Neetel Inside 文芸新都
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たこやき

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たこやき

 「今から家来て」
彼女からの誘いは唐突。家に着くと、机の上にはたこ焼き機が置かれていた。ベッドの上に追いやられた一昨年二人で行った海外旅行の写真。淡々とボウルで生地を泡立てながら、「たこ焼きパーティするよ」と彼女は言った。言葉の陽気な響きと彼女の冷静な態度のギャップに笑いそうになったのを堪えて、僕は「おう」と言った。
 チーズとかキムチとかそういった変わり種は準備されていなくて、僕らはただたこ焼きを焼いては食べた。黙ったまま。「これ焼けたよ」みたいな一言もなく、勝手に各々判断して食う。ボウル一杯分の生地は二回焼いたら終わった。「食べた」「食べた」と、それだけ確認すると、僕らはただぼうっと時間を過ごす。「ごめん」「ごめん」と、それだけ言い合うと、僕らはただぼうっと時間を過ごす。これが僕らの仲直り。一週間前の喧嘩の仲直り。
 片付け終えると、海外旅行の写真はまた自分の住処へと戻る。旅先での喧嘩。彼女は僕の頼りないところが。僕は彼女の頼りきりなところが。気持ちが離れたまま散々な帰りの飛行機。それから数日後、彼女に呼び出されて、初めてのたこ焼きパーティ。それは彼女の家族の仲直りの方法だった。数日前の旅行の仲直り。訳も分からないまま、無言でたこ焼きを焼いて、食って、そうしたらなんか謝れた。
 これからも僕らはたこ焼きパーティをするのだろう。無言のまま、何回も。そうやってお互いを許し合っていく。
 いつか結婚してからもたこ焼きパーティをするのだろう。無言のまま、何回も。そうやって家族になっていく。

       

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