篝がチョコ作りに奮闘している間、私はソファで寛ぎながら夕方のニュースを眺めていた。
 酸性雨でどろどろに溶けた町とか、身体中が鉄くずになってしまい街中を疾走する二人組の男とか。
 先日拿捕されたUFOの乗組員が実は墜落現場に偶然居合わせただけの会社員男性だったことがわかったとかで政府は公式に謝罪を表明したけれどもすでに度重なる人体実験の影響で半死半生の身であるとか。
 どうでもいいニュースばかりだ。
 そう思ってザッピングすると、私の隣でぼけーっとテレビを眺めていた天使がぷりぷりと怒りながらリモコンを引ったくって抱きかかえた。
「これ、ぼくのものです」
「いや、あんたのじゃないから」
 拳でぐりぐりと天使のこめかみにダメージを与えるが、鈍い痛みに呻くばかりで放そうとしない。
 ライターで毛先を炙ってやろうとポケットをまさぐったところで、急にどーでもよくなった。
 私はふんと鼻を鳴らして立ち上がり、ダイニングで悪戦苦闘を続ける篝を見遣る。
 まな板にはみじん切りにされた白菜と、小さじ一杯の砂糖か塩がちょこんと盛られている。篝はうんうんと唸りながら食材の山を睨んでおり、カップ麺を手に取り、放り、玉ねぎを手に取り、放りを繰り返している。
「あのさぁ、篝……」
 私の声に、篝はびくっと身体を跳ね上げて、
「も、もうちょっとだけ待って! もうちょっとで、もうちょっとで出来るから!」
「もうちょっとって具体的にどれくらい?」
「それは、えっと、あと……二時間くらいかな」
「それ、どういう根拠で言ってんの?」
「え。えっと、だから、あのぉ……」
 涙目。
 涙声。
 狼狽えながらもごもごもごもご。
 要するに、何も考えてないって話だ。
 何とかなる。何とかする。どっちにしても、神頼み。
 適当に手を動かしていれば、いつか自然とチョコらしき何かが出来上がるかもという甘い目論見。
 ――別にいいけど。
 いいんだけどさ。
「……お腹減った」
 育ち盛りの体に空腹は毒だ。
 とはいえ、台所は散らかっていてとても料理なんてできるような状態ではない。
「出前がいいです」
 と天使からの提案。
 通常なら議論の余地もなく却下であるが、特大サイズが五割引される上に二リットルのコーラが無料となるお得なクーポンがあるとのことで、天使が少し多めに支払うことを条件に私も賛成の意を表明した。
「普段どこでバイトしてるの?」
「スーパーでレジ打ちしてるです」
 利用したことのあるスーパーだったので、今度出勤している時間に合わせて立ち寄ることを約束した。
 ネットでピザの注文を完了すると、ダイニングにいる篝が再びにゃーっと悲鳴を上げた。
 見ると、コンロで火にかけていたフライパンがフランベの如く燃え上がり、闘牛のような角と漆黒の翼を生やした少女が片膝をついた姿勢でフライパンの上に出現した。
 篝の思惑は相も変わらずわからんけれど。
 少なくとも彼女が篝の求める完璧なチョコレートとやらではないことだけは間違いない。
 どこから誰がどう見ても、彼女は悪魔だった。