冬。
 とある土曜日。昼下がり。
 空は抜けるような真っ赤っかで。
 昨日の雪の影響で、街中の路面がぷくぷくと不気味に泡立っている。
 近所の悪ガキどもを蹴散らし、無人となった公園にて、私は独りルービックキューブをばらばらにしていた。
 腰かけたブランコがきいきいと鳴る。
 ばらしたキューブのパーツを放り、意味もなく砂を蹴り蹴り。はーっと吐いたため息が、白く濁ってたちまち消える。
 背後から、ざっと足音が聞こえた。
 一人分。ゆーっくりと少しずーつこっちに向かって近づいてくる。
 けれども私は振り返らない。
 どうせ、篝が来たんだろうとわかっていたから。
「……ねえ、真昼」
 そんな伏し目がちな声にも、私は何も返さなかった。
 いくつか言葉は浮かんだけど、黙ってぼーっと遠くを見つめる。
 まるで聞こえていなかったかのように。
 また、ぎーっとブランコが鈍く軋んだ。
「ね、ねえってば」
 私の視界を、篝の小さな影が塞いできた。
 両手でぎゅっとスカートの裾を握りしめて、今にも泣きだしそうな顔をして。
「なんで、無視するの……」
 覇気のない声を、私に向けた。
 居眠りしたみたいに、紫色の太陽がかくんと落ちる。けれどもまた沈むまいと、ゆらゆらゆらゆら揺れながら、また元の位置まで戻っていく。
「ねえ、真昼」
 ねえ、ねえ、ねえ。真昼、真昼、真昼。
 何度、私の名前を呼べば気が済むんだろう。何度、私に無視されれば諦めるんだろう。
 いつまでこの子は、私に優しい言葉をかけられるのを待ち続けるつもりなんだろう。
 憎たらしいな、と思った。
 金具がぎっとまた軋む。
「ねえ」
 繰り返す。
 篝はずっと繰り返している。
 まるで悪夢を見ているみたいだと思った。
 夢なら覚めてと願うけど。
 夢じゃないから今すぐ消えろと睨むばかりで。
「真昼、まだ……あたしのこと、殺したいって思ってる?」
「当たり前でしょ、篝。私ね、あなたこと、一生赦すつもりないから」
 私は蹴るようにブランコから立ち上がって。
 篝の耳元でそう囁いた。
 すると、彼女の顔が青ざめる。
 この世の終わりみたいな顔。
 傷ついているんだろうか。後悔しているんだろうか。
 怯えているようにも見える。ただ悲しんでいるようにも見える。
 だけど、篝は逃げない。帰らない。
 私がどこかに歩き出すと、その後ろをとぼとぼ寂しそうにくっついてくる。
 私が気まぐれに視線を向けると、少しだけ嬉しそうな顔をして、すぐに申し訳なさそうな顔をする。
 私は、そんな彼女のことを。

 ――可愛いなぁ。

 と。
 そう思っていた。
 だってそうじゃない?
 ちょっと前まで誰にも手を付けられない猛獣みたいな少女だったのに。
 私の言葉に素直すぎるくらいに傷ついちゃって、少し睨めばびくびく震えて、蹴っても踏んでも縮こまるだけ。
 このままやんわりと追い詰めたら、そのうち自殺か何かするんじゃないか。
 そう考えるとぶっちゃけぞくぞくした。
 ……あ。でもね、篝。
 別に、あなたが死んじゃう必要なんて、どこにもないの。
 だって私は、篝のことを――とっくのとうに赦しちゃってるんだから。
 あの日、あの時、あの瞬間。
 ただ一度、「ごめん」と謝ってくれた。
 あれがその場で取り繕っただけの言葉だなんて思ってない。
 だから、もう何一つとして気にしなくていい。
 私の軽口なんて軽く流して、いつも通りのあなたでいてくれさえすれば、私たちはきっと本当の意味で友達になれる。
 なのに、ねえ、篝。
 篝の私を見るその瞳が。
 少しずつ少しずつ壊れていく様が。
 ぐっちょりぐっちゃりねっちょりと。
 私の情緒を――濁らせてしまうんだ。