真っ黒なテレキャスター

ジャズマスター

もはやそれが彼女のシンボルだった。けれど、どこか限界を感じているのを
前々から感じ始めていた。ごまかし、ごかましでここまで来てしまったが
やはり納得のいく音は、このギターには出せないという
残酷な答えを出さざるを得なかった。

原因を楽器に求めるのは最低の極みだときっと彼女は思っていただろう
だからこそ、長年付き添ってきた相棒をなかなか手放すことが出来なかった。

もっともっともっと身体、肉体、指、弦、ピックアップ、アンプまで何のラグも無く、
精神を直に、全神経が音へスムーズにダイレクトに変換することの出来る
ギターを欲しがっているらしい。遊びのないギター。余分なものを全てそぎ落とした
奏者の力量が否応にも試されるギター。

野外フェス、自主企画に備え、さらに進むために彼女は決意した。

憧れのギタリストがジャズマスターを使っているからと手にしたそのギターでは、
自分自身を乗り越えられないんだろうと思い始めていた。

理想を抱き、尊敬する人に近づきたいという気持ちは誰しもある
けれど、背中を追いかけているだけじゃ辿りつけない。
もっと根本的に、私は私が求めるギターを手にしなければ…。

彼女の条件を全て満たすギターは何だろうと、あらゆる楽器店を歩き探し始めた。

しかし、いくら探しても見つからず、ひたすら途方に暮れた。
一体何をしてるんだ、今はもっと違う事を優先的にやるべきことがあるのではないのか
という言葉が頭をもたげていたが、彼女の意志は恐ろしいほど固く、
付き合わされる羽目になった俺は、深々とため息を付いた。

日も暮れはじめ、そろそろ帰ろうかと言う時に、裏路地に埃まみれな楽器店を見つけた。
お世辞にもキレイな店とは言えず、やっているのかさえ怪しい雰囲気だ。
けれど、何とも言えない独特なオーラをこれでもかと放っていた。
調べたら地図にも載ってない店だった。これを最後にしようと、
俺らは恐る恐る店内へ踏み入れる。



お店の奥に鎮座している真っ黒なテレキャスター。
それを発見した途端、彼女は一気に釘付けとなった。



まるで彼女そのものがギターとなって現れたかのような代物だった。
sage