Neetel Inside 文芸新都
表紙

DLsiteとは関係ないフリーゲームの話
ひよこ侍

見開き   最大化      

タイトル :ひよこ侍
作者名  :vividcalm
ttp://vividcalm.net/pieces/hiyoko.html

かわいらしいタイトルと、ひよこの着ぐるみを着た主人公。
誰がどう見たってギャグゲーにしか思えない外面だが、このゲームはそんなものではない。
一振りの剣を携えて、どう生きていくか。そして、【どう死んでいくか】。
剣鬼・テューン=フェルベルの生涯を追体験する、これ以上ないほどのシリアスなストーリーとなっているのが本作だ。
幼き頃に二刀の剣士ジャンルーカに家族と幼馴染を殺されたテューンは彼に復讐するべく、同時に世界一の剣士になるべく最強の剣士ユキムラの元で修業を重ねていた。
そして彼は世界の剣豪達と刃を交えるため一人旅に出る。
幼馴染の形見であるひよこの着ぐるみの上から和服を着こんだ、ひよこ侍として…。
と言った話。
唯一のギャグ要素があるとしたらひよこ侍姿に言及はしても特にツッコミ入れるやつが見当たらないところかな!

このゲームはツクールゲーとしては珍しく【アクション】ゲームとなっている。
それも、格闘ゲームのような【サイドビュー1VS1バトル】。
装備画面では習得した「技」を上段の技、抜刀の技スロットに装備すると戦闘でその技が使用可能となる。
ガード崩し、連撃、遠距離攻撃など技は多岐に渡るので、戦術によって…または相手によって使い分けていくのが重要となる。
剣豪や野盗はもちろん、虎などの猛獣も敵として出現する。
間合いを見極め敵の行動を察知できねば、そして死地に踏み込むことができなければ。世界一の剣士となる前に命を落とすことになるだろう。
このゲームは【やたらゲームオーバー画面が怖い】ので、できることならなるべく無敗で勝ち進むのをおすすめしたいところ。
いや…本当知らないで見るとおぼぼぼっってなるんだよ…

ツクールでアクションとか普通作らない(作れない)だろ…と思われがちだが、ツクール2000だと結構アクション作ってる人もいたりする(VIPRPGとか)。
未だに愛用者がいるツールなだけある。一部界隈だけな気もするが。
少なくとも開発当時は結構画期的であったのだろうがプレイした時期が時期なので、ひよこ侍の事を語るならどちらかと言うとシナリオについての話がメインになってしまう。
テューンの行く先では様々な出会いがある。剣の道を進む以上、剣士達との接触は避けることができない。
野心を持つ者、外敵から大切な人を守りたい者、そしてただひたすらに高みを目指す者。
目的が一致した剣士とは共闘することもあるだろう。だがテューンの目標は、世界一の剣士になることである。
【かつて共に戦った仲間だからと言って、刃を交えない理由にはならない】。
強くなるためなら、テューンはなんだって斬る。
斬れば強くなれるものを。そして、【斬らねば弱くなってしまうもの】を。
一つずつ。一匹ずつ。一人ずつ。その刀で切り伏せる。
剣士として一段高みに上るにつれて、真っ当な人間としての何かを少しずつ捨てていく。
いつしか彼の剣はあれほど恐れ、憎み、そして確かに憧れを抱いた剣士、ジャンルーカの領域に至る。
そして、【彼】はその時を静かに待っている…。

このゲームはマルチエンディングとなっているが、分岐はラスボス直前の選択肢のみのため全てのエンディングを見ることはさして手間でもないだろう。
ED内容についての詳細なネタバレは避けるが…まぁやってきたことがやってきた事なので予想できるとは思うが、少なくとも【完全無欠のハッピーエンド】は期待しない方がいい。期待する奴もいないだろうが。
俺としては、「刀のため」がグッドエンド、「自分のため」がバッドエンド、「死んでいった者のため」がトゥルーエンドに思えた。ここらへんは解釈の分かれるところだろうな。
ああ、もちろん俺にとってじゃないよ。【テューンにとって】。

このゲームで印象的なのはなんと言っても打倒ジャンルーカを誓う英雄、レイスとテューンが戦う前の会話。
「僕は僕の理想のために剣を振るい、自らの力で理想を実現させたい。そしてそのためにはここで死ぬわけにはいかない。」
と剣を抜くレイスにテューンは返す。
「それだからあんたと戦いたくてしょうがないんだ。だが…
 生きるために剣を振るうあんたが剣を振るために生きる俺に勝てるわけがない。」
この台詞がテューン・フェルベルと言う男を、そしてひよこ侍と言うゲームを表現している。

世に面白いフリーゲームは数あれど、俺の心に残ったゲームとしては今なお指折りの一作。
「最強」に一時でも憧れた過去があるなら、「最強」を目指し続けた彼の苛烈な生き様を見届けて頂きたい。



そんな感じ。

       

表紙
Tweet

Neetsha