Neetel Inside ニートノベル
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 ◆四月二十八日・放課後の美術室

「透クンは美術部だと聞いていたが」
「何が言いたいんですか?」
「いや、私に芸術のセンスがないせいか、君が何を描いているのか分からないのだよ」
「……みんな同じ物を描いているはずですが」
「え? だって他の者は、あの台に置いてある、人の顔の彫像を模写しているではないか」
「僕もそうですけど?」
「透クン、いくらなんでも私にだって、模写と抽象画の違いくらいは分かるぞ」
「……」
「……え?」
「……にんにく投げ! にんにく投げ!」
「痛い! 痛い! 臭い! 悪かった、私が悪かった!」
「美術部の部員が全員、絵が上手いとは限らないんですよ」
「そ、そうだな。全くもって、その通りだ」
「それで今日は珍しくお一人で、どういった用ですか?」
「いやだなぁ透クン、私の望みが何なのかなんて、もう分かっているだろう?」
「ですから、僕は吸血鬼になるつもりはありません」
「じゃあ逆に、どうしたら吸血鬼になってくれるんだ?」
「何をどう逆にしたら、そういう質問が出てくるのか分かりませんが……何をどうしても、吸血鬼にはなりません」
「むう……じゃ、じゃあ話題を変えよう」
「へえ、セレスさんがそれ以外の話題を用意しているんですか?」
「この国ではそろそろ、ゴールデン・ウィークとやらがあるそうじゃないか」
「ああ、ええ、まあ」
「テレビで見たぞ。所謂、お出かけのシーズンなのだろう? 君もどこかにいくのかな?」
「行くとしたらどうだと言うんです? ついてくるつもりですか?」
「ギクッ」
「分かり易すぎる図星の表現ですね。しかし残念な事に、うちは両親とも働いてますし、休みも最低限しかないようですので、どこかに出かける予定はありません」
「なんだ、そうなのか」
「それにご存知のように、僕はインドア派ですから……どこかに出かけるより、家でのんびりしている方が楽なんです」
「ふうむ……しかしインドア過ぎるのもどうかと思うぞ。君のその、しなやかなボディラインが崩れてしまう可能性が……」
「大きなお世話です。いや、むしろその方がセレスさんも諦めがついていいかもしれませんね」
「いやいやいや、そんなの駄目すぎる! そうだ透クン、それなら私の家に来てみないか? と言っても実家ではなく、日本での仮住まいの方だが」
「腹を空かした猛獣の檻に、自ら飛び込めと?」
「安心したまえ。君が我が家に来ている間は、世継ぎの話は一切せぬ事をここに誓おう」
「セレスさんの誓いにどれだけの価値があるのか、僕には分かりかねますが」
「うぐぅ……」
「……でもまあ、退屈しのぎにはなるかな」
「おっ? じゃあ来てくれるかな?」
「ええ」
「やったー! ようし、早速帰って準備せねば! ではな!」
「……ほんとに500年以上生きてるのかな、あの人……」

       

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