Neetel Inside 文芸新都
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死立ジェノサイド学園!(男子部)
佐東教官

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-3-

「下車ァ!!」

ふと爆音のような怒号で目を覚ました渥美焔たちは己のカバンを背負い、
片手に掴みながら下り始めた。

皆が皆激しい車酔いでこれから屠殺場にかけられる豚のような
重い足取りで校庭へと歩いていく。そこにはかつて自分が先走って送ったRVボックスが
並べられており、各人がそれぞれ自分のボックスの前に立ち整列するようになっていた。


「荷物を置かんか……」

松田優作に似た強面の教師らしき男の指示のもと、焔たちは鞄を置き、
休めの姿勢で次の指示を持っていた。

「あ~ぁ…めっちゃだるいよなぁ……なあ、お前もそう思わへん?」

ふと声のした方向を見ると金髪ヘアの褐色肌の美少年がそこには居た。
ソフトモヒカン、エメラルドの緑色の瞳……一見してハァーフだと言うのが
見て取れた。

「あ……うん……そうですね……」

人見知りまっしぐらな渥美焔はとっさの敬語で答えた。
いや、むしろ初対面なのにここまでグイっと入ってくるフレンドリィさに
思わず面食らって、思わず身構えて敬語になってしまったというのが正しいが。


「なんやー 自分 敬語なんてええやん。
これから先、同期になるんやし……あ、そか。まだ名前知らんよなぁ~
俺、ディオゴ・アントニオ・モニーク・ケンザキ……って長いよな。
好きな方で呼んでや。」

「……じゃあ……剣崎で。」

「おっけー よろしくな。」

剣崎は左手の人差し指でモヒカン部分と刈り上げ部分の境目をかきながら、
顔中を皺くちゃにして照れくさそうに笑った。笑って見えた犬歯は銀歯になっていて
一見するとまるで歯抜けのような風貌になっていたが、それがより一層
彼の愛嬌となって出ていた。

(あー……これ 腐女子やったらマンコびっちょびちょになるやつやん。)

渥美焔は同性でありながら、こういう愛嬌のある笑顔にであったことがなく、
思わず冷静ながらも汚い比喩表現を使い、己の心情を述べていた。

「けっこう……変わった名前やな。ハーフ……あ、それ言うたら差別になるんか。」

「あーーええって!そんなん慣れっこやし!! 父親が日本人なんやけど
母親がブラジルとドイツのハーフやねん、俺。 せやし、めっちゃ長いやろ?」

「うん、長いな。確かに。ハーフやったら俺も一緒やな。
俺、母親が台湾人やねん。」

「へぇー、自分 名前も変わった名前してんの?」

「いいや、全然。一応、台湾名あるけど、忘れた。
あ、 俺、渥美焔……渥美清のあつみに、
ハガレンのマスタングの焔の方のほむら。」

「ちょ……まどマギのほむらちゃんと一文字違いやん。
パクんなやってよう言われへん?」

「あー……言われるなぁ……でも、元々俺の方が生まれたん先やしなぁ……」

「じゃあ、ほむほむでええか?」

「おいおい、そんなええもんちゃうって。」

いつの間にか渥美焔と剣崎は話し込んでいた。

渥美も剣崎もお互いがハーフだったからで打ち解けたのか
いつの間にか
次から次へと言葉が泉のように湧き出ていた。
聞くところによると、剣崎は小さい頃は愛知のブラジル人団地で育ち、
その後父親の実家である滋賀県に移り住んだそうだ。
そのため、最初の内は言葉が通じずにかなり悩み多き
幼少時代を過ごしたらしい。

そういうシンパシィーを渥美焔はかつて自分が台湾から移り住んで感じていたのもあってか、
剣崎の幼少時代を聞くたびに思わず「あーわかるわーそれぇー」と相槌を打ち合っていた。


「あー それにしてもまだかいなー
ホンマ」

あくびをしながら、剣崎が背伸びをする。
剣崎はこの状況に退屈という感情を感じていたようだった。だが、焔は一方で別の感情を抱いていた。
マスゲームのようにRVボックスを並べ、その前に入学生が並び立つ光景はすごく不気味であった。
RVボックスの上にはカバンが置かれ、地面の砂を浴びて真っ白にならないようにしていた。
なにせ、入学のパンフレットと願書が入った鞄だ。汚したりするわけにはいかない。

「ちょ……ほむほむ。お前のカバンぐっちゃぐちゃやん。どうしたんそれ?」

「あー…これな。あのトラック乗っててケツ痛かったから座布団替わりにしててん。」

「おいおいマジかよ。めっちゃ皺だらけやん。中身大丈夫なん?それ。」

「いやぁ……こうでもせーへんとケツわれそ」

渥美焔が言い切るのを待たずに、突如爆音のような号令が鳴り響いた。
まるで、落雷のような鋭さであった。

「気をつけェ!!!!!」

今まで聞いたことのないような罵声に近いような号令に思わず
渥美焔も剣崎も背筋をピンと張って起立の姿勢をとった。


「これより、対応検査を始める!!
これは入学においての姿勢を見るための検査である!!
全員、休めぇい!!」

号令のまま、焔は休めの姿勢をとった。
だが、剣崎は休めの姿勢がわからなかったようで、そのまま両腕を後ろに回していた。

「えー なんやねんコレ」



何が起こったかも分からず、渥美焔も剣崎もただ来るべき何かを待つしかなかった。

そして、そのときは刻一刻と訪れ、そしてそれは訪れた。

ブラックレインの松田優作にソックリな顔立ちの先ほどの教官が右から現れ、入学生の荷物を点検するために
回っていたのだった。

「おぃ、くるァ……そこのクロンボ。お前じゃ。」

どすの効いた声を絞り出しながらその教官は剣崎を睨みつけた。

「あ? クロンボって俺のことすか?」

剣崎も自分の肌をあからさまに侮辱されたことに一気に沸点が来たようで、
初対面の教官だと言うのに敬語ではなく、タメ口で突っかかっていた。

「お前以外に誰が居ると思っとんのじゃワレ
おどれェ さっきから何 頭の後ろに手ェ回しとんねん。」

「え?さっき休め言うてましたやん。」

剣崎が語尾のやんを言い切るのを待たず、教官は剣崎の両腕を掴み上げると
無理矢理 その手を腰の後ろにあてがった。

「お前、休めぐらい分からんのか……まぁええわ。
初日やしのォ……まあ、このへんにしとくわ。」

教官が不敵な笑みを浮かべてそのまま背を向けて隣の俺の検査に移ろうとした時だった。

「あのー、ちょっと待ってもうていいっすか?
工藤センセイ 俺のことクロンボ言わはったん謝っていただいていいですか?
親から貰った大切な身体なんで。」

剣崎がその言葉を教官の背中に向けて吐きかけたその瞬間、場の空気が凍りついた。
教官は目を細めると一息吸い込み、深い溜息を吐く。

その瞬間、渥美焔はその教官の表情に戦慄した。
吐き終わると同時にその目は突如としてカッと見開き、剣崎に向かって
その阿修羅の如き憤怒の顔を向けたのだった。



「あ?」



覗き込むように教官は剣崎の顔を噛み付くように睨みつける。


「誰が工藤やて? あ?」

「……センセイのことです。でも、センセイのホンマの名前とちゃうんですよね?
僕もクロンボじゃありません。僕のホンマの名前は剣崎です。」

その周りの誰もが剣崎の愚かな行為を見つめていた。


「ちょ!剣崎!お前!先生に謝れって!」

咄嗟に渥美焔は剣崎に呼びかけた。
だが、次の瞬間 教官は渥美焔の方を向き直った。

「おい お前とハナシしとんとちゃうでェ……引っ込んどきィや」

まるで蛇がカエルに飛びかからんばかりのスピードで
睨みつけてきた教官に渥美焔はなすすべもなく、ただ黙って起立していた。

そして、教官はすぐさま剣崎の顔を睨みつけた。

そして、教官はふと剣崎の肩に両手を叩きつけるかのように下ろして
頭を垂れると剣崎の顔を見つめる。

「お前の言うとおりや、剣崎ィ。悪かっとぁ。
お前は剣崎やァ、クロンボやない。
上の人間でもビビらんとフェアにモノ言える奴は好きやァ……
そや、確かに俺の名前は工藤やない。佐東や。最も、巷に溢れとる佐藤の方やない。
大佐の佐に東って書いて佐東や」

そう言うと、佐東教官は剣崎の肩に己の手のひらを2度3度と叩きつけた。
スジとしては剣崎の方が通ってはいるが、大勢のましてや新入生の前で
恥をかかされた形になるわけだ。佐東教官としてもメンツを保たねばならない。
明らかに剣崎への肩たたきは労いの意味ではなく、明らかな報復の意図をその場にいた誰もが感じ得た。
その衝撃で思わず、剣崎の身体が思わず竦む。
剣崎は一度張った意地を押し通そうとするのに必死で必死に堪えていた。


「おまえ……気に入ったでぇ。今時 松田優作知っとるんかァ……

いやァ ホンマにええでェ おまえ。 剣崎ィ。お前、ハーフか?」

ようやくいい喩えを思いついた。
そうだ、佐東教官はスタローンの吹き替えをしている時の佐々木功のような
いいや、安岡力也のような……やや少しばかり高めのバリトン声で
言葉をすり潰すように吐き出しながら尋ねた。

「母ちゃんがブラジルと……ドイツのハーフで……父ちゃんが日本人です。」

「おォ、せぇかァ……お前の母ちゃん名前なんていうんやァ?」

「……モニカって言います。」

「モニカ 言うんかァ そォかァ なるほどな。
その肌も母ちゃん譲りってわけかいなァ 
でェ、おまえ、母ちゃんのこと大好きか?」

思わず、佐東教官の口から母親の名前を出されて剣崎は少しイラついたような様子だったが
必死にそれを咬み殺すかのように剣崎は言う。

「はい……大好きです。」

その目に佐東教官は剣崎の母親への愛を感じたのか先ほどとは打って変わって
落ち着いたような様子で今度は優しく剣崎の左肩に手を置くと、そのまま渥美焔の方へと
歩き出しながら言った。

「何かあったら俺のとこに来いやァ……
ハナシぐらい聞いたるさけェのォ」


そう言うと、佐東教官は渥美焔の検査へと移るために向き直った。

さあ、いよいよ待ちに待った我慢汁をぶちまけるときだ。

佐東教官は渥美焔の皺くちゃになった鞄を見つめて一言


「あ?」


と呟いたのだった・・・・・・

       

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Neetsha