Glory days(途中)


「――はい。それじゃ、位置について。……スタート!」

 パァン。

 ピストルの空砲じゃない、体育教師の、拍手の音が、離れた場所にも微かに聞こえた。


 10月。

 乾いた秋空。中学の運動場の下で、一列になって準備をしていた女子。学校指定の赤ジャージを着た6名が、いっせいに走りだす。

「……――――!」

 そのうちの一人が、独走していた。追い風をうけた一矢のように突き進んだ。ハンドメイドの、桜の花びらを模したシュシュを着けた黒髪が、人なつこい大型犬の尻尾のように揺れる。

「はっや」
「速いなー」

 種目は50メートル走だろう。4限目。昼前の体育の授業で、女子はきゃあきゃあ言いながら、運動場をかけていた。
 順番がきた西木野さんがぶっちぎりでゴールインすると「そらカッコイイ―」「半端ないってぇ」「イケメーン」とか囃し立てられていた。

「意外よなー。西木野ってさぁ、見た目おとなしい感じだけど、運動神経よすぎだろ」

 運動場の反対側。野球部のネットが用意されたところで、軟式のソフトボールを使って、クラス対抗の試合をやっていた。

 得点は1対1の同点だ。相手クラスの2回表を守りきって、時間的には、最後の攻めだ。バッターボックスに立つ男子以外は地べたに座って、雑談にふけっている。

「体育の授業に、わざわざ本気だす系の女子って滅多にいないけど、彼女はそういうとこで、手を抜かないんだね」
「おっ、なに? ハラヤン、気になってんの?」
「まさか。この世の女子はすべからく、二次元という世界の構造に劣ってしまうというのに」
「ハラヤンはアレだな。残念なイケメンってやつだよな」
「僕はこの世の真理を口にしてるだけだよ。なぁ、同士前川よ?」
「あー、まぁ、どうかなー」

 残念なイケメンから、笑顔を向けられる。俺はまだ打席に立ってなかったということで、次の打者に回ることになった。久々に握ったバットを軽く素振りしながら言い返す。

「二次には二次の、三次には三次の、それぞれ良いところがあるんじゃね?」
「ジーザスッ!!」

 原田が「なんてことだ。ああ神よ」とばかりに、両手を広げた。この広い青空をあおぎ見た。
 
「まさか同士に裏切られるなんて…っ!」
「滝岡ー。素振りって、こんな感じであってたっけ?」
「もうちょい脇締めて、コンパクトに」
「オッケー」
「無視か二人とも。その阿吽の呼吸、さては僕らの担任、詩子先生の言う通り、実はそういう関係だったと…」
「「ちげーよ」」

 声が綺麗にハモった。

「祐一は、おっぱい教の信者だかんな。二次だろうが、三次だろうが、おっぱいが大きければ、それでいいんだよ」
「おいやめろ。正しい事を言ってんじゃねぇよ」

 万が一、向こうの女子に聞かれたらどうするんだよ。正しい噂が広まっちまったら、滝岡、おまえ、責任取れんのか?

「なるほど。つまり前川は、女子の顔や性格ではなく、おっぱいで判断してるというわけだ」
「そういうことだな」
「待ておまえら。その言い方はさすがに語弊があるだろ」
「では、1におっぱいのサイズ。2に性格。3に顔。あるいは2と3がイコールであれば、恋愛対象に結びつくというわけだ?」
「やめろ。原田。そういう誘導尋問はよせよ。うっかり『その通りかもしれないな』って言いかけただろ」
「実際その通りなんじゃね? 祐一の中では」
「クズだね」
「原田サン。俺が二次元信者じゃないって分かった途端、評価が辛辣すぎませんかね?」

 まぁ言ってしまえば、だらだらと。気安く話し合っていると「ストライク、アウトー!」という、キャッチャー兼審判。俺たち男子を担任する体育教師が宣言した。

「ほれ、次のやつ誰だー?」
「俺です。いきます」
「がんばれよ、祐一」
「おう」
「相手、変化球あるよ」
「了解」

 俺はもう一度素振りをしてから、バッターボックスに立つ。

 野球の経験はそこそこある。中学に入る前は、滝岡と一緒に少年野球のチームに入っていた。相手のピッチャーは、隣のクラスの男子で、確かサッカーの奴だったと思う。

 こっちの滝岡もそうだが、さすがに野球部が投手をやるのは不公平だろうということで、代わりに両クラスとも『野球部以外の運動できる系男子』が、マウントに立っていた。

 ちなみにうちのクラスは、二次元信者の原田が担当した。

「よし。ツーアウトだから、前川で最後な。ランナー3塁。ヒット打てたら、1組の勝ちだぞー」
「センセー。いま同点だけど、アウト取ったら、2組の勝ちでいいっすよね」

 相手クラスの投手が、そんなことを言いだす。

「いいぞー。おもしろいから採用だ」
「やりぃ」

 ノリと勢いで、さくっと決まってしまう。負けたところで、なにがどうなるってわけでもないんだが、

(ナメられるだけってのも、つまんねーからなぁ)

 集中する。相手の俺に対する評価は『そんなに運動できない奴』といった感じだろう。ぶっちゃけ、間違ってはいない。中学に入ってからは、だいたいまっすぐ家に帰り、家の手伝いをしていた。

 両手についた豆は、季節が変わればあっさり消えた。皮がむけ、硬くなっていた手のひらも、やわらかくなった。

 無理な汗をかくことも、不用意な怪我を犯すリスクも無くなった。瞬発力、力を爆発させるための筋肉も萎えたはずだ。その代わり、

「ボール!」

 『集中力』だけは、あの時から変わらない。むしろ、散髪屋で、お客さんの頭を洗いながら、不快にさせないよう注意を払い、会話で、楽しい時間を過ごしてもらうよう気を配るのが当たり前になると、その範囲が広がった。

「ストライク!」

「……」

 息をこぼす。父親が働く姿を目の当たりにしている内に『集中の切り替え』も、きちんと意識的に行えるようになった。

「えー、先生さぁ、今のはボールっしょー」
「いやぁ、ストライクだったぞ」
「横暴だー」

 外野から滝岡の野次がとぶ。内心で「だよな」と思いながら、また集中する。

(仕方ない。自分の思った通りになんていかないさ)

 現実も、ゲームも一緒だ。ただし、ある程度はコントロールできることも学んでいた。

 次のボール球は、あえて空振りしてみせる。

「ストライク! ツー! あと1球で2組の勝利だぞー」
「ちょっと審判ー、ひいき入ってますよー」
 
 今度は原田だ。さっきまで雑談をしていた男子全員が「今はこっちの方がおもしろいぞ」と言わんばかりに、好き勝手に野次をとばしはじめた。全員が、次の1球に注目している。

「てっちん、ラス1球ー!」
「前川ー! とりあえず振ってけー!」

 意識を集中する。さぁ、まっすぐストレートで勝負しにくるか、それとも変化球で来るか。

 ツーストライク、ワンボール。

 相手は変化球も投げられるから、普通なら様子見で一球、変化球でアウトコースに投げるのが『安定志向』だろう。けど、

(どまん中、ストレートだな)

 1回目の配球や、表情の仕草を見ていて確信した。

 『ストレートで決めるのがカッコイイ』か、
 『変化球で決めるのがカッコイイ』か。

 どっちが『相手ピッチャーにとって、気持ちよくなれるか』という情報を整理した結果――。

(ストレート。どまんなか。変化球はどっちにしろ、打てねぇし)

 なら、迷うことはない。

 あとは、集中の範囲を、ぎゅっと狭める。自分の手元しか見えなくする。生きるのに精一杯だった、あの頃のように。

「――――」

 相手が振りかぶる。ワンテンポ、目前の光景が、スローモーションのように映る。ミートのどまん中を狙い撃つイメージを整える。

(脇しめて、コンパクトに)

「ふッ!」

 フルスイング。

* * *

 キィンって、澄みわたった音が聞こえた。振り返ると青空のなかを、白球がとんでいた。

「おぉっ、ホームランがとびでたー」
「打ったの誰?」

 50メートル走を終えた女子が、体育館前の段差に座って、男子の野球を見ていた。

「前川くんじゃない?」
「うそー、あんまりスポーツできるイメージなかったなぁ」

 青い学校指定のジャージを着た前川くんが、ウイニングランといった感じで、ゆっくりと、一塁ベースで立ち止まった。3塁の男子が一周してきたみたいだから、たぶんその1点で、わたし達のクラスが勝ったんだろう。

「前川って、あんまり目立つ方じゃないのにね」
「けど前川って確か、小学校の時は、滝岡なんかと一緒に、野球部のチーム入ってた記憶あるー」
「そうなん? 野球やめちゃったの? 他の運動系の部にも入ってないよね?」
「家の事情じゃない? なんか店やってるらしいし」

 女子による『物件査定』が始まる。この短時間で、急激に値上がりした『前川株』の評判を耳にして、わたしの心臓も、ふわふわと揺れていた。

(せやろ、せやろ。彼は、良いんだよ~)

 わたしの『推し』が、他の人にも評価される喜び。
 
 できれば、今すぐその輪に加わって、もう一人の彼の活動や、信者と呼ばれる熱心な人たちの存在、ご近所のおじいちゃん達からも好かれて、信頼されているといった事実を、まるで自分のことのように、得意げに、ドヤ顔で、言いふらしたい。

 しかしそれは許されないのである。個人の立場的にも。クラスの女子という関係のなかでも、企業と契約してる存在的にも。

 あらゆる意味で「前川くんはすごいんですよ。わたし、推してます!」といった発言は、残念ながら憚られるのが世の常なのだ。

 そこには『わたしだけが知ってる彼の秘密』という優越感よりも『自分の気持ちを正直に伝えられない』という息苦しさ、閉塞感にも似た想いが存在する。

 わたし達は、現実でも、ネットでも、自由には生きられない。
 この【世界】が、少しでも変わってくれればいいと、そんな風に願わずにはいられない。

(わたしは、あーちゃんほど、リアルに絶望はしてないけど、でもやっぱり、もうちょっと自由に生きたいなーって気持ちは、痛いほどわかるんだよねー)

 気づけば、胸の心臓がドキドキしていた。両手の拳を握って「くぅ~っ」て感じで、つい、ぷるぷるする。無意識に限界オタクムーブをやってしまっていると、

「そら、どしたの? どっか痛いの?」

 クラスの友達から声を掛けられて、ハッと我に返る。

「え、えへへ。いやぁ、ちょっとねぇ、人生について悩んでたー」
「…えぇ…なんで今……?」
「んー、なんかねぇ、そういう気分だったー。のかも」
「変な子だよ。おまいさんは~」
「あははは。変な子ですみませぬ~」

 冗談を言って流してくれる友達のやさしさが、あたたかった。

「全員、走り終わったわねー。集合~!」

 ちょうど、先生からも集合がかかる。石畳みの階段から立ち上がる。男子の方でも号令があって、整列に向かっていく様子が見えた。その時ふと、

「――――」

 前川くんと、目があった。なんとなく、自然に、

(うん。見てたよ)

 頬の隣に、右手で、ピースサインを作った。

(俺も)

 彼が、左手で、同じことをした。

* * *

 中学校の昼休みは、生徒のリクエストか、放送委員の権限によって、けっこう自由な曲が流される。今日は10年前に発売されたゲームの曲が流れていた。

//chapter image bgm Wir fliegen

 据え置き機、と呼ばれるゲーム専用のハードとは打って代わり、2023年に発表された、スマートフォン携帯専用のゲームが、現代の俺たちにとっての最先端だった。

 LoA《レジェンド・オブ・アリーナ》

 mobaと呼ばれるゲームジャンル。ひかくてき最近になって広まった『eスポーツ』と呼ばれる世界において、野球やサッカーのように、一種の花形として定着したそれは、当時の日本ではあまり流行らなかった。

 ただ、令和4年に発表されたこのゲームは、日本人、俺たち学生の間でも大流行した。

 最たる要因は、キャラクターのビジュアルが、日本人が好む、マンガやアニメテイストのイラストを『選べる』といった理由が存在することだ。

 mobaといえば、発売した国がアメリカの企業がほとんどだ。そうなるともちろん、全体的にダークで、男キャラはいかにもアメコミチック、女キャラも劇画テイストな美女というのが定番だ。

 従来のmobaは、その『キャラクターのガワ』いわゆるスキンを切り替えて、東洋人も好むような、イケメンだったり、萌えキャラだったりも存在したが、基本は有料で、リリース後に、少しずつ、アップデートで追加されていく形式が普通だった。

 LoAの『上手かった』ところは、このスキンを、最初にリリースした時点で、全キャラクターに無料で用意してあったことだ。

 日本人の大半が好きそうな、ポップで、キュートなアニメテイストと、アメリカ人が好みそうな、劇画タッチのリアリティを追求した美形を、最初から切り替えることができたのだ。

 さらにそれは、自分が操作する、メインキャラクターに留まらなかった。ゲーム対戦中に現れるミニオンや、経験値をもった、ドラゴンやオーガといったモンスターまでを変更ができた。

 たとえば『日本人がイメージするスライム』と『外国人がイメージするスライム』の切り替えまで、無料でできてしまうわけだ。

 肝心のパラメータにはまったく影響を及ぼさないが、そうしたカスタマイズの豊富さが、まず話題になった。

 そして次に、対戦時間の短さ。一試合は順調にいくと、早くて6分。平均で10分。長引いても15分。それまでのmobaに比べると、とてもスピーディーだった。

 さらに、スマートフォン携帯のスペック向上。無線LANの通信速度といったものも大きかった。年が経つごとに速度があがり、出先だろうが、ほとんど遅延なしで、対戦可能になる。

 最後に、日本でも、eスポーツと呼ばれるものが、徐々にではあるけれど、少しずつ、好意的に受け止める人々が増えてきていた。

 そういう、諸々の事情が上手くマッチングした。今では俺たち学生の間で『一戦いこうぜ』といえば『LoA』のことだよな。というのが通説になっている。つまりはそれぐらい、大流行しているわけだった。

* * *

「今回の『フェス』さぁ、チーム固定の『連盟戦』ってのが、開始されんじゃん? 俺らも3人でチーム登録して、参加しようぜ」

 昼休み、いつものように3人で飯を食ってたら、滝岡が言った。

「いいけどさ。あっちのモードって、かなりレベル高くなるって噂だよ。ツイッターだと、プロが普通にメンバー募集してるし。わけわかんない内に、ボコボコにされるかも」
「実際のフィジカルなスポーツと違って、プロが参加するのは禁止とかないからなー。気楽に、楽しくゲームを遊びたいなら、通常の野良戦いくのが賢いと思う」
「あー、それなー。まぁ、その辺りは俺もわかってっけどさー。せっかくなら、3人でやれる方がいいじゃん? 通常の『フェス』だと、固定のチーム組めねーし」
「まぁ確かに。仮に全敗しても、もらえるアイテムには変わりないっぽいしね。称号は自己満得られるだけだし、っていうわけで、僕はいいよ。前川は?」

 二人がそろって、俺の方を見る。あらかじめ準備してた返事をする。

「悪い。実は昨日。通常のフェスの方、選択したんだわ」
「なんだよー、マジかよー」

 嘘じゃない。こっちのアカウントは、通常の『フェス』に参戦済みだった。

「はぁー、じゃあ今回も野良で入って、なんとか【ROOK】目指すとすっかなぁ」
「確か、レートの上位15%が【ROOK】の称号もらえるんだっけ?」
「そうそう。んで3%以内が【QUEEN】で、0.1%以内が【KING】だったかな? 【KING】は確か、それに上位100人とかの制限あった気ぃすっけど。まぁ俺には関係ねぇ」

 滝岡が弁当を食べながら言う。

 LoAで、四カ月に一度のペース。年に3回の開催が公式から発表されている、特殊なゲームモード『アリーナ・フェスティバル』は、今回で6回目の開催になる。

 それは言葉通りお祭りで、ぜんぶで70戦。『フェス』期間の2週間以内なら、いつでも好きな時に選択して、対戦可能だ。

 『フェス』は、このモード専用の、特殊なレーティングポイントが適用される。勝てば上昇し、負ければ低下。対戦相手も、このポイントによっておおまかに選出される。

 『フェス』終了後、そのポイントが一定以上であれば、滝岡の言った成績に応じた【称号】を獲得できる。原田も言ったように、単なる自己満足ではあるが、同時にプレイヤーにとっては、そういう肩書が、なにより大事であるのも事実だった。

 また勝敗に関わらず、試合を消化すれば、ゲーム内のアイテムやら、各キャラの3番目以降の有料スキンを購入できるコインも獲得できる。

 参加そのものは、プレイヤーにとっては基本的にメリットしかないので、熱心なLoAユーザーからは、毎回心待ちにされているイベントの1つだった。

 けれど、6度目にもなると、それなりに不満の声というか、マッチングした味方に対する不満の声なんかも目立ちはじめた。その一環として今回の『連盟戦』が決定された。「そんなに自分の腕前に自信があるんだったら、こっちに参戦して証明してみせろ」という、公式からの、一種の宣戦布告だった。

「前回の【KING】ボーダーって、どんぐらいだっけ?」
「確か、70戦のうち、63勝ぐらいだったかな。対戦相手によって、ポイントの変動値が決まるけど、本気で目指すなら、それぐらいが最低ラインだった気がする」
「70戦で、最低63勝とかどんだけー。個人戦ならまだしも、3対3の自動マッチ方式で、その勝率維持できんのはヤベーわ」
「まぁ、1回だけなら、それなりの上級者でもいけるかもしれないけど、5回連続で【KING】は、確かにヤバいよね」
「全世界の統計みても、1000人いないっつー話だっけ?」
「いないね。そのうち日本人は、3人だけだったかな」
「日本マジ弱すぎだわー」

 二人が話してるのを、それとなく聞き流しつつ、母さんの作ってくれた弁当を食べる。

 そしてその日の昼は、いつも通り、適当にだべりながら、LoAを一戦して終えた。

 その後も、いつも通りの流れだ。午後の授業を受けて、終わったら二人は部活に、俺はまっすぐ家に帰って、閉店まで家の手伝いをする。

 夕飯を食べ終えたら、学校の課題と明日の用意。そこまで勉強に真面目な方ではないから、予習はやらず、復習だけ。必要なものだけ記憶に留めておく。

 9時には風呂に入って、あとは寝るまでちょっとした自由時間を楽しむ。というのがいつもの流れだった。だけど今週に入ってからは、

「こんばんはー。いまお時間よろしいですかー?」
「よろしいですよ」

 ヘッドホンから、西木野さんの声が聞こえてくる。PCには、音声チャット用のディスコードを起動していて、そのグループには、俺と、西木野さん――スイと、

「よろしい」

 竜崎さん――ユキがいる。
 
「『フェス』いよいよ、明日からだねぇ。勝てるかなぁ」
「スイ次第」
「あー、ハイハイー。頑張りますよー。ランクどん底のわたくしめは、スーパープレイヤーの、お二方の御足を引っ張らないよう、せいぜい一生けんめい、頑張らせてもらいますよーだ」
「それじゃ、ラダーじゃない方の、フリーマッチの『3バ』いこうか。連携とか、戦略を再確認しつつ、本番でも勝てるように、合わせていこう」
「…ハヤト君。最近スルースキル上がってない?」
「二人の口喧嘩に合わせてたら、いくら時間あっても、足りないからな」
「生意気」

 ディスコード上での通信は、あの会社にいる時と同様に『芸名』を名乗る事にしていた。

「ログインするのは、今はサブアカの方でいいんだよね?」
「あぁ。竜崎さんからも、ちょっとした『サプライズ』として、当日まで秘密にしておけばって言われてるから」
「ハヤトの信者が、文句を言うかもしれない。アンチに回るかも」
「いいよ。一応、参加理由に関しての動画は録画したし、昔からハヤトに関しては好き勝手にやってるんだ。スイとユキのフォロワーに悪い影響がでないことには気を配るけど、オレ自身についてはどう転んでもいい」


 『もう一人のオレを心配する』のは、お門違いだ。

 アイツは言うだろう。不適に笑って。


 【 自由にやりたまえよ。 
   望むべき、尊厳と共にあれ。】


 心配の必要など、微塵もない。

 幾億もの夜が、圧縮しておとずれようとも。
 オレ自身が、その境となって立っている。

 痛みはもはや、この場に留まらない。

 stay foolish.


「――さぁ、いこうぜ」


 遠回りをしてでもいい。一見、まったく関係のない、そんな道のりに思えてもいい。いつか、来るべき未来を、可能性を信じて。今は『たかがゲーム』を始めようじゃないか。

 【ノーレーティング、フリー対戦モード】

「どんな相手がくるかなー。こっち3バだから、相手もきっと3バだよね」
「プロかも。相手もチームの連携とか、精度上げに、今夜はノーレート潜るはず」
「いやいや~、さすがにそんな運の悪いことはないよー」 
 


 【マッチングを開始します。――対戦相手が見つかりました】


 1秒とかからず、即マッチングした。
 相手メンバーの簡易情報が、おたがいに公開される。


【Team Red】

 You1:プラチナA+

(ROOK)Akane:ダイアモンドE+
 
 Sora☆:シルバーB


【Team Blue】

(KINGx5)xxXBuzzER-BEateRXxx:グランドマスター

(KINGx5)loli is justice:グランドマスター

 Fujiwara:ブロンズE


 ――以上のプレイヤーで、ゲームを開始します。

 キャラクター、BANピックモードに移行。


「……」
「……」
「……」

 俺たちは一瞬、沈黙を交わし合った。
 直後、ソラがぽつりと言った。


「が…ガチプロなのでは?」
「日本人で【KINGx5】の称号を持ってるのは、現在3人。そこの自惚れ男、ハヤトと、あとは”ロリ”と”ブザー”」
「ろ、ロリと、ブザー?」
「通称のようなもの。ロリの方は情報がない。けど、ブザーに関しては、本人が実況動画をあげてるから、探せばすぐでる」
「…ヤバいな」

 俺はつい、口にしてしまった。

「今度の『フェス』。このチームが最強かもしれねぇわ」