Neetel Inside 文芸新都
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吐き捨てられていく文字列
こんがり焼いたリンゴ

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こんがり焼いたリンゴ

 「これからどうやって生きていくつもりなの?」
別居中の妻に聞かれた。
「なんとかやっていくさ」
僕の声は空しくすら響かない。妻だけじゃなく誰にも響かない。僕が僕を信じていない。酒を飲んで明日になったら忘れてしまおうか。忘れてしまう恐怖は知っている。忘れられない辛さも知っている。
 子どもの頃、ばあちゃんが言った。
「何でもできてえらいねえ」
何も大したことはしていない。ばあちゃんが半分に切って芯を抜いてくれた林檎。その林檎にバターを入れて魚焼きグリルで焼いただけ。たったそれだけ。こんがり焼けた林檎はただただ甘くて、ばあちゃんもただただ甘かった。そんなばあちゃんが好きだった。年を取れば取るほど甘くなっていったばあちゃん。
 仕事がうまくいかなくなって、妻に当たった。最初は耐えてくれていたけど、離れていった。僕はどんどん自分が嫌になって、余計何もできなくなった。変わると信じた自分。でも何も変わらずただ毎日が過ぎていく。どんどんうまくいかなくなって退職した。失業手当が出てる間。その間だけはなんとか生きていける。でもそれだけ。
 僕に何ができるの?
 何もできない僕は林檎を焼く。芯を抜くのはばあちゃんよりうまくできない。それでもできなくはなかった。僕はまだ頑張れる。きっと頑張れる。妻を思って泣いた。ばあちゃんを思って泣いた。昔を思って泣いた。明日を考えて号泣した。
 林檎は焦げていた。甘かった。苦かった。甘かった。苦かった。甘くて苦くて、気が狂いそうだった。甘いところを選んで食べて、どんどん苦くなっていくそれを僕は齧り続ける。また甘くなると信じて。甘さを忘れられない僕。でも忘れたくない。いつかばあちゃんみたいになれるかなあ。僕は苦さに泣きながら、必死に噛り付く。最後の一口まで必ず食べ切る。これは僕の林檎なのだから。これが僕の林檎なのだから。

       

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