Neetel Inside 文芸新都
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吐き捨てられていく文字列
歯ブラシ

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歯ブラシ

 あ、僕も人を殺したいって思うんだ。
 はじめ、自分の殺意に気付いて、素直に驚いた。いわゆる人畜無害な人間だと思っていたから。たまに人を傷つけることはあるけど、ルールの中で生きていけたらそれで幸せだと思っていたから。殺すだなんて物騒なワードが自分の中でリアリティを持って生まれてくるなんて思わなかった。
 つぎ、どうやって殺そうか、考えた。多分、力がないから凶器は使わないといけない。出刃包丁って単語よく見るけど殺せるのかな。刺した時の感触って気持ち悪いのかな。汚れたら嫌だな。誰にも見つからないようにしないと。生き残られたら困るから一撃で殺さないと。アリバイ工作はどうしたらいいんだろう。先生は教えてくれるかな。そもそも殺せばいい男が誰かすら分からない。
 まえ、彼女の部屋で見つけた、歯ブラシ。彼女の歯ブラシと間接キスするみたいに置いてあった歯ブラシ。僕もまだ置いてない歯ブラシ。これ誰の? そんなことを聞く勇気なんてないよ。だって人畜無害だもの。歯ブラシ買っといてよ、なんて僕言えるかな。泣いちゃうな、きっと。言うときに泣いちゃう。彼女は心配してくれるかな。それとも気付いて逆ギレすんのかな。
 さいご、未だに彼女のと並ぶ、歯ブラシ。僕は気付かないふりをすることに決めた。どうしようもないまま一晩を過ごして、二晩目に少し寝て、気付かないふりをすることに決めた。僕の心の中には歯ブラシ。僕は気付かないふりをすることに決めた。歯ブラシに毒を塗る妄想をしながら、僕は彼女をいつもより乱暴に抱いた。今度彼女に歯ブラシを入れちまおう。血だらけにしちまおう。脳内を歯ブラシに支配されたまま、いつもより雑な愛を彼女に浴びせた。

       

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