灰色の地下

壮絶な音と共に忘れられないのが、あの突き刺さるような鋭い眼光だ。

眼光。

まさにその言葉通り、その眼の奥には何もかも消し去ってしまうような
光が宿っているよう俺には見えた。
かつて自分の中にあったはずの既に廃れてしまったモノ。

それを直接見たのはほんの一瞬だけだったが、
一生忘れることはないと思う。それくらい、あまりに強烈過ぎた。
あんな若いのに彼女は今まで何を見てきたんだろう。

ここは地下だ。何の色も彩らない灰色の地下。
生きるためのモノは最低限備わっている。それで十分だと思うようにしていた。
シェルター?修行場?次第に広がる違和感。一体ここは何なんだ。
街から隔離されているこの場所で俺は生まれ育った。
まぁ、いわゆる宗教団体の施設と言えば分かってくれると思う。
現世は汚れで満ち満ちている、だからそこから離れ、清らかなここで魂を磨き、
相応しい姿となり、最後はあの世へと還る。それが最終目的であり、
それ以外は、悪、である。

だが俺にしてみればそこは善人達の抜け殻が集まった、
薄っぺらいハリボテのような場所だった。

俺はいつの間にか、そこから抜け出す手段を覚えた。
日が暮れ、夜が訪れるその時を狙い監視の目をかいくぐって脱出する。
早朝には全員集まり点呼を取る、それまでに戻らなければ奴らはあらゆる手段を使い、
必ず連れ戻されてしまう。そして、そのまま2度と逃げ出したくなくなるよう
【指導】される。一度でも指導されてしまえばお終いだ。
俺は絶対あんな姿にはならないし、なりたくない、絶対に…。

何をすればあれほど従順になる為にしか動けなくなるのだろうか。

行動範囲は限られてしまうが、コツを掴めさえすれば点呼の前に戻れる。
俺は知りたかった。空の色も、そしてココ以外の場所も。

かつて指導されてしまったヤツが隠し持っていた
ラジオとイヤフォンを発見して以来、俺の日常は揺らいだ。
電波にのったそれは俺の知らなかった世界で広がっていた。

これが…音楽…。

そのラジオからは初めてだらけの情報で溢れていた。
地下以外の場所が存在していることも、そういったことも何もかもラジオから得た。

そして、ある日、俺を突き動かす音に出会ってしまう。
そう、そのラジオから彼女の轟音が突然流れた。

身動きが取れなくなってしまったあの壮絶な音。
今まで聴いてきた音楽とは明らかに異質な音。初めての衝撃。
ここから抜け出して、その音を実際に聴いてみたい。
突き動かす動機は、それだけだった。分からなかった。
分からないけど、何故かきっと連れ出してくれるような音だと思った。

彼女の名前は羽音純(ハオトジュン)

白髪で小柄で華奢な眼光の鋭い少女の名前は「羽音純」と言った。
不思議な名前だったが、まさに本人の存在そのものを体現するような名前だった。
頼むから、これだけはどうか忘れないで欲しい。
彼女の音と共に。


俺の人生もやっと始まったような気がした。
sage