Neetel Inside 文芸新都
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吐き捨てられていく文字列
ボールペン

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ボールペン

 落としましたよ。
 振り返ると、女性の手にボールペン。資格試験を受けると決めた時に奮発して買った高級ボールペン。感謝の言葉も言えず僕は受け取る。彼女は前を向き直すと颯爽と歩いて行った。僕は立ち止まったまま。いつからこんなに余裕がないんだろう。
 随分前からみんなと違うところにいるなあと思う。周りは家庭を築き始めてしまったり。結婚式に出る度にみじめな思いになる。お金なんてなくていいと思うけど、ない状態が長く続くと、ボールペンで胸をゆっくり刺していくように、いつかそれは致命傷になってしまうかしれない。
「試験に受かればお前が一番金持ちになるな」
「もうちょっとだもんな」
周りの慰めに発狂しそうになる。優しさを優しさのまま受け取れたらいいのに。
 みんなが大学卒業する時にクリアしたハードルを避けて、はるか先に高いハードルを設定してずっとその前でもがいている。もしかしたらただ単に、最初のハードルの向こう側に広がる景色が気に食わなくて先延ばししたかっただけなのかもしれない。大学に入ったのすらただの先延ばしだったかもしれない。
 資格のためだから。そうやって大して働きもせず、そのくせ最初の頃の情熱は失われてしまっている。ボールペンで練習問題を次々と解いていくけれど、覚えていく量より忘れていく量の方が多くなって思うように点数は上がらない。溜まったストレスを解消するために煽った酒は更に記憶力を悪化させていく。それでも、もう資格を取るしかないんだ。僕にできることは。
 前を見続けなきゃ生きていけない。少しでも後ろを振り返ったら、ボールペンに殺されてしまう。ペンは剣よりも強し、ってテキストの前文見て笑ってたけど、本当かもしれないよ。
 前だけ向くって本当に素敵なことか。少し戻って別の道を歩き直す方が幸せじゃないのか。もうボールペンなんて投げ捨ててしまえばいいんじゃないか。諦めちまえ。そんな考えが頭を支配する。でもまだ落としたボールペンを拾ってくれる見知らぬ誰かがいた。僕は叫んだ。
「ありがとうございます」
彼女の背中はそのまま消えていった。周りの目は痛かった。けどボールペンは心臓まで届かずに済んだ。絶望と希望が詰まったボールペンを握りしめて、僕はまた歩き始める。

       

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