高校一年生の冬:ちょこれーとクライシス

 私は、雨宮篝のことが大嫌いだった。
 知り合いになったのは幼稚園の頃。どんなふうに出会って、どんな言葉を交わして、どんなふうにお互いを傷つけあったのかは覚えていない。
 篝は典型的ないじめっ子だ。
 遊び感覚で他人の心をずたずたにする。
 悪意はあっても悪気はないから、自分が原因で学校が燃えようが隣国が転覆しようがいつも必ずどこ吹く風。
 私が「死ね」という言葉の意味を理解したとき、私が真っ先に思い浮かべたのはもちろん彼女の姿だった。
「誰かを殺したいって思ったことある?」
 あの日、あの時、あの瞬間。
 無邪気ににひひと笑いながら私にそう尋ねたのは、他でもない篝自身だった。
「あるよ」
 私は即答。
「へえ、誰を?」
 と首を傾げた彼女を、私はじーっと三分間ほど見つめ続けた。
 とにかく察しの悪い篝も、流石に「あれ?」と思ったらしい。
「そっか」
 と小さく呟いて、
「ごめんね」
 と欲しくもなかったそんな言葉を、これまた小さく呟いた。
 高校一年生の、夏のことだった。


 冬。
 とある土曜日。昼下がり。
 空は抜けるような真っ赤っかで。
 昨日の雪の影響で、街中の路面がぷくぷくと不気味に泡立っている。
 近所の悪ガキどもを蹴散らし、無人となった公園にて、私は独りルービックキューブをばらばらにしていた。
 腰かけたブランコがきいきいと鳴る。
 ばらしたキューブのパーツを放り、意味もなく砂を蹴り蹴り。はーっと吐いたため息が、白く濁ってたちまち消える。
 背後から、ざっと足音が聞こえた。
 一人分。ゆーっくりと少しずーつこっちに向かって近づいてくる。
 けれども私は振り返らない。
 どうせ、篝が来たんだろうとわかっていたから。
「……ねえ、真昼」
 そんな伏し目がちな声にも、私は何も返さなかった。
 いくつか言葉は浮かんだけど、黙ってぼーっと遠くを見つめる。
 まるで聞こえていなかったかのように。
 また、ぎーっとブランコが鈍く軋んだ。
「ね、ねえってば」
 私の視界を、篝の小さな影が塞いできた。
 両手でぎゅっとスカートの裾を握りしめて、今にも泣きだしそうな顔をして。
「なんで、無視するの……」
 覇気のない声を、私に向けた。
 居眠りしたみたいに、紫色の太陽がかくんと落ちる。けれどもまた沈むまいと、ゆらゆらゆらゆら揺れながら、また元の位置まで戻っていく。
「ねえ、真昼」
 ねえ、ねえ、ねえ。真昼、真昼、真昼。
 何度、私の名前を呼べば気が済むんだろう。何度、私に無視されれば諦めるんだろう。
 いつまでこの子は、私に優しい言葉をかけられるのを待ち続けるつもりなんだろう。
 憎たらしいな、と思った。
 金具がぎっとまた軋む。
「ねえ」
 繰り返す。
 篝はずっと繰り返している。
 まるで悪夢を見ているみたいだと思った。
 夢なら覚めてと願うけど。
 夢じゃないから今すぐ消えろと睨むばかりで。
「真昼、まだ……あたしのこと、殺したいって思ってる?」
「当たり前でしょ、篝。私ね、あなたこと、一生赦すつもりないから」
 私は蹴るようにブランコから立ち上がって。
 篝の耳元でそう囁いた。
 すると、彼女の顔が青ざめる。
 この世の終わりみたいな顔。
 傷ついているんだろうか。後悔しているんだろうか。
 怯えているようにも見える。ただ悲しんでいるようにも見える。
 だけど、篝は逃げない。帰らない。
 私がどこかに歩き出すと、その後ろをとぼとぼ寂しそうにくっついてくる。
 私が気まぐれに視線を向けると、少しだけ嬉しそうな顔をして、すぐに申し訳なさそうな顔をする。
 私は、そんな彼女のことを。

 ――可愛いなぁ。

 と。
 そう思っていた。
 だってそうじゃない?
 ちょっと前まで誰にも手を付けられない猛獣みたいな少女だったのに。
 私の言葉に素直すぎるくらいに傷ついちゃって、少し睨めばびくびく震えて、蹴っても踏んでも縮こまるだけ。
 このままやんわりと追い詰めたら、そのうち自殺か何かするんじゃないか。
 そう考えるとぶっちゃけぞくぞくした。
 ……あ。でもね、篝。
 別に、あなたが死んじゃう必要なんて、どこにもないの。
 だって私は、篝のことを――とっくのとうに赦しちゃってるんだから。
 あの日、あの時、あの瞬間。
 ただ一度、「ごめん」と謝ってくれた。
 あれがその場で取り繕っただけの言葉だなんて思ってない。
 だから、もう何一つとして気にしなくていい。
 私の軽口なんて軽く流して、いつも通りのあなたでいてくれさえすれば、私たちはきっと本当の意味で友達になれる。
 なのに、ねえ、篝。
 篝の私を見るその瞳が。
 少しずつ少しずつ壊れていく様が。
 ぐっちょりぐっちゃりねっちょりと。
 私の情緒を――濁らせてしまうんだ。


 日曜日はきっと、月曜日のことが嫌いだろうな。
 休みの終わりと、週の始まり。
 ぐるぐる何度も繰り返す、ルーティーンの尻尾とお口。
 相容れない、と私は思う。
 だけどそれとこれとは、宿命的に、離れることは出来なくて。
 月曜日の思いはわからない。
 嫌いなのか好きなのか。
 ひょっとしたら、無関心ってこともあり得るのかも。
 アンノウン、アンノウン。


 声が聞こえた。
 とある二月の夕方五時。
 それは多分、成層圏から雲を突き抜け落ちてきた。
 スクールバッグに提げた小型のレーダーが、びーびー鳴って煙を上げる。
 空で何かが燃えていた。
 あれはきっと、壊れたラジオか何かだろう。
 おそらく、何が駄目だったのだ。失敗したのか、意図的にはずれを引かされたのか。
 火球は、三か月前までは「隣町」と呼ばれていた巨大なクレーターの底へと落ちていく。雨水が溜まってちょっとした湖の様相を呈しているその場所は、ちゃぽんと大きな波紋を作ったばかりで何事もなかったかのようにそれをごくりと飲み込んでしまった。
 校舎の屋上からその一部始終を見届けていた私は、一本だけ胸ポケットに仕舞っていたたばこを口先に咥えながら百円ライターにしゅぼっと小さな火をともした。
「あら、あら、あら。それは流石にどうなのでしょう、真昼さん」
 椅子の上に立つ私を、クラスメイトの浪裏心裏が困った様子で見上げている。
「……私だってJKだし。たばこの一本くらい普通に吸う」
「いえいえ、そうではなくて」
 向きが逆です、と浪裏がジェスチャーを加えた口パクで伝えてくる。
「……わかってる。わざとだし」
「あら、あら。そうですか」
 浪裏はふふふと笑う。
「……浪裏は、こんなところで何してんの」
 今日は土曜日。
 もちろん、学校はお休み。
 環境変異が盛んなこの時期だから部活は運動系も文化系も全面的に休止中。
 どうしてここに?
 自然な疑問。
 それをそのまま口にするのもそうだった。
「きっと、真昼さんと同じ理由です」
 穴の開いた空。隣町のクレーター。底のない湖。いつも決まって同じ場所から落ちてくる神様の落とし物。
 それを遠巻きに観察したからなんだって話。
 理由なんかない。
 なんとなくこうしているだけ。
 レーダーがびーびーびーびーうるさいから、こうせずにはいられないってだけの話。
 理由なんてないのに。
 私と同じ理由が、彼女にはあるのだという。
 不思議な話。
 だけど道理だ。
「浪裏も、私とおんなじなの?」
「おんなじですよ、私たち」
 どこから引っ張ってきたのか、いつの間にか浪裏も、椅子の上に立っていた。
 ほとんど同じ身長。似たような髪型。瞳の色とか。あれとかこれとか。
 共通点の多さに辟易とする。
 ところで、真昼さん、と浪裏。
「――明日が何の日か知っていますか?」
「明日?」
 明日。
 は、確か。
 二月の……十三日だ。
 たぶん、何もない日曜日だと思う。
 何の発展性も伸縮性もない話題。
 首をかしげて終わる。
 ライターの火を、今更ながらかちっと消した。
「あら、あら。いけない人ですね、真昼さんは」
 平和を欲さば戦に備えよ、ですよ。
 彼女は口だけを動かしてそう呟く。
 声はなかったのに。
 なぜか言葉が頭に刻み込まれる。
 レーダーが鳴る。
 びーびーびーびー。
 きっとまた、何か空から落ちてきたんだろう。
 でも、私の視線はなぜか。
 浪裏の唇に釘付けされていた。
 明日は何の日。
 そんなの、わからない。
 でも、きっと明後日は――。


 夜七時。
 雨宮邸のダイニングにて、茹でただけのパスタをもさもさ頬張る。
 向かいに座った篝は、フォークの先をくるくる回しながら、会話もないのに時折にへにへと嬉しそうな笑みを浮かべていた。
 雨宮篝に両親はいない。
 昔はいたけれど、今はいない。
 篝が言うには、コンビニのタイムセールに出掛けたまま、帰って来ないのだそうだ。
「きっと、回り道してるんだよ」
 と。
 小学生の頃。
 篝は真顔でそう言っていた。
 私はくすっと笑いそうになったけど、笑えなかった。
 その代わり、
「そうだね」
 と呟いて、ただ篝の手をぎゅっと握ったのだ。
 遠い、遠い、昔話。
 私たちはもう高校生。
 あの頃とは違う。
 もしかしたら出来るかもしれないことと、何がなんでも絶対に出来ないことの区別がつき始めてきている。
 だから、週に二、三度、私は夕食を篝の家で食べることにしている。
 会話なんてほとんどない。
 何か話しかけられても、無視することがほとんどで。
 食事が終わればただ帰るだけ。
 じゃあねの一言だってありはしない。
 だけど時々、
「――明日は、何の日か、わかる?」
 おずおずと口にした篝の問いに、
「え?」
 といったふうに、思わず声を漏らしてしまうことがある。
 明日は何の日。
 同じ質問を、つい数時間前に浪裏にされたことを思い出す。
 明後日のことならわかる。
 だけど明日は何にもない。
 帰り道にぼんやりと考えてみたけれど、やっぱり何も思い浮かばなかった。
「それ、答えあるの?」
 なるべく不機嫌そうな声を作って、篝を睥睨する。
「も、もちろん、あるよ!」
 篝の肩が弾む。
 返事があって嬉しいんだろうか。
 だけどすぐに会話を終わらせたくないんだろうという顔をしている。
 無駄話はしたくなかった。
「じゃあ、何。クイズとかいいから、答えだけ言って」
「それは、えっと――」
 彼女の視線が壁に掛けられていたカレンダーに向いた。
 見ると、二月十四日に赤い二重丸が、二月十三日に赤い丸が記されていた。
「あの、ね、……明後日、バレンタインデー……でしょ?」
「うん」
「でね、……あの、明日がつまり、……バレンタインデーの、その、前日だから」
「篝、回りくどい」
「あ、――ご、ごめん! だ、だっ、だから、その、バレンタインデーの……ために、チョコを、用意したいなーって思ってて」
「はあ?」
 と。
 またしても出た、思わずの声。
 この子は一体、何を言っているんだ。
 チョコを、用意したい?
 それは買うってこと?
 それとも作るってこと?
 いずれにせよ、それってつまり、バレンタインデーに参加するってことだ。
 あの雨宮篝が?
 なんで。
 何のために。
「あたし、頑張るから」
 篝が身を乗り出してくる。
「チョコを作るところ、真昼に……見届けて欲しいの」
 お願い、と。
 縋るように顔を近づけてくる。
 本当、何を言ってるんだこの子は。
 理解不能のわけわかめ。
 私はもう、篝のことを憎んでいない。
 血もう乾いて、傷は塞がり、怒りも冷えた。

 だけど、正直。

 叩いて叩いて、叩き続けた挙句に、雨宮篝という人間が何か致命的なニュアンスを以てぶっ壊れてしまうというのなら。
 いっそ壊して壊して、二度と元通りにならなくなるまで粉々にしてやろうかと思っていた。
 そろそろヒビが入る頃かもと思っていたけど。
 兆しを見せたその崩壊は、どうやら長くは続かなかったらしい。
 彼女は、人生を変える決断をした。
 但し、今や未来の自分ではなく。
 彼女は過去の自分を殺すことに決めてしまったようだ。
 私はパスタをちゅるりと吸った。
 雨宮篝は狂っている。
 私の想像よりもずっと早くに、ものの見事にぶっ壊れてしまったのである。


 二月十三日。日曜日。午後二時五十三分。
 雨宮邸のオープンキッチンにはおよそチョコ作りには無関係と思われる色とりどりの食材が並べられていて、小柄な篝を見失ってしまいそうなほどの小山が所狭しと築かれていた。
 スイカやかぼちゃにカレーのルー。エナジードリンク各種、業務用洗剤、溶けてでろでろの氷菓子、雑巾。
 料理の出来ない人間が画一的に口にしたがる「手作りチョコ」の定番といえば、湯煎で溶かした板チョコを型に流して冷蔵庫で固めたものというイメージだったけれど、どうやら篝の計画は違うらしい。
「真昼。あたしはね、完璧なチョコレートを作りたいの」
 どこか決意めいた表情を浮かべる篝。
 私が完璧とはなんぞやと問うと、
「そりゃ、ギフトコーナーで買えるような既製品とも、どこかの知らない誰かが書いた――如何にも美味しそーなレシピをなぞっただけの手作りでもない、もっと何か、違うものだよ」
 なるほどなるほど、わからない。
 およそ完璧とは無縁の回答。
 ひょっとするとそれは、言語化するには難しすぎるものなのか。
 それとも或いは、篝自身もわかっていないのか。
「で、どうやってその……完璧なチョコレートとやらを作るおつもり?」
「真心を込めるの」
「……真心」
 そう、真心。
 篝は心を込めたかのように抑揚をつけて反復する。
「よくわかんないけど、私は何も手伝わないかんね」
「あ、うん。真昼はただ、見ていてくれれば、それでいいよ」
「見もしないかもだけど」
 別にお菓子作りとか興味もないし。
 退屈だったらテレビを観るかも眠るかも。
 すると篝は、
「いてくれるだけで、いいよ」
 ただ、そこにいてくれさえすれば。
 それでいい――と言った。
「そっか」と私。
 じゃあ、頑張ってね。
 素っ気なく言って、ぽふんとソファに飛び込み、道すがら購入した自己啓発本を読み始める。
 それから――篝が自らチョコ作りと称したその行為に於いて一体全体どのような禁忌を犯したのかはわからない。
 但し結論を言ってしまえば単純な話だ。
 彼女は挑戦し、そして失敗した。
 完璧なチョコレートを作ることは出来なかった。
 時計の針がくるくる回って、今は夕暮れ。
 篝が、にゃーっと悲鳴を上げた。
 見ると、焦げた臭いを放つオーブンレンジからもくもくと黒煙が噴き上がり、ばかんと開いた扉からは細い右腕がにょきりと生えて、それからずるり――と銀髪の少女が滑り落ちた。
 へたり込みながらけほりけほりと咳き込む少女、その頭上にはまっちろい輪っかが浮かび、背中にも異形の翼が生えている。
 どちら様? なんて言葉はいらない。
 どこから誰がどう見ても、彼女は天使だった。


 篝がチョコ作りに奮闘している間、私はソファで寛ぎながら夕方のニュースを眺めていた。
 酸性雨でどろどろに溶けた町とか、身体中が鉄くずになってしまい街中を疾走する二人組の男とか。
 先日拿捕されたUFOの乗組員が実は墜落現場に偶然居合わせただけの会社員男性だったことがわかったとかで政府は公式に謝罪を表明したけれどもすでに度重なる人体実験の影響で半死半生の身であるとか。
 どうでもいいニュースばかりだ。
 そう思ってザッピングすると、私の隣でぼけーっとテレビを眺めていた天使がぷりぷりと怒りながらリモコンを引ったくって抱きかかえた。
「これ、ぼくのものです」
「いや、あんたのじゃないから」
 拳でぐりぐりと天使のこめかみにダメージを与えるが、鈍い痛みに呻くばかりで放そうとしない。
 ライターで毛先を炙ってやろうとポケットをまさぐったところで、急にどーでもよくなった。
 私はふんと鼻を鳴らして立ち上がり、ダイニングで悪戦苦闘を続ける篝を見遣る。
 まな板にはみじん切りにされた白菜と、小さじ一杯の砂糖か塩がちょこんと盛られている。篝はうんうんと唸りながら食材の山を睨んでおり、カップ麺を手に取り、放り、玉ねぎを手に取り、放りを繰り返している。
「あのさぁ、篝……」
 私の声に、篝はびくっと身体を跳ね上げて、
「も、もうちょっとだけ待って! もうちょっとで、もうちょっとで出来るから!」
「もうちょっとって具体的にどれくらい?」
「それは、えっと、あと……二時間くらいかな」
「それ、どういう根拠で言ってんの?」
「え。えっと、だから、あのぉ……」
 涙目。
 涙声。
 狼狽えながらもごもごもごもご。
 要するに、何も考えてないって話だ。
 何とかなる。何とかする。どっちにしても、神頼み。
 適当に手を動かしていれば、いつか自然とチョコらしき何かが出来上がるかもという甘い目論見。
 ――別にいいけど。
 いいんだけどさ。
「……お腹減った」
 育ち盛りの体に空腹は毒だ。
 とはいえ、台所は散らかっていてとても料理なんてできるような状態ではない。
「出前がいいです」
 と天使からの提案。
 通常なら議論の余地もなく却下であるが、特大サイズが五割引される上に二リットルのコーラが無料となるお得なクーポンがあるとのことで、天使が少し多めに支払うことを条件に私も賛成の意を表明した。
「普段どこでバイトしてるの?」
「スーパーでレジ打ちしてるです」
 利用したことのあるスーパーだったので、今度出勤している時間に合わせて立ち寄ることを約束した。
 ネットでピザの注文を完了すると、ダイニングにいる篝が再びにゃーっと悲鳴を上げた。
 見ると、コンロで火にかけていたフライパンがフランベの如く燃え上がり、闘牛のような角と漆黒の翼を生やした少女が片膝をついた姿勢でフライパンの上に出現した。
 篝の思惑は相も変わらずわからんけれど。
 少なくとも彼女が篝の求める完璧なチョコレートとやらではないことだけは間違いない。
 どこから誰がどう見ても、彼女は悪魔だった。


 程なくしてピザが届くと、それまで重力に負けてソファで液状化していた天使と悪魔がぴょーんと飛び起きてピザに群がってきた。
 私はそれをアスファルトに這う蟻を見る目で蹴散らすと、作業中の篝も呼んでみんなで小さな食卓を囲んだ。

 アツアツのピザを食みながら、散らかされたダイニングを見遣った。
 ――お菓子作り、か。
 何年か前の話。
 私もバレンタインデーのために手作りチョコレートに挑戦したことがあった。
 カカオ豆からチョコレートを精製するのは生半可なことではなかったし、母や姉たちの手伝いを拒んだ結果、かかった手間暇はおよそ膨大なものとなった。
 しかも完成したチョコレートはお世辞にも美味しいとは言えなかったし、そもそもあれがチョコレートだったのかどうかも疑わしい。実際、チョコを試食した姉は幼いころの楽しかった思い出をふたつみっつなくしてしまった。
 だから、篝の苦労はわからないでもない。
 わからないのは――彼女が言うところの“完璧な”チョコレートというやつだ。
 そもそも篝は、誰に渡すつもりでそれを作っているんだろう。
 学校での篝は男子に対してはいつも喧嘩腰で時々臆病だ。最終的に力では勝てないのがその主な理由であると彼女は語る。意味はよくわからない。
 何にせよ、篝が男子に対して根拠のない敵愾心を燃やしている姿は幾度と見たことがあるけれど、憧れや恋心めいた眼差しをどこかの誰かに向けている姿はただの一度も見たことがなかった。

 食事を終えると篝はダイニングへと戻りすぐに作業を再開した。
 しかし、歓喜の声は聞こえないまま、時計はくるくる時を進め。
 現在時刻は日付が変わる一時間ほど前。
 まだ遊び足りない様子の天使と悪魔を寝室で寝かしつけると、ダイニングの床で唸りながら頭を抱える篝のもとに歩み寄った。
「もう、だめだ……。終わりだよぉ、真昼ぅ」
 彼女なりにタイムリミットを決めていたんだろう。
 篝は明日にも世界が終わってしまうような顔をしていた。
「ねえ篝、少し、気晴らしにいこっか」
 私の提案に、篝は沈んだ声でうんと頷いた。

 外に出ると、紫色に発光する蝶がひらひら目の前を横切っていき、雲一つない夜空には無数に煌めく星々とぎざぎざに欠けた月が悠然と浮かんでいて。
 人類の数がかつての半数以下にまで減少した世界の空気は、私が子供の頃よりも寧ろ澄んでいるように感じられた。
 篝はサンダルを履きながら遅れてやってきた。
 なんだか、ずーっと年下の女の子を相手にしているような感覚だ。
 精神的な退行を起こしているのか、よくわからん別人格のようなものが生まれているのか。
 それとも雨宮篝という人間は私が知らなかっただけで、出会った頃からこんなんだったのか。
 ――――。
 時々、篝はとっくのとうに死んじゃっているんじゃないかと思うことがある。
 出会ったばかりの頃――幼稚園児だったころの篝は残酷で残虐で、残忍だった。
 私は彼女と出会っていなかったら、きっとこの年齢になっても蜘蛛がどんな味をするのかなんて知ることはなかったと思う。
 篝に、あの時のことを覚えているか尋ねてみようか。
 少し前のこの子なら、それがどーしたと鼻で笑い飛ばしたと思う。
 今のこの子なら、きっとこの場で土下座を始める。泣きながら、ごめんなさいって言って、ひょっとしたら死のうとするかもしれない。
 それはそれで見てみたい――とも思ったけれど。
 前方から金魚鉢をヘルメットのように頭に被った不気味な女性が歩いてくるのを見て、私の思考はぷっつり途切れた。
 彼女とすれ違うまで呼吸を止めていようと思ったのは、何も彼女が異臭を放つどうしようもない汚物に見えたからだけではない。
 その女は――見るからに飢えていた。
 体は枯れ木のようにやせ細っていて、金魚鉢を被っているのも水を求めたあまりにそうなってしまったのだろうと容易に推測できた。それほど彼女は空腹なのだ。
 或いは――取って食われるかも。
 姿さえ見られていなければその辺に隠れて気配を完全に殺してやり過ごしたのだけれど、もう遅い。
 女は明らかに私たちを見つめていた。
 まるで獲物を狙うかのような鋭い眼光。
 ――逃げなきゃ、と思った。
 私は篝の手を引き、走り出そうとする。
「待って、真昼」
 篝が言った。
「この人、宇宙人だ」
「――はあ?」
 宇宙人。
 そう呼ばれた女は途端にくるくる目を回し、その場にばたんと倒れてしまった。
 金魚鉢は割れない。
 私が金魚鉢と思っていたものは、宇宙服のヘルメットだったからだ。


 肌を焼くような熱風。
 旧市街地の巨大なクレーター。
 空を踊る大型ヴィジョン。
 五年間燃え続ける神社の鳥居を横切り、犬すら吠えない住宅街にたどり着く。
 篝の家は――青い屋根が目印だった。


 夢を見た。
 友達が死ぬ夢だ。
 友達の顔はへのへのもへじで、藁みたいな手足をしていたけれど。
 ばらばらになって、風に流され、虚空に消えた。
 正確には死んではいないのかもしれない。
 仮に心臓があるなら、今もどくどくと脈打っているのかも。
 仮に脳みそがあるのなら、今も頭のなかで数式か何かを必死になって解き続けているのかも。
 だけど、どれだけ呼んでも応えないのなら。
 どれだけ手を伸ばそうと決して届かないのなら。
 それは死んだも同然だ。
 私はそう思う。
 そういう夢を見たのである。


 私は自宅のベッドで飛び起きた。
 何かとんでもない失敗をしてしまったような焦りが胸をどきどきと高鳴らせ、全身が汗でびっしょりと濡れている。
 部屋は暗く、時計を見ると時刻は午前五時だった。
「遅刻――じゃないか」
 ふう、と安堵の息を吐く。
 それからついさっきまで見ていた夢の内容を思い出そうとして。
「……あれ?」
 と。
 改めて時計を見つめ直した。
 時刻は午前五時。
 時計にはデジタルで室内の温度や湿度も測れる機能がついていて、――そこには日付も表示されていた。
 二月十三日。
「――――」
 呆然と時計を見つめながら立ち尽くす。
 記憶違いだろうか。
 昨日も、二月十三日だったような気がする。
 だって、篝がチョコ作りに一生懸命になっていたのは、今日が十四日だったからのはずだ。
 それとも、あれは夢だったのか。
 いやいや、流石に違う。そんなわけない。
 だけど、
「……私、いつ帰ってきたんだっけ」
 その記憶がない。
 あれが夢とは思わないけれど。
 私は二度寝の誘惑を振り切って、篝の家に走った。


 呼び鈴も鳴らさず扉を開けた。
「……篝」
 居間にはいない。
 それどころかチョコ作りで大いに散らかっていたはずのダイニングが綺麗に片付いていた。
「篝ー」
 彼女の私室にもいない。
 綺麗に整えられたベッド。汚れひとつない机。
 小学生の頃の私と篝が――写真立ての中で笑っていた。
「篝!」
 ご両親の寝室にも、彼女の姿は見つからない。
 少なくとも天使と悪魔はそこで眠っているはずだった。
 けれど、誰もいない。
 お風呂にもトイレにも、クローゼットの中にも。
「篝――」
 最後の呼び声は、虚空に融けた。
 篝がいない。
 それは、この家にはいないという意味ではなくて。
 いないのだ、どこにも。
 捜したって、多分無駄。
 消えた人間を追うことは出来ない。
 何故だろう。
 ――本当に、何故だろう、と思う。
 ただ、私は――篝が死んでしまったことを確信していた。
 あれを夢とは思わない。
 ひとりでテレビが点いた。
 ニュース番組が始まる。
 おはようございます、とキャスターが綺麗なお辞儀する。
 本日は二月十三日。
 午前七時です。
 当たり前のように、今日という一日が始まった。

 私は――それから篝の家で一日を過ごした。
 結局、篝は帰ってこなかった。
 ただ、ぼーっと一日が過ぎて。
 今日が終わるというタイミング。
 かちかちと鳴る時計。
 午後十一時五十九分五十九秒。
 けれど日付は変わらない。
 私は再び――自分の部屋のベッドで目を覚ました。
 午前五時。
 日付はやはり二月の十三日だった。


 気が付けば私の友達は、雨宮篝だけになっていた。
 元々、ひとりで過ごす時間を愛していた。
 生まれついて、友情を排するタチだった。
 友達なんて、篝でさえ必要ないと思っていた。
 そもそも篝なんて嫌いだ。
 たくさんたくさん血が流れた。死ななくてもよかった人々が何人死んだと思ってるんだ。
 それでも私は――彼女に迎合した。
 所詮私は、口では正義を語るけど混ぜるな危険をぐちゃぐちゃにかき混ぜるのが好きな――。
 ジャンキーだった。
 篝に私がどう見えていたのかはわからない。
 無理しているように見えたのか、タイマンでなら勝てるくらいにひ弱に思えたのか。最初から私という人間に興味なんてなくて、ただお手頃価格だと思ってから手にとってみただけなのか。
 私には――篝が酷く寂しそうな女の子に見えていた。
 なるほど、私は別に寂しくなんてないけれど、私たちは似ているね。
 そう思ったから、一緒にいることに違和感はなかった。
 何をどうしたって私たちは独りだ。
 一足す一は二にはならない。
 一が悲しく並ぶだけ。
 それならいい――と思ったのだ。
 だけど、そんな不条理な状況下にいても、私と篝との関係を性格に言い表すのに友達という表現を避けて通ることは出来なかった。
 そう。
 私と篝は友達だ。
 友達は――大切にしなければならない。
 だから殺さなかったとも言えるし、だから殺せなかったとも言えるし、だから――殺したくなかったのだとも言える。
 でも、篝は死んだ。
 これまで恨みを買ってきた誰に殺されるでもなく。
 忽然とこの世から姿を消した。
 篝の死は友たる私に少なからず置き土産のようなものを遺していった。
 軽度の心神喪失と、永遠に始まらないバレンタインデーだ。
 私は繰り返される二月十三日を篝のベッドで過ごし、彼女の残り香を求めるように布団の中で身体を丸めていた。
 半永久的時間の反復――それ自体は珍しいことではない。
 私自身これまで何度もそういった事象に巻き込まれてきたし、容易ではなかったにせよその悉くを上手いことやり過ごし、乗り越えてきた。
 だけど今回は――その度にいつも隣にいたはずの――篝の姿がない。
 足手まといだった篝。
 ただの臆病者と底が知れていた篝。
 どうしようもなく弱くて少し追い込まれるとすぐに泣き出してしまう篝。
 人としての器が呆れるほどに小さい篝。
 小心者。卑怯者。馬鹿者。愚か者――。
 あれ。
 ひょっとして私は――。
 雨宮篝に、してやられたのかもしれない。


 私――須藤真昼といえば一般的には完璧人間の代表格として知られているわけだが、その実、少しばかり料理が苦手という可愛らしい一面があったりもする。
 ニンジンを切っていたはずの包丁が何故か天井に突き刺さっていたり、牛乳ではなく飲むヨーグルトを混ぜてしまったり、ピーラーを持つと皮だけでなく実まで全て剥きまくらなければ気が済まなかったり。
 そんな私がカレーを作ればいつも酢豚が出来上がったし、ジャガイモを茹でると無条件でミネストローネが、カップ麺にお湯を注げば魚介が薫るアクアパッツァが完成した。
 私の料理スキルを前にして、母は泣き、妹は笑い、姉は大学生から引きこもりに転じ、篝だけが――無表情だった。
 今回のループは発生条件が明確すぎるくらいに明白だ。
 明日は二月の十四日。
 篝は完璧なチョコレートを作ろうとしていて、――だけど出来なくて。
 明日が来ない。篝がいない。日付が変わると同時に、今日の朝五時に戻される。
 難しくない。終了条件はきっと――。


 そして不本意ながらも包丁を握る。
 雨宮邸のダイニング。買い込んだ材料をテーブルに載せ、まずはレンジから天使をずるりと引きずり出した。
 いきなりゴールに到達しようなんて考えない。まずは身の丈に合った調理に挑戦し、徐々にレベルを上げてから自分が理想と思うチョコ作りへと近付いていくのだ。
 そう思ってコンロを点火。
 すると、フライパンの表面に紫色の光とともに歯車を幾重にも組み合わせたような刻印がぺかーっと浮かび上がり黒翼の少女が顕現。
「……邪魔なんだけど」
 早速、思い通りにいかなかった。
 実際、その後何度もチョコレートを溶かして再度固める、という作業に失敗し続けた。
 溶かす過程で焦がしたり、チョコを刻む過程で誤って指を切り落としたり、と些細な失敗が続いた為だ。
 ある時、コンロが爆発し、私は天使や悪魔ともども粉微塵に吹き飛んでしまった。
「あ、これ、やだ。面倒くさい」
 時間巻き戻し。
 私室のベッドで目覚めた私は開口一番そう呟いた。
 というか、そもそもどうして私が頑張らなければいかんのか。
 大枚叩いて行列が出来る高級チョコレートでも買ってくればそれで充分なんじゃないのか。
 そう思いながらも腰を上げる。
 頭の中で篝が言うからだ。
 違う、そうじゃない、って。

 その後も私は同じような過ちを繰り返し続けた。
 怪我をして、爆発させて、腕を飛ばして、血を流し。赤黒く汚れたチョコが鍋のなかでぐつぐつ煮えるのを、青ざめた顔で眺めながらふらふらーっと意識を飛ばしてまた死んで。
 代わりに悪魔に調理をさせてみたところ、一撃で見事なチョコブラウニーが出来上がったけれど、ループは終わらず。
 きっと私がやらにゃあ駄目なんだろう。
 だから、次だ、次。
 次、次、次、次、次、次。次次次次次次次次――――。
 私はトライアンドエラーを繰り返す。
 チョコを作り、召喚し、時に魔物と戦い、勝ったり負けたり、死んだり、食ったり、天使と喧嘩し、たまに自殺し。
 一度だけつるんと完成した生チョコを天使に食べさせたところ、顔を青白くさせてトイレに駆け込んでいった。
 そして、今度こそもういいやってなった。酒宴を開くことにした。天使を買い出しに行かせたら年齢確認で引っかかった。なので今度は悪魔に行かせたらまた年齢確認で引っかかった。んー、ままならない。
 結局私が買いに行った。引っかからなかった。ままならない。
 酒宴は大いに盛り上がった。またやろうねとはしゃいだところで、はい、リセット。


 学校。
 教室。
 ぷかぷかと宙を漂う緑色のあぶく。
 小さな机と小さな椅子。色取り取りのランドセル。日直の名前が書かれた黒板と、クロマグロの魚群が泳ぐ巨大な水槽。
 これが夢だとわかるのは、篝の姿が小学校低学年の時のそれに戻っていたから。
 なのに私は――私だけが大人の色気むんむんな「ないすばでー」を維持していたから。
 私には、これが夢だとわかっていた。
 机と椅子が、教室の両端にざーっと音を立てて割れた。
 篝は敵愾心剥き出しの様子で私のことを睨んでいる。
 生意気。無遠慮。攻撃的。猪口才。
 そう。
 これが雨宮篝。
 私の知る、私の唯一のお友達。
 私がそろりと手を伸ばすと、篝は「うがー」と唸って噛みついてきた。
 まるで獣。理性の欠片も感じられない。
 だけど、体格の差もあって篝を蹴散らすのは簡単だった。
「言うことを聞けぇ!」
 と拳を振ってきても、
「うっせー馬鹿」
 と張り手を喰らわせてやればいいし、
「生意気なんだよぉ!」
 と蹴りつけてきたら、
「おめぇがな」
 とヘッドロックを極めてやればいい。
 そのうち、篝がぐずぐずと泣き出して、うーうー言いながら額をごちごちと私のお腹にぶつけてきた。
 なんだか哀れだった。
 篝は決して自分よりも力のある人間には食ってかからない。
 だからって篝は、自分よりも強い人間に媚を売るような真似も絶対にしない。
 だけど、それは――。
 彼女の涙をそっとハンカチで拭う。
 胸のなかに抱きしめて背中をぽんぽんと叩いてあげた。
 私は。
 私は――知っている。
 篝が強かったことなんてこれまでに一度もなかった。
 ただ一時期、私が弱っちい篝よりも絶望的に弱っちくあってしまっただけ。
 ストレイシープには、いつも身代わりが必要だった。
 この歩道を歩くだけで血が滲むようなえげつねー世界で生きていくためのスケープゴート。
 それがこの私。須藤真昼だったってだけのこと。
 私は確かに弱かったけど、そんな現実に耐えうるだけの力は持っていた。
 だから、私たちは憎み合いながらも仲良くなれた。
 篝。
「……かがり」
 ねえ、篝。
「かがーりー」
 ぽんぽん、と背中を叩く。
 髪をくしゃくしゃに撫でつける。
 篝がすんすんと鼻を鳴らしながら、微睡みに落ちていく気配を感じる。
「……おやすみ、篝」
 眠りとは、重力に逆らわないことだ。
 だから、人は身体を横たえるための場所を欲する。
 けれど、ここは教室。
 ここにはベッドがないので。
「仕方がない」
 私の膝を枕代わりに使わせてやることにした。
 こてんと眠る穏やかな横顔。風に揺れるつややかな髪。
 頬に残る一生消えない一閃の傷。
「……ねえ、篝」
 囁く。
 風と同化する声。
「あなたが死んでも、あんまり面白くなかったよ」
 せめて笑わせてみろってのに。
 それが――お前の償いだろうに。
 じきに夢は覚める。
 時間が進む。
 針は動く。
 言ったり来たりの珍道中。
 然れどやがては過去は過去に、未来は現在になって正常な時間の流れを取り戻すだろう。
 そうすれば記憶は更新される。常にアップデートされていく私の意識のなかで、過ぎ去るものは歴史の一ページでしかなくなっていく。
 もしも。
 暗いトンネルを抜けた先に篝がいなかったら。
 失われたまま、どするうことも出来ずに更に時が流れたら。
 いつか時間が記憶を風化させる。
 どうせ碌な思い出なんてないんだから。
 別に大好きな大親友ってわけでもなく。
 寧ろ苦手で、好きなところより嫌いなところの方が多く浮かぶ――他人に近い存在でしかないわけで――。
 教室が壁から徐々に崩れていく。
 視界が白い光に包まれていく。
「――はは」
 漏れる笑み。
「不思議だね、篝」
 声を痛みは孕んでいる。
「あなたが死んだら、この世界にもう――用事とか、ないや」
 何故だろう。
 喉が灼けるようだった。
 悲しくない。辛くもない。
 だけど心は晴れなくて。
 私は、これは夢だと私自身に言い聞かせていた。
sage