もうお酒なんて飲まないなんて言わないよ絶対

1分33秒。

皆さんはこの時間を聞いて、一体何を連想するのだろうか。
カップ麺にお湯を入れて待ちきれない人がつい食べてしまうまでの時間だろうか?
それはもう相当のバリカタ好きのこだわり、という話ではない。
おふざけでも何でもなくて、これはライブの開始から終了までの演奏時間である。
つまりfull show。本当である。

小さなハコのライブハウスでは普通なら30分くらいあるはずの持ち時間を
なんと約三十分の一に抑えてしまう匠の技。

そういう人が実在する事を僕は思い知った。



藤崎さんと一緒に扉を開けてついにライブハウスへ踏み入る。
中へ入ると簡素な受付があり、そのすぐ隣にはバーカウンターがあり、
お客さんはまだ誰もいなかった。

「あ、ジュンちゃん遅かったじゃん」
「すみません。少し遅れました。すぐ準備しますね」

奥から銀色短髪の刺青入れまくりの女性がやってきた。
どうやらここで働いているスタッフらしい。

「あ、武井さん今日は学校の友達を連れて来たんですけど、
特別に見学させていっても良いですか?」
「え~、まぁ、良いよ。でもなんか飲んでってね」
「あ…僕未成年なんで、お酒の方は…」
「なーに言ってんのよ!良いって、良いって、ここでの法律は私!裁判官!天皇!
誰だって学生時代の頃には隠れて飲んでるものよ」
「え、いや、でも…」
「はい、劇薬カクテル入りまーす!」
「とんでもない2文字が聞こえたんですが、それは…」

そう言うとスタッフの武井さんは様々な瓶を並べ、それをシェイクし始めた。
藤崎さんは隣で重そうな樽を持ち上げている。

「はい!お待ち!当店特別カクテル!」

虹色の液体が入ったコップが差し出された。
初めて見たはずのそれはしかし不思議と見覚えのある既視感。
あ、そうだ、これ理科の実験で見た気がするぞ。
確か失敗した時に…。

「これは飲んでも大丈夫なモノなんですか?」
「ここでの通過儀礼よ。割礼みたいなものよ」
「はぁ、か、割礼…!?」
「さぁ、飲んだ!飲んだ!」

そう煽られ、恐る恐る一口飲むと…咽喉が消滅した。
そして胃の中に新たな生命体が生まれたかのような強烈な熱さを感じる。
全身から危険信号を発している。

「ホー!ホッホオアアアアアア!」
「アーハッハッハッハ!!!」

武井さんは大爆笑。藤崎さんはそれを微笑みながら
一生懸命ビールサーバーを組み立てている。
視界が回る廻る周る。これがアルコールの力…。
一口でこんな状態になるのだ。これを全部飲み干したら一体どうなるんだろうか。
と言うか思考が定まらない。

「ゴメンゴメン、はいお水」
「あ、すみません…」

武井さんから頂いた水を飲みながら(あ、水ってこんなに美味しいんだな)
などと思った瞬間、奥のフロアから強烈な爆音が流れた。
と言うより、マジで爆弾テロにでも巻き込まれたのかと錯覚して一瞬パニクった。

「な…なんなんですかこの音は!?」
「あ~、今日はね、うっるさい人達が沢山出るからね~今リハしてんのよ。
ちょっと覗いてみる?」

バーカウンタースペースの奥にはフロアとステージがある。
中に入ると、そびえ立つアンプの壁がまず目に入り、その光景に圧倒された。
その目の前にはたった一人エフェクターやらマイクの
サウンドチェックしている全身真っ黒の男がいた。

「今日出る人の中じゃ、あの人が一番うるさいわよ~」

そう。それは本当だった。
それはこの数時間後、僕は嫌と言うほど思い知ることになる。
sage