「Lightning」ストレイテナー

動画はこちら
https://youtu.be/SqoxjS7AfFE


 異形の者達が倒れている。あちらこちらで。まだ動く者もいて。もう動かない者もいて。
 晴れすぎた空から照りつける陽射しが地表に降り注ぎ、肌は黒く焼け焦げ、そのまま燃え尽きてしまう生き物が出た。燃えカスは虫達に寄って運ばれていく。生きている者の姿が消えてゆく。

 遠くの空では黒すぎる雲が居座っている。風がないので雲は動かないままでいる。晴れ間と雲の境目にはやたらと鳥達が飛んでいる。集まり過ぎてぶつかり墜落していく鳥もいる。晴れ間の側に墜ちた鳥はやがて焼け焦げる。虫達が運ぶ。その上にまた鳥が墜ち、潰れた虫をまた別の虫が運ぶ。

 男がいる。人と鳥と虫との混血の男が歩く。重くて飛べないから羽根は陽射し避けに使う。言葉はうまく話せないから、ああ、とか、おお、と呟く。虫の意識で地面を舐める。誰かの焦げ跡や土や砂を舐める。他の虫達の後を追っても巣までは入れない。あぁ、とため息をつく。

 遠くの空で稲妻が踊っている。晴れた空の下で羽根と羽根の隙間から男は稲妻を眺める。幾万と見てきたはずなのに毎回初めて見るように、男は、おお、と驚く。次に空腹を思い出し、うぅ、と呻く。

 文明の残骸を踏み砕きながら男は歩き始める。黒雲の下を目指し進む。堕ちてくる鳥のカーテンの向こう側へと、飛べないから歩く。空き缶がへこむ。古いテレビの画面が割れる。脚から流れ出た血はすぐに乾く。いずれ倒れるであろう男を狙い、虫達が付いてくる。それらを男は舐め回して、食らい、一時的に腹を満たす。

 かつて誰かが愛用していた、半永久電池式の音楽プレイヤーに男の足が当たる。奇跡的に壊れず生き延びてきたそれは、ストレイテナーの「Lightning」を再生する。男に取っては生まれて初めて聴く音楽というもの、生まれて初めて触れる人の言葉、歌声であった。男はその場から動く事が出来なくなり、延々とリピート再生されるその曲を聴き続ける。周辺からその音を聞き付けて異形の兄弟達が集まってくる。人の姿から遠ざかっている者も多い。虫寄りの者、土寄りの者、死体寄りの者もいる。

 半永久電池は有名な欠陥品だったから、突如プツンと音楽は途切れた。それと共に異形の者達はその場から散っていく。あるいはそこに留まっている間に焼け焦げて既に死んでいる。または腹を減らした他の異形者に食い荒らされている。

 人と鳥と虫の混血の男は音楽プレイヤーを振ったり叩いたり噛んだりして音楽の再生を試みるが、結果的に本格的に壊してしまう。あぁあ、と絶望の声をあげた時、男は別の再生手段を思い付く。始めは小さな声で。繰り返す内に段々と大きな声で。男は自らの声で「Lightning」の再生を試みる。それが歌声というのだと、男は知らない。繰り返し繰り返し歌ううちに男の歌は上達していく。自らの歌声に励まされるようにして、男は雲の下への歩みを再開する。立ち止まっている間に太陽から男を守り続けた彼の羽根はもう真っ黒焦げで、長くはもちそうにない。

(了)

sage