「the sound of secret minds」Hi-STANDARD

動画はこちら
https://youtu.be/7IcFhKHtyoE
歌詞/和訳はこちら
http://ellegarden123.blog109.fc2.com/blog-entry-51.html


 私は泥辺五郎の息子である。名前は健三郎という。一歳と十ヶ月になる。この度は父の代筆をいたす。夜中に目が覚めたのである。父がスマホで小説を書きかけたまま寝ていたのである。時々やるのである。この間も母に「まだ起きてたの?」と注意され、「今オジー・オズボーンが法廷で弁護人として出てくる話を書いてたから」「何訳の分からない事言ってるの」というやりとりがあった。

 今回の音楽小説はHi-STANDARD「the sound of secret minds」である。この曲に決めてから父は、私を自転車に乗せて買い物や公園へ行く際にリピート再生で流していたので、私でも分かるのである。「ハイスタは今のところSpotifyで聴けないのがちょっと面倒なんだ」「語り手は誰にしようか。健ちゃんで行こうか」などとぶつぶつ言っていた。
 だから今回私の気の赴くままに書かせてもらう。私の心の底で響く音の事を。

 私は姉が大好きである。姉が小学校に行く際に私はまだ寝ている時もあるが、昨日は姉が登校の準備をしている最中に起きた。父に靴下を履かせ、オムツを変えさせて私も姉に同行した。父も付いて来させた。
 集団登校の集合場所に着くと、先に来ていた子らが何やらざわめいていた。「カマキリがおる!」と一人が言った。彼の指差す方向に鎌首をもたげた黄緑色の格好いい昆虫がいた。あっという間に五、六人の子供達に囲まれたカマキリは怯える様子もなく私達を睨み付けていた。触ろうとする私を父が必死に押し留めていた。「あんたは団子虫を指でつついてそのまますり潰した前科があるんだから」と言っていた。そんな昔の事をいつまで言っているのだ、あの頃の私ではない。三ヶ月も歳を重ねている。
「ハリガネムシが入ってそうだな」と父が言った。ハリガネムシという虫に寄生されたカマキリは、水辺に飛び込むように誘導される。溺れ死んだ宿主から飛び出して自身は繁殖にいそしみ、宿主は水生生物の餌となる。ハリガネムシは寄生対象だけでなく、生態系までをも操っているのである。
 というような事を家に帰ってからネットで調べた。

 集団登校では班長と呼ばれる六年生が先頭に立ち出発するのだが、うちの班長はいつも遅い。出発時刻に一年生が全員揃っていればもう学校へ向かって構わないので、今日は私が先頭に立って歩き出した。皆が私に付いてくる。「健ちゃん班長や!」と姉が後押ししてくれる。
 しかし私の心の底から聞こえる声により、私は班長業務を途中で放棄してしまう。だって途中に小さな公園があるのだ。そこには滑り台があるのだ。私はそこで遊びたいのだ。
「健ちゃん、今は遊ぶ時間じゃないよ」と父は言うが聞く気はない。皆は私を置いて進み出している。遅れてきた本物の班長が走って追い付いてくる。私は滑り台への歩みを一歩踏み出した。
 しかし父の長い二本の腕が私を抱え上げる。無理矢理姉の所まで運ばれ、信号待ちをする。
 そこでもう私は道路を行き交う車に夢中になるのだ。トラックを見て「トアック」と言うのだ。何か父の手のひらの上で転がされているようで悔しい。

 姉を学校へ見送った後、家の前にある大きな公園を散歩する。まだふてくされている私に父が「猫さん探そうよ」と声をかける。私は「ナオーン」と鳴き真似をして駆け出してしまう。そして私では手の届かない高みの繁みにいる猫を見つける。
「健ちゃん、猫さんにおはよう、って言ってごらん」
「ナオーン、あばるびるべるぶ、もー、べいべ、べいべ、ナオーン、もー、あ、あ」
 私が一歩進むと足元で小枝が折れた。元より警戒度百パーセントだった猫は逃げてしまった。父がそれを見て笑っている。もうこいつの言うことなど聞くものか。
「あ、今度は鳩がいるよ」
「ハト、ハトゥー」私は駆け出している。心の底の音が私に駆けろと告げるのだ。もちろん鳩は飛んで逃げる。もう許せぬ。父を殴ろう。
「大きな滑り台に行こうか」
 私は返事より先に駆け出していた。

(了)


 ※誤字の修正とアップロードは父の私泥辺五郎が行いました。