まとめて読む

 僕には絵の才能がない。
 それはともかくとしてここはどこだろう。目を開けると広い空間にいた。体育館ほどの広さだ。僕のほかにもけっこうな人数がそこにはいた。
窓はない。全面がコンクリートでできていて、息のつまりそうな圧迫感がある。天井に貼られた薄い照明が、刺すようにとげとげしく発光している。
「ここはどこだ? 拉致か? なんだってんだ」
僕の隣で男が言った。手をせわしなく振っている。あたりを見回すと、同じような人が何人かいた。他には、半狂乱になり大声で叫んでる人、立ち尽くしてる人、さっきまでの僕がそうだったように、まだ寝てる人。
 どうやら全員、僕と同じらしい。突然襲われ車に乗せられ、ここに拉致されたのだろう。だとすると何が目的だ。僕はくだらないニートで何もない。実家もそれほど裕福ではない。脅そうというならターゲットを間違えてる。つまりそれが目的ではない?
 あれこれと考えていると、どこからとなく音がした。何かの稼働音だった。見るとコンクリートの壁が一枚、シャッターを上げるように上昇していた。シャッターの先には同じような空間があり、黒いスーツを着た男が十人ほど立っていた。男たちはぴんと立ち、うしろで手を組んでいる。
黒服の一人が前に出た。地位の高い黒服なのだろう。男が手を横にやると、他の黒服がうやうやしくマイクを差し出した。
「ごきげんよう! しょくん!」
初老の男だった。フランクな態度の、飄々とした男だった。それは、この状況に照らして考えると不気味でもあった。
「なにがごきげんようだ! おまえわかってるのか! なにがごきげんようだ!」
「なにがごきげんようだ! おまえわかってるのか! なにがごきげんようだ!」
次々と声が上がる。しかし男は取り合わない。
「君たちは絵を描くね? そうだろう?」
「他のものは知らんが・・・俺は描く、描くが、だからどうしたというのだ」
 人々がざわめきだす。どうやらみな、身に覚えがあるようだ。
「くっくっく、つまりそういうことだよ。どうしてきみらが集められたか、単純明快だ。考えれば分かる。必然的な帰結だからだ。だがあえてというなら、よろしい、私の口から述べよう。つまりだね」
男はここで言葉を切って一呼吸おいてこう続けた。
「画力ある者、画力者は、殺し合わねばならんのだ!!!!」
場は騒然とした。
 男が一人、黒服たちへと向かっていった。
「ふざけたことをぬかすなこのっっっ」
こぶしを振り上げ殴りかかる。しかし男の攻撃は何かに当たって失敗した。よく見るとこの部屋と黒服の間には透明な壁が張られていた。
「こ、これは・・・」
「くくくその通り、つまり君たちの生殺与奪は、常に我々が握っているのだ」
「ぐうううう、ぐううううううううううううううう」
 何人かが声を上げ崩れ落ちた。
「殺し合いといっても、当たり前だが、殴り合いをさせるわけではない」
抵抗が無意味だと悟った僕らは、男の語ることを聞くしかなかった。
「既にきみたちは改造されており、我々から「ギフト」を授けられているのだ」
「ぎ、ぎふと?」「さようギフトさ」
「ギフトは二つある。その二つとは「画力戦闘値」と「特殊画力」だ」
「二つともしょくんらは自由に使える。ただし一度に一つ、片方だけだ。二つのギフトを同時に使うことはできない。そのことだけ覚えておいてくれ」
「・・・」
唾をのむ音が聞こえた。
「まず「画力戦闘値」について説明しよう。これは簡単に言うと、つまり肉体の強度だ。しょくんらの肉体は、このパラメーターによって強化されている。ぶつかれば当然、高い方が殴り勝つ。単純だろう?」
「この値は相手の頭上を見れば分かる。「画力戦闘値」を解放した際、その人物の値が表示されるのだ。これを見て力量を測ることができる」
「さてこの「画力戦闘値」、その数値はどう決められるのか。まぁ、説明するまでもないと思うがね。一応させてもらう。つまりそういうことだ。その者の「画力」に応じて決められている」
「絵の上手いやつが殴り勝つ。要約するとそういうことだ」
「ざわざわ」「ざわざわ」
 人々がざわめきだす。
 画力で殴り合う? むちゃくちゃだ。あまりの荒唐無稽さに、僕も理解が追い付かなかった。
「ここまで聞いて、しょくんらは思わなかったか? つまり、それでは、あまりに単純、愚鈍、豚の殴り合いと変わりない。要するに、芸が無い、と」 
「安心しろ。そうならないための仕組み、工夫、つまりゲーム性も、我々は用意しているのだ。二つ目の要素「特殊画力」がつまり、それに該当する」
「「特殊画力」とは、プレイヤー各人に授けられた固有能力を言う。その内容は多種多様であり、一つとして同じものは無い」
「これを使い、あるいは推察し合い、立ち回ることで、戦いに多少の戦略性が生まれる、そうは思わんかね? ん?」
「そうだな、死ね!!」
男の一人が叫んだ瞬間、その頭が消し飛んだ。
「言ったろう? 生殺与奪の権は、常に我々が握っていると。死後は厳禁だ、罰金は命で払ってもらう。異論のあるものはあるか? あれば聞こう。その遺言をな」
男は、ゾッとするような、酷薄な表情で告げた。
「ふむ、分かってもらえてうれしいよ」
「最後に残った一名だけが、ゲームから生還できる。優勝賞金は四十八億、これはここにいる四十八人の命の値段だ。くははは」
 男は歯を見せ、凶暴な笑みを浮かべた。
「説明は以上だ。今からそちらに催涙ガスを投入する。目覚めたとき、そこは既に戦闘会場だ。健闘をいのるよ。ぎひひひひ」 
僕の意識はそこで途切れた。