雨の日は憂鬱。
 雨傘、長靴、レインコート。
 自転車に乗れない。水たまりは避けて歩くし、川には絶対近付いちゃだめ。
 校庭で遊べない。教室はなんだかじめじめしてる。
 それに――結局どんなに頑張ったって、帰る頃には靴下はじとーって濡れちゃうんだ。
 雨は憂鬱。
 雨は嫌い。
 雨が憎い。
 雨は――。
 ――。
 そいえば篝。
 あなたの苗字にも、そんな忌々しい――雨の字が含まれてるよね。
 やっぱり、私。
 あなたことが、大嫌い。
 嫌いになった。
 たった今。
 そう思った。
 ねえ、そんな理由で、私はあなたを。
 簡単過ぎるくらいに、嫌いになれちゃうんだ。
 ――。
 それとも、私は。
 あなたのことが、もともと嫌いだったんだろーか。
 だとしたら、それはどうして?
 どんな理由で?
 それは――簡単に解決できること?

 雨はすべてを洗い流す。
 この町も、人も、私たちの思い出すらも。
 綺麗に流れて、綺麗に消える。
 だから、私たちには、雨宿りが必要なんだ。
 どうせ、降り止むまでは帰れないんだから。

 ――――。
 ――――。
 ――――。
 ――――。

 コンビニエンスストアの自動ドアが開く。
 ぴろろろーん、と独特の入店音が鳴り響く。
「いらっしゃいませー」
 やる気なげな店員さんの声。
 篝は居心地悪そうに、雑誌コーナーの前できょろきょろ辺りを見回している。
 私たちの他に――お客さんの姿は見えない。陳列棚は品出ししたばかりのように、商品がぎっしりと並べられていて。
 オープンしたてというだけあって傷や汚れは見当たらず、壁も床も天井も真っ白な照明に照らされて、どれもきらきらと輝いて見えた。
 私は――普段はコンビニで買い物なんてしない。毎月与えられているお小遣いはそんなに多い額じゃないし、欲しいものがあったらお母さんにお願いすれば、よほど贅沢なものでなければ買ってもらえるからだ。
 それに、レジを通して物を買うのは、なんだか大袈裟なことをしているように思えてしまう。それなりのものを買うならまだしも、例えば飲み物を買うだけなら多少割高でも自販機で買えよと言われるような、そんな気がしてしまって。
 レジの前には、何となく――寄りつきたくない、と。そう思ってしまう。
 だけど今日は、雨宿りだけして何も買い物をせずに退店するのはあまりにも忍びないから、流石にポテチとお茶くらいは買って帰るつもりだ。
 でも、いつまでここにいられるだろう。
 雨はずっと降り続く。ひょっとすると、明日の朝まで止まないかもしれない。
 いくらなんでも、そんな時間までコンビニに居続けることは出来ないだろうし。
 雨が止まないうちにここを出て行くことになるなら。
 そもそも雨宿りをした意味があるのかって話になる。
 だからって、店員さんに「雨が止むまでいていいですか」なんて尋ねるのも馬鹿馬鹿しいし。
 私は――ちらりとレジの方を見遣る。いかにも私たちが商品を持っていくのを待ち受けられていても嫌だなと思ったのだけど。
「え」
 と。
 思わず二度見。
 レジカウンターの向こうにいる店員さんは――店員ではなかった。
 だって、彼女は――制服のエプロンではなく私たちと同じ中学校の制服を着ているし、丸椅子に座って雑誌を読んでるし、レジに広げたスナック菓子をばりばりばり食べてるし。
「な――なにしてるんですか、小鳩先輩」
 私の声に、彼女はぱっと顔を上げる。
「んぁ、……はぁ、なーんだ、須藤かー。おいおい、お客かと思ったじゃーん」
「いえ、お客様です、私も」
「あのなー、須藤。金を払わん奴を客とは呼ばないんだよー、知ってたー?」
「いえ、払います。ポテチとポカリです。お会計して」
「……んー、てか、レジの打ち方とかわっかんないし」
 小鳩先輩は両手を広げながらそう言って、
「まあ、いいから食べなよ、飲みなよ。須藤はさ、雨宿りに来たんでしょ? だったらもっともっと宿んなきゃ。まるで――商品買ったらそのまま出て行っちゃいそうな顔してるよ」
「……他に、店員さんいないんですか」
「いないよ。今日は終日わたしだけ。シフト表見る? 店長も飯野さんも菅原さんも、みんな明日のお昼までお休みだから」
 須藤がここにいたいと思うなら、そうしてしまえばいいだろう――と。
 小鳩先輩はそう言ってくれる。
 いいのかな、と思うけれど。
 雨は止まない。
 今でも外でざーっと鳴ってる。
「ほれ、食いねえ」
 先輩が一口サイズのチョコ菓子を差し出す。
 多分、棚から適当に取ってきたおやつだと思う。
 お金払ったのかな。そういうふうにしていいって言われてるのかな。
 駄目なことなら、食べたら私も共犯だ。
 それはわかっている。
 共犯にはなりたくない。
 それでも特に大した理由もなく。
 私はぱくり――とチョコに食いついた。


<<続く>>