「twist」KORN

動画はこちら
https://youtu.be/sWKR7uLa77A

 爽やかな朝も雨降りの憂鬱な日も、留亜の目覚めは部屋に爆音で鳴り響く49秒の咆哮から始まった。KORNの「twist」という曲である。歌詞カードには記されない、唸り、叫び、それとも祈り? 留亜は心臓を拳で殴り潰されるような痛みと快楽に包まれながら起き上がる。枕の横ではハムスターサイズのダイムバック・ダレルが嬉しそうにはしゃいでいる。留亜の肘が当たり、ダレルが笑いながらころころと転がっていく。何が可笑しいのだろうと思いつつ留亜が「ごめんよ、ダレル」と謝ると、ダレルはまた喜んでぴょんぴょんと跳ねた。

 ダイムバック・ダレルはPantera及びDAMAGEPLANというオルタナティブ・メタルバンドのギタリストで、赤く染めた顎髭がトレードマーク。2004年のライブ中に凶徒によって射殺された。詳しくはウィキペディアでよろしく。留亜はダレルの事を知っていた訳ではない。目覚まし音楽にKORNの「twist」を流した日にダレルは現れた。やはりミニチュアサイズの黒いTシャツにカタカナで「ダレル」と書いてあったから、ネットで調べて、同じ顔、同じ髭のダレルと判明した。しかし本人達のものであるPanteraの曲を流しても、「ああ、それはもう、いいんだ」という風に真面目腐った顔をして首を振る。撃ち殺された時の事を思い出すのだろうか、と不憫に思ったりもするが、指で弾いて転がしてやると、小汚ないおっさんの風貌のくせして可愛く笑う。留亜もつられて笑うのだ。流れ続ける「twist」に合わせて二人でヘッドバンギングをするのだ。

 こういう事例はよくあるのかと、留亜は調べてみた。一番近いと思ったのは「カート・コバーンがやってきたハローハローハローハウロウ?」というブログだったが、読み進める内に怖くなって読むのを止めた。

 留亜はダレルの為に、中学校で持ち込みを禁止されているスマホを鞄に忍ばせている。定期的に「twist」を聴かせてやらないとダレルは元気がなくなるのだ。それと、眠くなってきたダレルはこの曲を聴かないと寝ないのだ。おかしな生き物だ、いやもう死んでいるんだった、と留亜は思い直す。寝ているダレルの髪を撫でていると、銃弾を撃ち込まれた痕が見えて、思わずくしゃくしゃと隠した。そのせいで目を覚ましたダレルは不機嫌そうに唸った後でまた力が抜けていき、眠った。寝ぼけながらありもしないギターを弾いていた。言葉は話さないが、時折「あー」とか「るー」とか、赤ん坊のような喃語を発する。うまく繋げれば自分の名前になるな、と留亜は思う。しかし赤い髭を生やした赤ん坊は嫌だな、とも思う。

 ある日留亜はいつもより三時間早く目覚ましをかけ、早朝誰もいない公園にダレルを連れていった。いかにも不健康そうな見た目のダレルは、公園自体に慣れていないようで最初はおどおどしていたが、すぐに砂場に置き忘れられていた砂遊びの道具と戯れ始めた。ダレルが一人で楽しんでるのを見て安心した留亜は、ついベンチでうとうとしてしまった。それがいけなかった。何かが争うような物音で目が覚めた留亜は、黒い猫がダレルに襲いかかるのを目にした。ダレルの頭部をくわえて、振り回していた。
「ダレル!」
 留亜の声を聞いて黒猫は逃げ出したが、ダレルはぐったりとしていた。ハムスターサイズのダイムバック・ダレルの亡霊? の怪我の手当てなどどうすればいいか留亜は分からなかった。とりあえず人工呼吸をしようと唇を重ねると、ダレルは噎せた。家に帰り、血を拭いたりミルクを与えたり体をこすったり「ダレル、ダレル」と呼び掛けたりした。あまり効果はなく、思い出して「twist」をかけると、ようやくダレルの顔は安らかになり、それから次第に体が薄くなり、消えてしまった。ギターの小物ストラップでも、買ってあげれば良かった、と留亜は涙を流した。

 ダレルがいなくなっても朝は来る。目覚まし音楽として「twist」は爆音で鳴り響く。今日は体育がある。英語の授業で多分先生にあてられるサイクルだ。お腹が痛い。まるで何かがお腹の上で飛び跳ねているみたいに。
 留亜が目を開けると、すっかり元気になったダレルと、ハムスターサイズのフィリップ・アンセルモ(Panteraのボーカル)が、留亜のお腹の上でジャンプしていた。「アンセルモまだ生きてるやん!」つい関西弁で突っこみながら留亜が起き上がると二人ともころころと転げ落ちた。嬉しそうな顔をして。

(了)