二人は簡単な夕食を済ますと、再び調べ物をしていた男の自室へと戻った。
 「それで、俺は具体的に何をすれば?」
 必要の無くなった資料を片付けながら、男が尋ねた。
 「そうですね、いくつかお願いしたいことがあるのですが、まずは簡単な聴取に協力して下さい」
 「聴取って、俺が何か答えればいいんですか?」
 むしろこちらが訊きたい事の方が多いのだが、と前置きしつつも、男は一応頷いた。
 「情状証人をお願いしたいんです。彼をこちらへ送還する前に、まずは例の事件を片付けないといけませんから」
 「じょう……?」
 聞きなれない単語を傍らのパソコンで調べようとする男に、オリンが説明を加えた。
 「被疑者……この場合、御友人の人となりについて証言する人の事です」
 「なるほど。しかし、まさか知り合いが被疑者と呼ばれる日が来るとは……」
 「すみません、一応こちらの規則に照らせばそうした呼称になるもので……」
 申し訳無さそうに頭を下げようとするオリンを、男が掌を向けて制する。
 「いえ、単純に情けないだけです。要はあいつの性格だとかを話せば良い訳ですよね? 別に良いですけど、何のために?」
 「彼の場合は初犯で、犯行自体も未遂ですからね。性格が取り立てて反社会的ということでなければ、不起訴処分も期待できるんです」
 「あぁ、そう言えば情状酌量とか聞いたことありますね……」
 男は顎に手をやりながら、昔見た法廷もののドラマを思い浮かべていた。
 異世界や魔法という言葉から、どうしても中世的なイメージを払拭できていなかった男だったが、技術と同じく、司法制度も近代的な仕組みになっているらしかった。
 「思いつくままにお話してもらえれば、私が後で調書に纏めますので」
 オリンは脇の小物入れからメモ帳とペンを取り出して、近くの椅子に腰掛けた。
 「思いつくまま……あの、引き受けといてなんですけど、あいつ無罪放免にされるほど性格良くないですよ? むしろ良い性格してるというか……」
 言葉を選びながら、何か美談は無かったかと逡巡する男に、オリンが首を振って見せた。
 「それは気にしないで下さい。聴取と言っても殆ど形式的なものですから、あまり深く考えないで大丈夫です」
 「そうなんですか? けど、実際逮捕までされてるんなら、そう簡単には赦して貰えないんじゃ……?」
 「まぁ、普通はそうなんですが……」
 少し苦々しい顔をしながら、オリンが続ける。
 「最近は、団体の声も大きくて……」
 「団体って、人権団体みたいなのですか? 何かニュースでそういうの聞いたような気がしますけど、そっちにも居るんですね」
 「大小色々ありますよ。少数種族や、異世界から迷い込んできた知的生命体の権利を保護する事を目的に活動している所が多いですね」
 「あぁ、そういう団体の手前、あまりあいつに厳しい措置をとるのも……ってことですか」
 「あまり大きな声では言えませんが、そういうことです。彼等も大半は良心的な方々の集まりで、理念そのものも立派なんですが、中には過激な団体もあって、そういうのを変に刺激すると面倒が多いということで……」
 「ほんとにどこかで聞いたような話だな……」
 聞けば聞くほど加速度的にファンタジーから遠ざかっていく異世界の景色に思いを馳せながら、男は聴取を受けることとなった。
 気弱で妄想癖が有り粘着質で、身近な人間に対してだけ妙に強気になる内弁慶な友人の人物像は、オリンの手によって繊細で想像力に優れ芯がぶれず、心を許した人間には本音でぶつかることのできる熱を内に持った好漢へと脚色され、同時に件の事件は、そんな彼が不慣れな土地で生き残るため止む無く行った緊急避難であったという脚本が生み出された。
 一方の男はその様子を見ながら、大学の就職課から聞かされたエントリーシートの書き方を思い出していた。