Neetel Inside ニートノベル
表紙

インターネット変態小説家
喜びと

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わーいと声がした。
喜びの声で、しかし自分が発したものではない。
自分以外の人間の喜んでいる声なんて正直
不快でしかないわけで、ましてやその人生がうまくいってないような時などなおさらである。

かなり近くで聞こえたような気がする。
ベランダへ続く窓から外を伺うが、特に誰かが喜んでる様子はない。というか露骨に歓喜しているものではなく、子供が遊びの最中に叫んでるような声だったような……。
しかし外に子供はいなかった。

またも、わーいと声が聞こえた。
家の中からだ。
かなり、ぞっとした。この家には俺しか住んでないはずだし。彼女もいないし、家族も友達も勝手に入ってこれるわけがない。

しかし、なんで喜んでんだ?強盗ならこっそり入ってこいよ。頭の危ないやつだなぁ。
厄介だな。俺は普段自衛のために枕元に置いてある鞘付きの小型ナイフを手に取る。
まだ刃は抜かない。しかしいつでも取り出せるように準備しておく。

ひっそりと、部屋の扉を開け外を見る。
気配は全くしないが、合気道の先生でもないのでそもそも自分の察知能力なぞ信用していない。
家内は静まりかえっている
こちらも音を立てないように移動する。
自分の家なのになぁ。やけに緊張してしまう。

この家はそんなに広くない。
もともと父方の祖父母が住んでいた家だ。
数年前どちらも亡くなったことで、誰も住む人がいなくなった。
管理する人がいないと家というものはすぐに朽ちていってしまうものだ。
それで就職も決まり、ちょうどいい時期なのもあって俺はこの家で一人暮らしすることになった。
実家より少し田舎の方だと言うことだが、はっきりいってそんなに変わらない。
周りにも一通り便利な施設は揃っているし、不便だと感じたことはない。
家は二階建てで上には廊下を挟み四部屋、祖母が倉庫がわりに部屋を二つ繋げて使っていたのでつまり三部屋。
一つが元おばあちゃんが使ってた現俺の部屋、一つが倉庫、もう一つはじいちゃんの部屋、現在誰もきなくなった服などが置かれてある実質倉庫だ。

倉庫の方にいるのかなぁ。でも倉庫に行くには構造上俺の部屋の前を通らなくてはいけないのだが、通ったかなぁ……。
あの部屋は昔からなんか嫌いなんだよな。古い人形が飾ってあって不気味なんだ。
子供の頃は恐怖でさえあった。
一応見てみるかぁ。倉庫の方へ向かうと下から『わーい』と言う声が聞こえた。

下、か。
いやだなぁ……警察を呼ぼうか。なんというか普通に事件だと思うし、こいつは絶対にやばいやつだしな。

ふと幻聴ではないかと頭をよぎる。
いや、酒も薬もやってないのにそんなことあるのだろうか。でもぶっ続けでゲームをし続けて数日寝不足だった時は、頭の中でBGMの音が鳴り続けていたこともあったっけな。

姿だけでも確認してから通報するか。
それに、警察に通報してやってくるまでにやつが逃げてしまい、全くなんの手がかりもつかめなくなってしまうっていうのが一番嫌だった。一度見かけたゴキブリを逃した時のような後味の悪さがある。
本当にいるのか。いたらどんなやつか。特徴だけでも押さえておきたい、そういう気持ちが強かった。

階段をゆっくりと下りる。階段は半螺旋状になっており上からじゃ、ちゃんと下が見えない。そろりと、慎重に、とは言ってもやはり軋む。古い家だし、体重の移動を気にしながら少しずつ次の足に乗せていく。
わーい、とまた聞こえた。やはり下にいるぞ。幻聴ではないなぁーッ、このやろう。
俺はなんだかイラっときてしまい、もし何かしてきたら、その時は遠慮なくブッ刺してやる。本気でそう考えていた。
鞘から刃物を抜いておく。

ゆっくり降りるが、気持ちは逸る。
すでに軋みなんて気にせずゆっくりとではあるが階段を下っていった。
夕方なので日は落ちてきているが、まだ完全に暗くはなかった。
刃物を先導させ、キョロキョロと周りを見渡す。いない。襖を開ける。少し開けて離れてから部屋の中を見渡す。いない。後ろの洗面台を見る。いない。部屋の中に入る。押入れを見る。いない。窓ガラス側を見る。いない。
仏壇が置いてある。ちょっとだけ不気味だが先祖を祀るために置いてあるんだ。力を貸してくれよ。刃物を先導させる。二つ目の押入れを開ける。いない。わーい。また聞こえたぞ、何処だよ。

何気なしに振り返ると、いつのまにか、異様な目の何かが、俺の背後に、いた。

口は足の下まで、いや全体が顔なのか。ゆるキャラの着ぐるみのような滑稽さも感じるが、その目の大きさと口の長さは十分不気味だった。口元は笑っていた。目は歪んでいて、奥の方が淀んでいた。
わーい。と言った。
俺は反射的に包丁をそいつに向かって突き刺した。グニィッと歪んだ。もう一度刺した。グニュグニュッと歪む。画像編集ソフトで無理やり変形させたみたいに不気味に笑った顔が刺すたびに歪んだ。
意味がわからなかった。
気が狂いそうになりながら何度刺しても、向こうはずっとこちらを見ていた。
歪んだ目で見ていた。
わーいと言った。開きっぱなしの口を刺すが、口の奥までは入っていかず表面が少しグニャリと歪んだ。
顔はより不可解な造形となって俺を見つめていた。わーいと言った。俺も、わーいと言った。刺すというより切りつける形になった。わーいと言いながら斜めに切りつける。
顔は歪んでそれでもまだ笑みを崩さなかった。わーいと言って横に切る。顔全体を不気味に歪ませ笑顔でわーいと言った。
俺もわーいと言った。切った。わーいと言った。わーいと言って刺した。わーいと言った。わーいと言って切った。わーいと言った。わーいと言った。わーいと言った。わーいと言った。わーいと言った。刺した。切った切った刺したわーいと言った。刺したわーいと切った切った刺して切った切って切って切って刺したわーいと言ったわーいと言って刺した切ったわーい刺した刺したわーいわーいわーい切ったわーい刺したわーい切った切ったわーい刺したわーいわーいわーいわーい
わーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーいわーい…

わーい

       

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