Neetel Inside ニートノベル
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 昼前の商店街、ラーメン屋に入った晴菜が運ばれてきたどんぶりに箸を伸ばす。午前中、足が棒になるまで町を歩き続けたが『おうさま』に繋がる情報は無し。

 半分程器の中身を胃袋に片付けて水の入ったコップを掴みながら溜息をつく。そんな晴菜を見て彼女の使い魔?であるハルカが耳元で笑う。

「いやー、どうすれば『おうさま』に近づく事が出きるんだろうねー」
「……知らないわよ。でもこのままバレないように過ごすにしてもジリ貧だし、なんとかしなくっちゃ」

 自分に言い聞かすようにコップをテーブルに置きつけるとどんぶりを持って伸び始めた麺を勢い良く啜る晴菜。それを見てハルカがちいさく笑って呟いた。

「あの…暑苦しいロック歌手の方ですか……?」
「サンボマスター山口じゃねぇよ!顔の前で箸を動かしてんのがギターを弾いてるように見えちゃったんだね!てかいちいち説明させないでよ恥ずかしい!」
「ちょっと、そこのふたり、!うるさいよ!食事中は静かにしてくれなきゃ!」

 男の細い声が店内に伸びて慌てて晴菜は口からどんぶりを外す。湯気で白く濁った眼鏡が元通りに戻っていくとカウンター越しに割烹着の青年が腰に手を当ててこっちを睨んでいた。

「他のお客さんも居るんだ。それにランチタイムは書き入れ時だ。食事が済んだならおしゃべりせずに早く出て行ってくれないか」
「なんなのよアンタ!レディに対して失礼じゃない!」

 立ち上がる晴菜を見て坊主頭の青年がいやらしく口元を歪めて笑う。

「ああ、女性だったのか。てっきり緑色したアメリカ映画のキャラクターかと思ったよ」
「シュレックじゃねぇよ!てかシュレックも男だし!お会計は…食券だったわね。食べ終わったし迷惑みたいだからそろそろ失礼するわ」

「はい、ありあとあしたー」「ねぇ、ちょっと」伏せ丼を取りに来た店員に対して晴菜が勝ち誇った表情で訊ねる。

「アンタさっき私達の事二人組だって言ったわよね?このハルカは一般人には見えないはずよ…なにか『おうさま』について知ってるんじゃない?」

 自分の隣に浮かぶハルカを指差すとそれを青年が目で追う。「マヌケは見つかったみたいね」青年はしまった、という顔をして頭の上の潜水艦みたいな帽子を外して晴菜に小声で囁いた。

「休憩時間に店の裏に来てくれ。話したいことがある」
「ちょっと、どういう…」
「営業時間中は無理だ。後で話す」

 他の客に気付かれないように自然なやりとりをして晴菜は店を出た。少し顔の赤い晴菜を見てハルカが冷やかしてきた。

「あれ、ひょっとしてオトコからの呼び出しなんて初めてだから緊張してるんでしょ~。も~、晴菜ったらウブなんだから~」
「ち、違うわ!スープの味が濃すぎただけ!」

 ハエを払うようにハルカを無碍な態度であしらいながら商店街を抜け、ネットカフェで時間を潰す晴菜。…私は今までこの顔のお陰で恋愛なんてした事がない。

 私の所にもいつか素敵な王子様がやってきて誰も私の顔の事をとやかく言う人の居ないどこか遠い場所で暮らせたらいいのに。約束の時間になりラーメン店の裏駐車場に来ると待っていたラーメン屋の青年が晴菜に改めて自己紹介をした。

「さっきはすまなかった。僕の名は御成 一樹おなりかずき。『おうさま』の息子だ。今は社会勉強で下界に出てきている」
「えなり君出て来ちゃった!角野卓三の息子がえなり君って安直すぎない!?作者絶対渡鬼見たことないでしょ!」

 ありあまる情報量、もといツッコミ所に脳内CPU使用率100パーセント状態の晴菜。御成と名乗った青年は晴菜の過剰なテンションに少したじろいだが話を紡いだ。

「言いたい事がたくさんあるのは分かる。でも今は時間がないんだ。もうすぐ『おうさま』、いや、クソ親父の住居がこの辺を通過する」
「ちょ、何を言って……うわっ!」

 突然上空を覆う黒い影。「見ろ。アレがクソ親父の本拠地だ」身を屈めた晴菜に御成はそう告げた。顔を上げると空を東京ドーム一個分の大きさをした未確認飛行物体が大空を我が物顔で浮かび上がっている。

「すごい…しかもそれなりの速度で動いている」
「ああ、アレになんとかして乗り込む事が出来れば…」

 ゴゴゴと轟音を響かせて頭の上を飛ぶそれを恨めしそうに睨む御成。その姿を見て晴菜が訊ねる。

「アンタ、『おうさま』の息子なんだから顔パスなんじゃないの?UFO式住居を降ろすように頼んで入れてもらえばいい」
「…それが夜中に親父のサイフから札を抜いたのがバレてな。親父とはここ一ヶ月ほぼほぼ口利いてない」
「遊ぶ金が無くなった高校生か!てか相手が空の上に居るんじゃ手の出しようが無いじゃない…」

 UFOが遠のいていくのを見上げて落ち込む晴菜。「あるよ!方法ならある!手ならあるよ!」普段は暗いハルカが高いテンションで晴菜の肩を叩く。

「なぁに?あの宇宙船に追いつける極ヒ道具でもあるってわけ?」
「言葉の通りだよ!晴菜、右手をアレに向けてみて!」

 ハルカの呼びかけに半信半疑で袖をまくった片腕を伸ばす晴菜。「こう?」「そう、マジンガーZのイメージで!」晴菜が宇宙船に向かって握った拳の照準を合わすと二の腕のイボをボタンのようにポチっとハルカが押した。

――するとどうしたことでしょう。晴菜の右腕がかしゃん、カシャンとグレネードランチャーに変型したではありませんか。

「ちょっと!どうなってんのよ!この作者GW中に『いぬやしき』見たでしょ!」
「ツッコミなんて後!晴菜、サイコガンは心で撃つモンなのよ!」
「これサイコガンだったの!?もうめちゃくちゃじゃない!…でもこれであの宇宙船を撃ち落とすわけね。…よーし!」

 舌なめずりをして眼鏡越しに浮遊する宇宙船に照準を絞る晴菜。それを応援するようにハルカが歌を歌ってくれている。

「コ~ブ~ラ~~♪ふふふふ~ん」
「…もう少し右ね…エンジン部分を狙ったほうがいい?」
「コ~ブ~ラ~~♪ふふふふ~ん」
「…いや、中の人の事も考えて船の膨らんでる方を狙った方が…」
「「コ~ブ~ラ~~♪

 オンリフュメモリー、ァアフタユゥー♪」

「そこだけ歌えるのかよ!!」

 はじけるような晴菜のツッコミと銃声が響き宇宙船に砲弾が一直線に伸びていく。無事帆を貫いた宇宙船は安定を失い、ゆらゆら揺らめきながら町外れの空き地に不時着していく。

「行くわよ。『おうさま』とケリをつけるために」

 ドカーンという地響きの中、晴菜を中心に3人は空き地に向かい決意を固めて走り始めた。

       

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