「Lonely Boy」The Black Keys

動画はこちら
https://youtu.be/a_426RiwST8

 おっさんが踊っている。
 黒人のおっさんが、ノリノリで踊っている。
 曲に合わせて、「初めて聴くけどいい曲だね、踊るよ、踊っちゃうよ、俺」みたいな顔をして、おっさんがひたすら踊っている。
 どこかで違う展開になるんだろう、と織田作実は思っていた。ステージで演奏するバンドの映像に切り替わって、おっさんが歌ってるわけじゃないんだよ、って安心させてくれるのだと。だが結局、最後まで黒人のおっさんは一人で躍り続けた。ノリノリで。

 動画に寄せられているコメントを読めば、作実の拙い英語力でも、黒人のおっさんはミュージシャン兼警備員で、とても安上がりに作られたMVだと分かる。再生回数一億回を越えているこの曲について更に調べれば、2013年グラミー賞ロック部門獲得曲という事も分かった。

「最近学校どう?」
「あまり楽しめてない」
 高校進学と共に、少し距離が離れてしまった親友の坂口安子とのLINEのやり取りの中で、「これ聴くと元気になるよ」と送られてきたアドレスの動画が、The Black Keysの「Lonely Boy」という曲だった。歌っているのはやはり黒人のおっさん一人ではなくて、アメリカの二人組ロックバンドで、彼らも作実と安子と同じく幼馴染だそうだ。
 小さい頃からずっと一緒だったから、同じ高校に行くとなんとなく思っていた。けれど中学三年になってから劇的に成績を上げて行った安子は、作実には手の届かない、地域内トップクラスの高校に現在通っている。洋楽が好きな安子には翻訳家になりたい(あるいは洋楽ミュージシャンにインタビューするような人達になりたい)という具体的な夢があり、学力向上のはっきりとした原動力になっていた。作実だって洋楽は好きだけれど、それだけでは英語の成績は上がらなかった。
 安子ならこの動画に寄せられているコメントを気軽に読みこなすだけでなく、自分でも書き込めるのだろう、と作実は思う。別に日本語でコメントも書けるのだが。

 このおっさん、ノリノリだね。曲もすごく気に入ったよ、ありがとう。的な事を安子に送る。同じ学校に通っていなくても、スマホで気楽に繋がれる。でもやはり寂しく思う。同じやり取りを、二人での下校時に、その他のくだらないおしゃべりと共にしたいと作実は強く思う。将来作実に子供が出来たとして、その頃にはもうこんな感傷は古臭い物にされているかもしれない。「今時実際に顔を合わして話す事なんてしないんだよ」なんてまだ見ぬ息子に諭されるかもしれない。
 
 毎日一緒に行き帰りはしないだけで、時々二人は会うのだ。別れた恋人達ではないのだから、気軽に触れ合えるのだ。どちらかに彼氏が出来たり、今の学校の友達との付き合いが優先されるようになるまでは、割と頻繁に。次に会うときにはきっと、黒人のおっさんのダンスを安子はマスターして作実に見せてくれるだろう。安子ほどではないにしろ、作実も踊るだろう。
 でも、「ねえ見てこれ」「受ける」「これ踊ろ」「いいね」みたいなやり取りを顔つき合わせて十秒でしたい、と作実は思うのだ。きっとスマホ越しより楽しいと思う。

 といった作実の感傷など気にせず、リピート再生される「Lonely Boy」の中で、ミュージシャン兼警備員の黒人のおっさんはノリノリで躍り続けている。作実も真似て踊り始めると、安子からLINEが入り、自画撮りしたノリノリの動画が送られてきた。やっぱり既におっさんダンスをマスターしている。
 安子、私も踊っているよ、今。と送る。一緒に踊りたいよ、今。安子の横で。とは送らない。

(了)