを危険視して、彼の失脚を狙う腹つもりもあるらしい。
これはボルトリックが考えたことで、つまり、組織内部の派閥争い、平たく言えば足の引っ張り合いを利用しようと言う事なのだ。
実に商人らしい考えだ。

「フン!」

型稽古をするときは、基本の動きを体に染み込ませる事が一番大事だが、ただ漫然と正しい型を繰り返すより、敢えて異なる動きを混ぜ、如何なる状態からでも基本の姿勢を保てるようにするのがコツなのだとフォーゲンは教えてくれた。

「セイッ!」

不意に前蹴りを放ち、その足を着地させながら踏み込んでの正拳突きへと型を変容させる。
動作の連結が悪く、安定感を失った足元では弱い突きしか出せない。これではダメだ!もう一度!

「セイッイィイーーーイイイっ!」

蹴り出した足を箪笥の角にぶつけ、ケーゴは飛び上がって叫んだ。ぐぎゃあああああああ!と喚きながらぶつけた足先を両手で抱え、フゥフゥと息を吹きかけながらケンケンする。めっちゃ痛い。涙が出た。

暫しの休憩だと足を押さえながらベッドに座る。
足の痛みも引き、そう言えば今日の夕飯は遅いな?なんて考えたころ、カタン、と鉄戸の小窓が開いた。

「おい。少年。飯だぞ」
「オスっ」
「あと、今日の映像が来たけど見るか?」
「オスっ」

フンフンと鼻息荒く廊下に出ると、アチャアチャと蹴りを繰り出しながら廊下を進む。
それを見ている男性軍人は特に何も言わない。
フォーゲンやホワイト・ハットが着席し、トレーを膝に乗せて肉料理をモグモグと食べていた。
ケーゴも彼らに連なって座ると、同じように夕食を口に運ぶ。

そして映写が始まった。



◆???

そこは、交易所の宿。その二階の私の部屋だった。
隣にはケーゴがいて、グゥグゥと寝息を立てている。
すっごく熱い夜で、身体は寝汗でぐっしょりだった。
ベッドを降り、開け放った窓に夜風を浴びに行く。

窓の外は、酒場前の表通りに面している。裸でここに立てば、夜目の聞く人にはバッチリ見られてしまうだろう。
ケーゴに散々愛してもらったはずなのに、身体が下腹から燃えるように熱い。
窓辺に立ちながらそっと下腹部に指を這わせる。

「ああ…っ」

火の吐息をはきながら膣の中を二本指でかき混ぜつつ、片方の手で陰核を弄る。

「ああぅっ!!!」

そこに腰振りを加えて、床板がギシギシときしむほどの激しい立ちオナニーを始める。

「はぁぁ!はぁあ!ああっ!」

グゥグゥと寝ているケーゴが起きる気配はまったく無い。彼に気付いて貰うために頑張ってダイナミックに尻を振り、頑張りすぎて部屋の床がバリバリと音を立てて割けて、ガクンと視界が揺れ、私は一階酒場に落下する。そこでは、今まで見知った全ての冒険者が揃っているのではないかという程の大宴会が催されていた。

「あ……!」

視線が集まり、静寂が広がり、世界が静止し……とんでもない姿を見られてしまったことで私はブルブルと震え、その場で絶頂して愛液を漏らしたのだった。


「……はうう!!」

全身汗びっしょりのままに悪夢から覚める。
身体には夢の余韻が残り、夢イキの真っ最中で痙攣しながらシーツを汚していた。
下腹に手を伸ばそうとして、手首と肩に痛みが走る。ガシャン!と手枷が鎖音を立てた。

「え?!」

両手は拘束され、その手枷はベッドの背板に固定されていた。
足も、いつもの枷とは別に、足錠が嵌められている。

「な、なに!?」

私は大いに焦った。この拘束が、私自身がオナニーによって性欲を満たす行為を封じるものだと理解したからだ。

「ああっ!ああっ!」

ひっぱり捻り、ヨガのように身を捩って拘束を外そうと努力するが、まるでダメっ。ぜんっぜん無理。
私はどんどんと大きくなる淫感に、ひぃ!と悲鳴をあげる。
ベッドに腹這いになり、お腹を打ち付けるようにして、なんとかシーツに陰核をこすりつけようと苦心していたら、突然ドアが開かれ、私はバタっと寝たふりをした。チラ……と薄目を開けてみれば、当たり前のようにロンズデールが直ぐそこに立っていて、私を見下ろしていた。

「まったく……本当に淫らな女(ヒト)ですねぇ……」
「う~~!」

ダメ。もうこの変態の視線ですら気持ちいい。彼の指が伸びる。ツンと立っている乳首に向かう……が、その指は直前で止まった。

「はぅう!!」

期待を裏切られて身動ぎする。また彼の指が伸びる。今度は下腹に向かっていく。足首を固められているので、膝から股を開いてそれを待つ。が、やはりその指は直前で制止する。

「ああ!い、いやっ!!」
「今の貴女では、もはや全ての責は悦楽にしかならないでしょうね。お手上げです。どうしたらいいのでしょう?」

ロンズデールは困っている演技をし、さあ弱りました弱りましたと眉間を叩いている。こんな時はおそらく既にもう答えが出ていて、これは小芝居なのだとわかっていた。
期待半分に彼の言葉を待つ。
オーク?オークなの!?

「そうだ!このまま一晩何もしないでおいたらどうなるのでしょうね!?」
「ええええええ!?」

彼の用意した拷問は、およそ考えられる中で最悪のものだった。
このまま放置されたら、気が狂ってしまう。今だってもう限界を超えているのだ。
一晩中この淫感に浮かされながら、解消するすべもなく身をよじり続けていたら、心と身体がおかしくなってしまうに違いない。
例え明日の朝ケーゴが助けて出してくれて、三日三晩の猛烈なエッチをしてくれたとしても、元の奇麗な身体に戻れる保証はない。
どれ程幸福な絶頂を迎えてたとしても、それでも満足する事が無いような、無間地獄に堕ちてしまう気がする。
持続性性喚起症候群──日常生活に支障がでるほどの頻度で突発的かつ持続的に性的欲求が発生する病気のこと。
若しくは、異常性欲型多淫症(色情症)と呼ばれるような、ニンフォマニアと呼ばれるような、万年発情色魔となる可能性が脳裏をよぎる。

そんな女を誰が愛してくれるというのか。
まともな男性なら裸足で逃げ出すだろう。

「え?!あ、あの、ちょっ……!」

私は出来るだけ可愛く可愛く身を捩り、ロンズデールに色目を使った。彼の股間が反応している。
私の誘惑に負けたロンズデールが、その手を陰部に差し込む。彼の長い指がずるんっと根元まで膣に潜った。

「あああーっ!」

安堵と快感。
もう逃さないとばかりに太ももを閉じてその手を捕らえ、膣肉を絞め、ちゃく!ちゃぐ!とひしゃげた水音が響かせながらお尻を振りまくる。
彼は人差し指と中指を入れてるだけだが、それだけですごく気持ちいい。

「はぁ!イイっ。ん!う、うれしっ……い!あっ!う、うごかして!うごかして!うごかして!」

甘えれば言うことを聞いてくれる。そんな手応えがあって、私は彼にお強請りする。彼がその指を動かし、ハサミのように広げて、ぐぽっと膣を拡張し、そこに親指を使って何かを埋め込んで、ずるっと指を抜き去った。

「はぅ!え!?」

愕然となってロンズデールを見上げる。彼はハンカチで手を拭いていた。もう終わり……?

「折角手枷足枷で、貴女の得意な自慰を封じているのですから、私が気持ちよくしてしまっては、元も子もないでしょう。勘違いさせてしまったのならすいませんでした。今挿入させていただいたのは、催淫剤です。経口投与とは違い、粘膜から吸収されれば、肝臓で代謝されずに初回通過効果を回避することが出来るのです。難しいですか?食事にまぜたものを食べるよりも、とてもよく効く、と言うことですよ」

彼が言っていることを頭で理解する必要は無かった、身体が戦慄し、これから襲ってくる淫感の前に全身から全ての熱が消えたのだ。
嵐の前の静けさのように、身体が、無感になっている。

「それでは冒険者のお嬢さん、素敵な夜になるといいですね」
「ま、待って……!」

ロンズデールは恭しく一礼し、そして扉は閉ざされた。

「はっ…はっ…」

呼吸がどんどん弾んでくる。下腹が熱い。身をよじる。
ずん!と脊髄を直接叩かれたかのような反射がおきて、腰を持ち上げる。

「あっ…はっ…ダメ……」

ぞくぞくとした淫感が太腿を這いあがる、それが陰部に達して、ドーン!と突き抜けた。

「んゅーーーーーーっっ!!」

ブリッジして身を跳ねる。そのまま腰を左右に振って、泣き喚いた。
ダメ。このままじゃ壊れる。発狂する。

何か。
何か手は無いのか。
不意に思い出したのは、ホワイト・ハットの言葉だった。

『おねえさんには魔法の才能があるのかもしれません』

そう。魔法だ。
魔法が使えれば全てが解決する。
あの状態異常解除の魔法で癒された時の、あの感じを……!
一朝一夕に身に付くものではないかもしれないが、今ほど必死の集中力を発揮できる状況もないだろう。
火事場の何とやら。
私の中に眠る魔法の力があるのなら、今こそ──!!!


◆ロンズデール

拷問は二日目の朝を迎えた。
ロンズデールは、早めの朝食を終え、身支度を整えてから足取りも軽く女冒険者の部屋へと向かった。
彼に与えられた日々の軍務は、このミシュガルド前線基地における環境の管理だ。それは即ち後方支援的任務であり、ある意味では「雑用係のトップ」に過ぎない。戦地に赴き亜人を拷問にかけていた日々とは比べようもない程に退屈だった。
そんな鬱屈とした毎日の中で、制限が設けられているとはいえ、一方的に嬲る事が出来る相手がいる事を神に感謝せずにはいられなかった。
昨日のあの様では、一晩で発狂しているかもしれないな……などと考える。
正気を失った女を相手にしても面白くない。
場合によっては治療を施す必要があるが、その医療を記録とするのもまた面白そうだ。
扉を開ける前に、髪をオールバックに撫で付け、コンコンコンと、気取った仕草のノックの後、返事を待たずに部屋へと踏み込んだ。

「お目覚めかな、お嬢さん。さあ希望に満ちた一日の始まりですよ」

室内には淫香が漂っていて、あの女が一晩自らを慰める事も出来ないまま泣きイキ狂ったであろう事が示されていた。

「おやおや、これは窓を開ける必要がありますね。御覧なさい、今日もいい天気です」

部屋を横切り窓を開け放って、外気を呼び込む。レースの天幕の中、ベッドに身を横たえている相手は返事を返しては来ない。
気を失っているであろうことは容易に想像できた。もし意識があるのであれば、今この瞬間も悶え喘いでいるはずなのだ。
ニヤリと笑いながら天蓋を捲り、中を覗き込む。
股を広げて泡と潮を吹いている無残な姿を予想したが、意外にも、女冒険者はスヤスヤと寝息を立てていた。
それが面白くないロンズデールは、表情を曇らせる。
最初は演技をしているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
チッと小さく舌を打ち、手を伸ばして彼女の大きな乳房を掴み、手を埋める程に揉み込んだ。

「はぅ!」

女はビクっと大きく身を跳ね上げ、そして目を開けた。
そら、目を覚ましたぞ。これで怒涛のお強請りが始まるに違いない、ほくそ笑んだロンズデールは、そのままやわやわと乳房を揉み続けた。


◆拷問二日目

私は、胸部への直接的な接触によって夢から覚醒した。
悪戯の相手は、ロンズデールだった。

「……朝から私に発情?冗談止めてよね。ほら、手をどけなさい」
「なっ……!?」

ロンズデールは、私のリアクションに驚いて目を見開く。
ふっふっふ。催淫剤だの何だのが無いのに、気の無い相手におっぱいを触られた程度で感じる訳が無いでしょうが!

「一晩鎖で縛って動けなくして、欲求不満にさせてから、悪戯をする。今日の予定はそんな感じって事でいい?」
「何か勘違いしているようですね。初日から壊れてしまっては困るので、一晩お休みを差し上げただけでしたが……それを責めと受け止められてしまっていたとは」

嘘ばっかり。催淫剤まで使っておいて、何を言うか。一晩で何度も限界を迎えた私が、狂ったように男を求めて泣くのを期待していたはずだ。
私は目を細めてロンズデールと瞳をぶつけ合った。
彼も私の目を覗き込んでくる。

「おかげさまで。ぐっすり眠れました。まあ30日もあるんだし、もう一日くらい『お休み』があってもいいかもね」

催淫薬を入れられてからの拘束放置など怖くない。
嘘ではない。
今の私には……「加護」がある。

それは昨日の晩の事。
触れずともオーガズムに達してき叫びながら失神し、淫らな夢の中でイキ、またオーガズムによって目覚める。これらを30分おきに繰り返した結果、私の意識はぼやけ、それが夢なのか現実なのかもわからなくなり、深いトランス状態にはいった。それは一種の仮死状態に近いものであったのかもしれない。

その最中、幻聴のように聞こえてくる声があった。

『……さん……おねえさん……』
『ホワイト……ハッ……ト……?』
『はいはい。おねえさん。ホワイト・ハットですよ』

意識が拡張した結果なのか、ホワイト・ハットが私と繋がろうと試みていた「念話」を受けとめる事ができたのだ。
彼曰く、同じ建物にいるという物理的距離の近さもあり、また一度彼と「繋がった」事があった為の幸運との事だった。

『よかった!私にあの浄化の魔法をかけて!もうダメ!も、もうダメなの……っ!』
『あれほどの効果を出すには、接触状態での発動が必要になります……代わりの手立てがあるのですが、遠隔で強い効果がある代わりに、その代償を後に支払うものなのです。よろしいですか?そして、この魔法は大変疲れるので、後々母乳を戴きます』

今は後遺症などと言ってられない!
それこそ、このままだともう二度と普通の身体には戻れない程の後遺症を負ってしまうかもしれないのだ。

『それでいいから!はやくぅ!』

ホワイト・ハットの言う「後の代償」をじっくり吟味する余裕は無く、魔法の助力を願った。

『言っておきます。おねえさんの感覚を抑制し、その効果はおそらく数日程続きますが、いつ切れるかはわかりません』
「ああっ!ああっ!んっ!あっ!ほ、ホワイト・ハット!!お願い!しんじゃうぅう!!」
『そして、これが大事です。魔法が解けた後、抑制されていた感覚が一気に戻ってくるのです。この魔法は一種のバーサーク化を施すもので、恐怖心や痛みを忘れ戦い続けるための、身体に無茶を強いる魔法です。戦において多人数に発動させるために、接触ではなく、広範囲に効果が及び……』
「あっ!はんっ!う!あぅ!うぅん!あぁーんぅ!だ、だれか!だれか触って!!!私を虐めてーーーっ!!!」
『おねえさん、聞いてます?……ません、よね?ではいきまーす』

ホワイト・ハットの魔力が私を包み、体と心がすぅ……と静まり、熱が引き……。それは「冷静になった」のとは違う感覚で、羞恥に囚われる事もなく、私は安堵と疲労から眠りについて、そして、今に至っているのだ。
ロンズデールは焦りながら、部下を呼び込み私を囲んで、再びお犬にして写真を撮りはじめるが、それを平然と受け流す事が出来る。
恥辱を感じないというのが、こんなにも『無敵』だとは思わなかった。

「可愛くとってね。今後毎晩それを見ながらニヤニヤしててもいいけど、この拷問が終わったら私と貴方は無関係なんだから、二度と話しかけないで」

他の男性たちにも視線を向け、ウィンクする。

「私と親しくなったとか勘違いしないようにっ。さあ、散歩でもなんでも。わんちゃんとエッチでもなんでもどうぞ」

ロンズデールは昨日とは違うコースを歩き、より多くの人の前に私を連れて行った。
昨日はその先々で向けられた視線を嘲笑と感じていたが、今ならそれが私自身の思い込みが強く反映されていた幻想であったことが理解できる。
殆どの視線は性的なものでしかなく、ブスとかデブとか、時に私の容姿や身体を哂い嘲る者がいたが、蟻の触角の先ほども気に病むことはなかった。

「はいはい。文句言うなら見ないでいいから」

そう言い返して、堂々とする。
毅然としたまま歩を進め、昨日は見ただけで失神してしまった檻の前に到着した。
手足の枷足を外されて、突き飛ばすように檻の中に入れられる。
私は恥ずかしさからではなく、人としての威厳を示すために、二本足で立ち、下腹と乳房を腕で隠す。
目の前には、鎖でつながれている、ペニスをいきり立たせた大型犬がいて、周囲は卑猥な期待を視線と歓声にして私にぶつけてきていた。
檻の外から小石が飛んできて、尻にあたる。流石にすこーしだけビク!と肌に感じたが、私はわんこの目を見続けた。

「皆さんお待たせしました。こちらの彼女は、昨日この檻を見ただけで乳房と尻を振り回し、潮を吹いて失神していたのですが、本日はそのような痴態を晒すことなく、気丈にも!自らすすんで檻の中へと入りました。種を超えた愛を我々に見せてくれるそうです!」

ロンズデールのトークにはいつものキレが無いように感じる。
開始の合図と共に鎖から放たれ、私向かって駆け出した短毛犬は、飛び掛かる寸前でその足を止めた。
私は、微塵も怯えずその子から一度も目を離していない。
その視線が、二人の上下関係を創っていた。
私から手を伸ばす。上から伸びてきた手に、犬は身を沈めて警戒を示す。
ゆっくりと近づく。牙を剥いた威嚇はない。中途半端に呻っているような鳴き声を発して、犬が迷っている。
そのまま、私は膝をついて犬の柔らかい身体を抱きしめていた。
首筋を撫で、その鼻にキスをする。
軍用犬はハッハッと舌を出しながら呼吸して、尾っぽを振り始めた。
私は犬の頬をくしゃくしゃに抱いた後、おでこをくっつけてその目を覗き込む。

「よしよし。いいこ……」

ペロペロと犬に頬を舐められ、くすぐったさに微笑む。
どーよ。これが人と犬の愛の形ですっ!
犬と女のエッチなんて下世話な見世物を期待していた軍人達の薄汚れた目に、今の私は伝説の聖女もかくやの清廉乙女に映っている事でしょう。
ああ、ケーゴにも見せてあげたい。

群衆は期待していた流れと異なる展開に、ざわざわと騒ぎ出す。
ロンズデールがブルブルと身を震わせ、「馬鹿な!」と口に出すのを見た。
ここに一抹の不安がある。
恥をかかされたと犬に逆恨みした彼が、この子を殺してしまうのではないか、と。
彼のような人間は、平気でそれをするだろう。
その確信は直ぐに現実のものとなった、ロンズデールは拳銃を抜き、その銃口を犬へと向けたのだ。

「駄犬が……!」

私はその射線を遮るように立ちはだかった。

「あてが外れて犬に八つ当たり?撃つべきなら私でしょう?その時は当然こちらの勝ちになるけどね!ほらっ。わんこの次の辱めはないの?どんな下品な仕掛けでも、私にはノーダメージですけど!」

ロンズデールはピクピクとコメカミを痙攣させ、結膜下出血を起こしそうなほどに目を血走らせている。
一人の軍人が彼に駆け寄って耳打ちした。

「ロンズデールさん。軍用犬の管轄権は……」
「わかっていますよ。これはあくまでもポーズです。彼女の強気を引き出すためのポーズなんですよ。聞きましたか?次はどんな屈辱にも耐えると言っていますよ」

彼は「それほどの啖呵を切っておきながら、情けなく泣きわめく姿を晒す」そんな演出の為の演技だと言い訳をしている。
どうやら、彼はこの場を仕切っているようだが、軍備その他を好きに出来るという立場ではなく、軍用犬1匹にどれだけのコストがかかっているかは分からないけれども、それを気分一つで殺処分、という訳にはいかないようだ。
ああよかった、と胸を撫で下ろしてホッとする。

……あれ?心に揺らぎが……。

背後に庇っていた犬が、甘えてお尻をぺろぺろしてくる。

「んっ……」

ビックと感じて吐息が漏れる。

……あれ?身体にも揺らぎが……。
そういえばさっきわんちゃんに頬を舐められた時もくすぐったかったような??

改めて周囲を見れば、数えきれないほどの男性が塊となって私を見ている。
私は、裸だ。
バッとより乳房と股を覆い、脚を閉じ、身を少し丸める。
えええ!?数日は持つはずの魔法が、消えかかっている!?

『ホワイト・ハット!も一回!も一回!』

頭の中で救いの天使に声を掛けるが、返事が返ってこない。
もぢもぢと身をよじる。
汗が噴き出してきた。
下腹が濡れだす。
それを犬が舐める。

「あっ!」

声を上げて片膝を曲げる。
ロンズデールは私の異変には気づいていない。トントンをコメカミを叩きながら何か次の責めを考えているようだ。
そんな必死になって考えないでいいから!
一度私を部屋に戻してゆっくり考えていいから!

『ホワイト・ハット!まだ半日くらいしか経ってない──っっ!!!』
「いいでしょう。では、こうしましょう!」

ロンズデールは、パンと手を叩いてから、その目に狂気を宿した不気味な微笑顔を上げる。

「え?!あ、あの、お手柔らかに……ね?」

私はひくひくと頬を引き攣らせた。





       

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Neetsha