肌を焼くような熱風。
 旧市街地の巨大なクレーター。
 空を踊る大型ヴィジョン。
 五年間燃え続ける神社の鳥居を横切り、犬すら吠えない住宅街にたどり着く。
 篝の家は――青い屋根が目印だった。


 夢を見た。
 友達が死ぬ夢だ。
 友達の顔はへのへのもへじで、藁みたいな手足をしていたけれど。
 ばらばらになって、風に流され、虚空に消えた。
 正確には死んではいないのかもしれない。
 仮に心臓があるなら、今もどくどくと脈打っているのかも。
 仮に脳みそがあるのなら、今も頭のなかで数式か何かを必死になって解き続けているのかも。
 だけど、どれだけ呼んでも応えないのなら。
 どれだけ手を伸ばそうと決して届かないのなら。
 それは死んだも同然だ。
 私はそう思う。
 そういう夢を見たのである。


 私は自宅のベッドで飛び起きた。
 何かとんでもない失敗をしてしまったような焦りが胸をどきどきと高鳴らせ、全身が汗でびっしょりと濡れている。
 部屋は暗く、時計を見ると時刻は午前五時だった。
「遅刻――じゃないか」
 ふう、と安堵の息を吐く。
 それからついさっきまで見ていた夢の内容を思い出そうとして。
「……あれ?」
 と。
 改めて時計を見つめ直した。
 時刻は午前五時。
 時計にはデジタルで室内の温度や湿度も測れる機能がついていて、――そこには日付も表示されていた。
 二月十三日。
「――――」
 呆然と時計を見つめながら立ち尽くす。
 記憶違いだろうか。
 昨日も、二月十三日だったような気がする。
 だって、篝がチョコ作りに一生懸命になっていたのは、今日が十四日だったからのはずだ。
 それとも、あれは夢だったのか。
 いやいや、流石に違う。そんなわけない。
 だけど、
「……私、いつ帰ってきたんだっけ」
 その記憶がない。
 あれが夢とは思わないけれど。
 私は二度寝の誘惑を振り切って、篝の家に走った。


 呼び鈴も鳴らさず扉を開けた。
「……篝」
 居間にはいない。
 それどころかチョコ作りで大いに散らかっていたはずのダイニングが綺麗に片付いていた。
「篝ー」
 彼女の私室にもいない。
 綺麗に整えられたベッド。汚れひとつない机。
 小学生の頃の私と篝が――写真立ての中で笑っていた。
「篝!」
 ご両親の寝室にも、彼女の姿は見つからない。
 少なくとも天使と悪魔はそこで眠っているはずだった。
 けれど、誰もいない。
 お風呂にもトイレにも、クローゼットの中にも。
「篝――」
 最後の呼び声は、虚空に融けた。
 篝がいない。
 それは、この家にはいないという意味ではなくて。
 いないのだ、どこにも。
 捜したって、多分無駄。
 消えた人間を追うことは出来ない。
 何故だろう。
 ――本当に、何故だろう、と思う。
 ただ、私は――篝が死んでしまったことを確信していた。
 あれを夢とは思わない。
 ひとりでテレビが点いた。
 ニュース番組が始まる。
 おはようございます、とキャスターが綺麗なお辞儀する。
 本日は二月十三日。
 午前七時です。
 当たり前のように、今日という一日が始まった。

 私は――それから篝の家で一日を過ごした。
 結局、篝は帰ってこなかった。
 ただ、ぼーっと一日が過ぎて。
 今日が終わるというタイミング。
 かちかちと鳴る時計。
 午後十一時五十九分五十九秒。
 けれど日付は変わらない。
 私は再び――自分の部屋のベッドで目を覚ました。
 午前五時。
 日付はやはり二月の十三日だった。