友人のトーンが変わった瞬間、男は自らの迂闊を察したが、事態は既に手遅れであった。
 「今の話が本当なら、こっちとそっちを行き来するには、魔法使いと俺の同意が居るんだよな?」
 「しまった……」
 男が手で顔を覆った。
 「つまり、何か目的があって俺をここに呼んだやつが、この世界に居るってことだろ? ……やっぱり俺は選ばれた勇者だったんだ!」
 「普段の論理はこれだけ破綻してるのに、変なところだけ妙に鋭いな……」
 実際にどういう事情があったかは定かでないにしろ、確かにオリンの話が本当であれば、最初に友人が異世界に飛んだ時点で、少なくともそれを望む何者かが転送魔法を使ったことになる。
 「そっちの世界はどう転んでも俺なんて必要としちゃくれないが、こっちには俺を必要とする誰かが待ってるんだ! 人生捧げるにはそれで十分だろ!」
 スピーカーの向こうから聞こえてくる半泣きの友人の声に、男が思わず頭を抱える。
 「見ず知らずの相手に、よくそこまで入れ込めるな……。すみません、少し手間取りそうです」
 「そうみたいですね」
 脇でスピーカー通話を耳にしていたオリンが、男と同じくらい苦い表情をしながら頷いた。
 「……ちなみに、あいつの話って合ってるんですか?」
 不本意そのものといった表情を崩すことなく、オリンが再び頷く。
 「まぁ、流石に勇者だと思って呼ぶわけはないと思いますが……魔法を使った誰かが居るのは、実際間違いないと思います」
 「それじゃ、まさか本当にあいつを必要としてる奴が?」
 「有り得る線としては、行政コストの増加とそれに伴う国民の政治不信を狙った他国の工作員の仕業でしょうか。一応、当局が調査していますので、遠からず判明するとは思いますが……」
 「聞いたか? 百歩譲ってお前を必要としてる奴が居たとしても、人様の役に立つような目的でお前を呼んだわけじゃ……」
 「いや、お天道様に顔向けできないような道理でも、その中で生きなきゃならない奴らってのは居るもんだ。どんな形ででも、必要とされたことが俺には嬉しい……」
 「ヤクザの鉄砲玉みたいな事言ってんじゃねぇ! こいつ今までどれだけ卑屈に生きてきたんだ……」
 仮にこちらに呼び戻したところで、この性格では似たような動機の下カルト宗教や組織犯罪に利用されはしないだろうか。
 潜在的なリスクを社会単位でわざわざ負うくらいなら、自発的に出て行ってくれたのを幸いに、このまま置き去りにしてしまった方がむしろ良いのではないか。
 「嘘……」
 オリンの表情が急変したのは、男の頭にそんな手前(人類)勝手な理屈が浮かんだ、まさにその時である。
 「へ、何か有りました?」
 「何だ、何かあったのか?」
 連絡機会らしき端末を握り締めたオリンが、やや青ざめた表情で答える。
 「このままだと、もしかしたらこちらの世界もまずいかも知れません……」
 「へ?」
 スピーカーのものと共鳴した男の間の抜けた声が、部屋に響いた。