Neetel Inside 文芸新都
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タスマニアデビル

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タスマニアデビル

 死にたくなる日がある、と言うと語弊がある。大抵の日はなんとなく死にたいって思ってる。でもリアリティのある死じゃなくて、現実の辛いものから逃げたいっていう気持ちを言い換えてしまってるだけなんだと思う。でも仮に悪魔がいて僕の魂と引き換えに世界を滅ぼしてくれるって言ってきたら、断れる自信はない。
 家に帰ると、嫁が動物もののテレビを見ていた。
「ただいま」
「おかえり」
テレビから目を離さずそんなことを言うものだから、僕がケーキをテーブルに置いたことすら気付かない。仕方ないか。彼女は集中すると周りが見えなくなるタイプだから。ひとりで冷蔵庫を開けて、ビールと今日のおかずを取り出す。
「何のやつ?」
「タスマニアデビル」
彼女は目を離さず答える。テレビに目をやると、赤ちゃんが母親のおっぱいを奪い合っていた。かわいい悪魔だな。この闘いに負けた者から死んでいくそうだ。
「みんなにあげればいいのに」
彼女はひとり呟いていた。
 番組が終わると彼女は振り向いた。
「ご飯食べる?」
食事を終えている僕。
「ってもう食べちゃったか」
ケーキに気付く彼女。
「今日なんかの記念日だっけ?」
「結婚千日目」
「そうなんだ。私は幸せ者だなあ」
と言いながら、ケーキの箱を開ける。
「おいしそう」
そう呟いた彼女は皿とフォークを出し始めた。
 ケーキを食べ終えた僕らは二人で缶チューハイを飲む。
「子ども欲しいなあ」
という彼女に
「そうだね」
と答える僕。
「タスマニアデビルみたいな競争の仕方だったら君は間違いなく死んでるだろうからなあ。人間はひとりずつ産めるから幸せだね」
と彼女。タスマニアデビルも生き延びるために仕方ないんだ。そう言おうかと思っていたら彼女が続けた。
「後、何年一緒にいられるんだろう?」
「ずっとだよ」
と僕が答える。
「そんなの分かんないよ。とりあえず来年の今日までは生きててね」
小悪魔のように笑う彼女。どこまで分かっているんだろう。確かに彼女が生存競争に破れてたらやりきれないなと思った。生き延びるために仕方ないとは思えなくなっていた。
「とりあえず生きてみる」
僕が出せる答えはその程度。彼女がいるからなんとかなると思った。明日になったら多分また死にたくなる。けどこうやって死にたくなったり、生きたくなったり。そんな時、隣に彼女がいるこの時間がどうしようもなく幸せなんだと思う。だから、仮に悪魔がいて僕の魂と引き換えに世界を滅ぼしてくれるって言ってきても、もうちょっと考えさせてって時間稼ぎするのかもしれない。

       

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