改めて男が携帯を手に取り、ゴミ野郎改め友人へと通話を試みる。
 何度かのコール音の後、男の耳に聞きなれた声が響いた。
 「もしもし、どちらで?」
 「……意外と元気そうだな」
 「お前、まさか……!」
 声で男だと気付いたらしく、友人の声が幾らか上ずった。
 「なんだよ、いきなり無線みたいなの渡されたと思ったら、何で中からお前の声がするんだ!?」
 「何でって……もしかして、あいつに何も話してないんですか?」
 友人の反応を不審に思った男が向かいの席に視線を送ると、オリンはすまなそうに手を合わせて答えた。
 「諸々の手続きで十分な時間が取れなかったので、取り合えず彼の身柄だけ押さえておいたんです」
 「なるほど……よし、いいか良く聞け。今からお前がどういう状況にいるか説明してやる」
 「どういうも何も、俺は選ばれた戦士として異世界に召還されてるんだろ? そして未知の技術を活用してこの世界を救って……」
 「今からその辺の誤解をまとめて解いてやるって言ってるんだ。黙って聞け」
 男がオリンから聞いた話を噛み砕いて伝える。
 友人は電話の向こうで相槌を打ちながら聞いていたが、話が進むにつれ、その響きにどこか哀れで悲痛なものが混ざっていくのを、男は感じ取っていた。
 「……と、いうわけだ」
 「そんな……それじゃ没収された俺のスマ……いや、この世のあらゆる情報を引き出す魔法の小箱は、お前が持ってるっていうのか……」
 「だからその設定も最早通用してないんだよ。聞いてると胸が痛くなってくるから止めろ」
 「そんな簡単に諦められるか! 念願叶ってあのクソみたいな世界とおさらばしたのに、ここもただのゴミ溜めだってのか!」
 「そういうこと言ってるから現地民にも嫌われるんだよ!」
 未知の魔法を扱う異世界の戦士として身柄を保護されているという形で自らの境遇を理解しようとしていた友人にとって、真実との落差は相当なものであった。
 「……確かに、個室のドアには何故か外から鍵かけてあって出れないし、歓迎されてるにしては飯が質素でおかしいとは思ってたんだが……」
 「無関係な国の税金で食わせてもらってる奴の言葉とは思えないが……とにかくそっちは、お前が思ってるような甘い世界じゃないってことだ」
 「くそ、この世界にも俺の居場所は無いのか……」
 男は恐らく涙が浮かんでいるであろう友人の両目を思い描いてはいたが、同時にこの際それを利用して話を片付けてしまおうという打算も働いていた。
 「別にこっちとしてもお前が必要って訳じゃないが、だからって他所で迷惑かけさせるのは筋が違う。まだ家族や知り合いが居る分、お前もこっちの方がマシだろ。長い家出だったと思って、もう帰って来いよ」
 「……帰る? でも、どうやって……」
 「それなら簡単……という話だ。お前がそっちに行った時と同じように、転送魔法だとかいうので送り返せばいいらしい」
 ようやく、この不可思議な事件が解決する。
 友人の反応からそう安堵した男が口を滑らせたことは、迂闊ではあるにせよ無理からぬ事だったのかも知れない。
 「術者と対象の意思が一致しないといけないから、今までは簡単に戻れなかっただけで、お前がその気になれば……」
 「……ん? ちょっとまて、お前今何て言った!?」
 だが、平生から自分には甘い人間だった男も、この時ばかりは己の粗忽を責めずに居られなかった。