夜が暗いのは当たり前だ。
 でも、暗闇のなかでも安心して目を閉じられるのは、いつでも簡単に光が得られることを知っているからだと思う。
 コンビニは二十四時間営業だ。
 真夜中に独り寂しく目を覚まし、まるで自分以外の人間が全員地球上から消え去ってしまったみたいに静かな街でも。
 ぽつぽつと無機質に灯る街灯とは違う――人の息遣いを感じられる煌々としたその照明を、私は心強いと感じられる。
 だけどコンビニという場所は、いつもそこにあるにも拘わらず、いつまでも居られる場所ではない。
 買い物が済んだら帰らなきゃ。買う物がなかったのなら、それでもやっぱり帰らなきゃ。ここは誰のお家でもない。あなたには他に――居場所があるんでしょ。

 ――――。
 ――――。
 ――――。
 ――――。

 時計の針がくるくる回る。
 そうでもないのに忙しげに、くるくるくるくる回り続けている。
 ホットスナックは品切れ中。
 何度読み返したかわからない週刊誌を反対側のページから読み返している姿を見るに、新しく作るつもりは毛頭ないらしい。
 自動ドアがうぃーんと閉まる。
 私は開いたことすら気付かなくて、ただ店の外で傘を広げて立ち去ろうとする誰かの後ろ姿を見送っていた。
 外は――相も変わらず昏いままだ。
 ねずみ色の傘が遠ざかる。夜の闇へと消えていく。
 ふと、店中の陳列棚から、商品がなくなっていることに気が付いた。
 誰かが買っていったのか。誰かが盗っていったのか。
 そもそも、私が入店してから、何人の客がやってきただろう。
 ここは――静かだ。
 聞こえるのは、小鳩先輩のお菓子をぱりぽりと頬張る音と、流行りのアイドルソングを垂れ流す店内放送だけ。
 ……充分、雑音に充ち満ちているけれど。
 それでも、静かだと思った。
 ここには、雨の音さえ届かないのだ。
 ――――。
 私は何故か、胸がきゅうっと締め付けられるような、どうしようもない不安に駆られた。
 ――今すぐお家に帰りたい。
 帰ってお風呂に浸かりたい。冷蔵庫を開けて、麦茶をコップに注ぎたい。リビングで深夜番組を観ているであろう妹に飛び込むように抱きつきたい。引きこもりを極めている姉の部屋を無意味にこんこんとノックしたい。
 だから、――ねえ、篝。
 そろそろ帰ろっか。
「またお越し下さいませー」
 小鳩先輩の声を背中に受けながら、私はお店の外に飛び出していた。
 ざーっと。
 滝のような雨が行く手を阻む。
 夜空は塗りつぶされたように真っ黒だった。星も月も街の灯りも、すべて雨に洗い流されている。
 地面が大きく揺れた。
 振り返る。
 すると、数秒前まで私がいたコンビニが、地盤ごとがらがら崩れていって。
 瞬く間に――闇の底へと飲み込まれてしまった。
 隣に、篝の姿はない。
 ただ、ねずみ色の傘が転がっているだけだった。

(中学二年生の夏:完)