Neetel Inside 文芸新都
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凄い人

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凄い人

 凄い人になりたいなと思いつつダラダラしてたら凄い人になれなかった。三十二歳になった日の帰り道。コンビニでいつもより豪華な、とはいえ一番高いわけでもないアイスをレジに持っていきながら、僕はそんなことを考えていた。
 凄い人だな、と思う人が昔はみんな年上だった。いつの間にか少しずつ年下も増えていった。少しずつ気づいていく。凄い人は年齢なんて関係なく凄い。どうして僕はダラダラしてしまったんだろう。楽ばかり選んできてしまった気がする。
「冬にアイスを食べるなんて信じられない」
僕の知らない誰かとすでに結婚して幸せな家庭でも築いているであろう昔の彼女がぼやくようにそう言った。ただ、好きだった。彼女ではなく冬とアイスが。譲れなかったから僕らは終わりを迎えた。色んな好きなものがあって、その中から僕は譲れない欲しいものを選んできた。
 3円も払って手に入れたレジ袋からアイスを取り出す。種類別:ラクトアイス。まるで僕が欲しているものそのもののような名称だ。誰も座らない公園の冷たいベンチ。着こんでもいるのに芯まで冷え切る。
 欲しいものを手に入れるのに妥協してきたつもりはない。あれもこれも欲しいわけではなかったから、今一番欲しいものを手に入れてきた。ダラダラしてたから凄い人になれなかった気がしていたけど、一番欲しいものは凄い人だなんて抽象的なものではなかっただけだ。きっと。
 欲しいものを手に入れてきたのに、今となっては欲しいものを手に入れた気があまりしないのはなぜなんだろう。
 明日の僕が欲しいものと、今僕がほしいものはきっと違う。どちらが僕の欲しいものなんだろうか。今答えを欲するも、冬は冷たさしかくれなかった。

       

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