Neetel Inside ニートノベル
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カイダンヲオリタラ
戦場で見かけた星のカービィ

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どうやら今日はツーマンらしく(出演者が2組のみ)次で最後らしい。
そして、リハーサルで見かけた全身真っ黒の長髪の男が
慣れた手つきでセッティングを始める。
先ほど見た二人組とは比べ、ずいぶんコンパクトな機材だ。
一通りそれらの作業を終えると、楽屋へ引っ込む。
だが、それからが長かった。

・・・

・・・

・・・

おい!いい加減にしろ!

いくら待っても出てこない。気が付けば30分も経過している。

「おっせぇ…」

と思わず独り言を呟き終えようとすると耳元に声が突き刺さる。

「何言ってんのよ~!これはね…既に始まっているのよ!!!」
「うわ!!!ビックリしたぁ…た、武井さん…?」

鼓膜が喪失したかと思うくらい信じられない近距離で話しかけられ、
マジで心停止しかける。だが、そういう訳にもいかないので
なんとか気合を入れて吹き返した。

「この人はね、いつもライブ前はこうしてお客さんを待たせてイライラさせるのよ」
「え?なんでそんなことをするんですか」
「まぁ、始まればいずれ分かるわよ、
あ、もう一度言うけど怪我には気を付けてねぇ~」
「け、怪我って…嫌ですよ…そんな恐いこと言わないで下さい」

カッカッカ!と甲高い声を響かせて笑う武井さんはバーカウンターへ去って行った。
あの人はいつもハイテンションだなぁと思いながら去って行く背中をじっと眺めてると、
武井さんの肩に彫られた星のカービィがチラチラ覗いてきた。

「カービィのタトゥーしてる人初めて見た…」

と珍しがっていると今まで流れていたサイケっぽいSEが突然止まった。
そして、間髪入れずあの長髪全身真っ黒男が楽屋から颯爽と現れる。
良く見ると手には浅田飴のまあるい赤い缶を握っている。
そして、マイクの前まで来ると1234!とカウントを始めると



その瞬間


ギュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


いきなり滝に突き飛ばされたかと思うくらいの大爆音が僕に襲い掛かってきた。
まさに襲い掛かると文字にしたその通りとしか形容出来ない壮絶な体験。
視界が揺れる揺れる、そして高く。あれ?気が付けば体が浮いている、
まるで宇宙空間にいるかのように。
そして、何より恐ろしく感じたのはあまりに待ち過ぎて
痺れをきらしきっていた大勢のお客さん達の暴れまわる姿と怒号の嵐だった。

ライブハウスがいきなり戦場と化した。



死ぬの僕?

幾多の激しいパフォーマンスをするハードコアやヘビメタのライブが
存在するかは分からないが、もしかしたら今現在一番
危険なのはこのライブなのではないかと思うくらい、あまりに危険であまりに痛かった。

洗濯機の中で洗われるTシャツってこういう気持ちなのかな、などと考えていたら
一瞬だけ、一番後ろの安全地帯でニコニコしている藤崎さんの表情が視界に映った気がした。
僕はそれを走馬灯ではないことを信じながら1分33秒ずっとずっと回転させられ続けると
長髪全身真っ黒男はアンプの上に登って立ち上がり、
一点を集中し定めながらジャンプをキメ、着地と同時にエフェクターを踏み倒した。

あの爆音が嘘だったかと思うくらい静寂が一瞬訪れ、
お客さんの雄叫びに近い歓声が湧き始めた。

残ったのは悲痛なまでの鋭い痛みと今まで味わった事のない

高揚感だけ…。





どうやら気絶していたようだ。

気が付くと腕を組んでいる武井さんが僕を見下ろしていた。
僕の情けない姿を改めて確認すると意地悪そうな目をしながらニヤニヤしている。
全くこの人は…と思い、肩に居るカービィとふと目が合うと

ソイツも微笑んでやがった。

       

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