「Dog Days」MAN WITH A MISSION

動画はこちら
https://youtu.be/2wEs4jsv9gc


 犬はバンドを組みたい。
 鬼退治以後の三年間、犬は音楽漬けの日々を過ごした。桃太郎は賭博と風俗にどっぷり浸かり、猿は本の海で溺れ、キジは漫画オタクになって火の鳥になりたがっている。
 俺達は英雄なんかじゃない、と桃太郎はぶつくさ言う。退治というよりは虐殺であった。小さな鬼も殺した。年老いた鬼も殺した。命乞いしてくる鬼も、ただ泣きながら抵抗もしない鬼も殺した。悪いことをした鬼もいた。だから依頼を受けたのだ。しかしそんな奴等はごく一部だったのに、桃太郎一行は大義名分とドーピング(きびだんご)に背中を押されて、鬼達を根絶やしにした。

 寝ても覚めても自らの行いにより作り出された阿鼻叫喚の風景は記憶から消えてくれない。桃太郎一行はそれぞれの現実逃避の道を極めていった。

 犬が初めてMAN WITH A MISSIONの動画を観た時、興奮して猿に叫んだ。
「犬がバンドをやってる!」
「あれは狼だよ。ちなみに中に人間が入ってる」冷静に猿は解説した。
「狼だってイヌ科だろ」
「そうだな」
「人間がわざわざ狼の被り物をして演奏する理由がどこにある? こいつらは本物の狼だよ」
「もうそれでいいよ」
「俺達もバンドやろうぜ!」
「断る」
 でも猿はその話からしばらく、町田康の小説を読んでいた。猿なりのバンドやろうぜへの返答だったのかもしれない。

 おばあさんに連れられて犬は毎朝毎夕散歩に出る。散歩コースに河川敷が含まれているのは、桃が流れてこないかのチェックも兼ねている。けれど桃太郎が入っていた桃以外に流れてきた事はない。
 河川敷のベンチでアコースティックギターを演奏する二人組の側でおばあさんと犬は立ち止まった。バンド演奏でないから最初気付かなかったが、それはMAN WITH A MISSIONの「EMOTION」であった。犬は曲に合わせてワンワンと鳴いた。
 演奏が終わると弾き語りの二人組はおばあさんに話しかけてきた。
「狼が好きなワンちゃんなんですね」
「私もこの曲好きですよ。劇場番変態仮面の主題歌にもなってたよね」
「よく知ってますね!」
「主人公が、うちの主人の昔の頃に似ていて」
「パンツ被ってたんですか?」
「たまに、ね」
 それからしばらく犬と二人組でMAN WITH A MISSIONメドレーを演奏する。犬の仕草が可愛くて、通りがかりの人達が足を止め、小銭をギターケースに投げ入れてくれた。
「またやりましょうね」二人組は別れ際にそう言ったが、彼らと犬は二度と会うことはなかった。自分達の実力以外のところで聴衆に認められたのが気に入らなかったのだろう、と猿は訳知り顔で犬に説明した。

 それ以来犬は、あの時演奏出来なかった「Dog Days」の練習をしている。おじいさんが犬のサイズに合わせて自作してくれたギターで。鬼虐殺から三年目の、真夏日が続く日々(ドッグ・テイズ)の最中に。

(了)