fox capture plan / Butterfly Effect


 家に帰ってからずっと、スマホを操作していた。

 女子のアドレスがある。グループ登録済み。そのローテーションを繰り返しているだけで、俺はなんだか人生の勝者に成り上がってしまった気がする。

「参ったぜ…俺もいよいよリア充の仲間入りかよ…悪いな、滝岡、原田。おまえらが部活が汗水たらしてる間に、女子のアドレスとかゲットしちまってよ…まいったぜ…」

 麻雀はじめたら、クラスの可愛い女子のアドレスがゲットできました。完全に宗教である。

 今の俺の姿を端から見たら「なんだコイツ…ウゼェな」って感じだろう。昨日の俺がこの場所にいたら、二階のこの部屋の窓から蹴り落としていてもおかしくない。

「…今なら西木野さんの言ってた意味がわかる…やっぱり麻雀は宇宙なんだよなぁ…」

 今なら入れる。頭から白い布を被った、見るからに怪しい秘密結社のメンバーが『トイツ教にあなたも入りませんか? 14次元の稗の先にある、我らが始祖《マスター》・ツチーダ・コーショウと共に、この世の真理を解き明かしましょう!』とか言われても、即座に「ロン!」と返せる自信が、アリ寄りのアリだ。

 一日ぐらいなら、俺の信奉するおっぱい教を脱退してもいい。主張なき扁平な大地の中に、あるかもしれない魂の息吹を求めてしまってもいい。
 
「しかも西木野さんの反応……アレは、勘違いするなという方が、無理だよな…?」
 
 彼女は確かに言った。俺と一度、話がしてみたかったと。
 もしも万が一、結婚なんてできてしまったら、これはもう披露宴の言葉は決まったと言っていい。

『麻雀という名の銀河鉄道が、
 この広くて孤独な宇宙の彼方より
 俺ら二人を照らしだし、めぐり合わせ、
 お導きくださったのです』

「っ、マジかよ!! ワンチャン……あるのでは!?」

 自室で自問自答する。俺の妄想は止まらない。あとはもう寝て、明日に備えるだけなのだが、俺は机に座り、ひたすらポチポチ続けていた。

「おやすみ、とか一言ぐらい送っても、いや、それは冷静に考えてキモいか。いやしかし…っ! いや落ち着け! まずは約束を取り付けてからという話だったろう!! それが無難!! だがしかしッ!! うああ、ああああああああ!!! 俺はここから何を切るべきなんだ麻雀むずかしいいいいいいぃっっ!!!!」

「祐一、なにやってるの、うるさいわよ!」
「すみません! お母さん!!」

 廊下の先から、母に怒られた。スマホの時計を見れば「22時」を過ぎている。さすがに自重して声を潜めていると、

「……っ! マジか!!」

 グループラインに新着メッセージが届いたランプが点灯した。

 ――光速。次の瞬間の俺の動作を例えるならば、そう。

 まさに、光の

滝岡
「ういーす、まだ起きてっか?」

祐一
「紛らわしいんだよヤロウ!!!!!!」

滝岡
「なんだよー。ちょいさー、LoAのバーストやろうぜ。また野良でやったら☆とけてよー」

祐一
「披露宴には友人代表で呼んでやるから、今日は帰れ」

滝岡
(ちょっと意味が分からないよ)

祐一
「謎の獣のスタンプで煽ってんなよ。2戦までな。それで寝る」

滝岡
(サンキュ♪ 愛してる)

祐一
(それ以上、俺を怒らせない方がいい)


 俺はスマホをタップして『LoA』にログインする。


【レジェンドオブアリーナの世界へようこそ!!】


【運営よりおしらせ】
 プレイヤーの皆さま、こんばんは。
 レジェンドオブアリーナ、アジアサーバー運営チームです
 10月1日より、いよいよ第6回目となる
 『グランドバトル・フェスティバル』が開始!
 レーティングがリセットされ
 前回成績にちなんだ順位からの再スタートとなります。
 また今回は、パーティ固定制限の『連盟戦』が



祐一
「タキ、ディスコード入れるか?」

滝岡
「あー、入れた方がいい?」

祐一
「俺はどっちでもいい」

滝岡
「じゃ、ナシで。オカンに見つかったらまた小言言われる」

祐一
「確かに。つーか俺もだわ。さっき叫んでて怒られた」

滝岡
「なんじゃそりゃ(笑)とりあえず入るぞー」


【パーティが結成されました】

 You1 ランク:プラチナA+
 TAKI ランク:プラチナC-

祐一
「@1どうする?」

滝岡
「野良でいいんでね。ランク近いフレ、マッチ済みだわ」

祐一
「おk 待ち、なんか、俺のアドレス履歴からフレ申請きた」

滝岡
「アドレス履歴ってなんだっけ?」

祐一
「ラインのグループとか、メルアドのサービス登録から読み込んで、おたがい同じゲームアカウント登録してたら、ゲーム内でもフレ申請おくれたりするやつ。パーティ加入申請きた。どうする?」

滝岡
「ええんでね。ランク会って組めるなら誰でも」

祐一
「じゃあ送るわ」


【パーティが結成されました】

 You1 ランク:プラチナA+
 TAKI ランク:プラチナC-
 【QUEEN】Clock_Snow ランク:ダイヤモンドB


滝岡
「ダイヤか! つえーな! 勝ったわこれ」

祐一
「前回フェスの称号もついてるな。タキ、いったん、ゲームの方のチャットに切り替えるわ」

滝岡
「りょ」


You1:よろしく。とりあえず1戦か2戦で落ちる予定です。

Clock_Snow:ディスコードの番号教えて。ボイチャしたい。

TAKI:もう夜は遅いから、ディスコは無しで

Clock_Snow:は?なに、勝つきなし?

TAKI:いやそんなことないし。ただ俺ら学生で親いるんす。声だしてゲームしてたら、親がうるせーんで。

Clock_Snow:しっている。

You1:…あの、もしかして、西〇〇さん?

Clock_Snow:ちがう。パートナー。

TAKI:パートナー?結婚してる相手?

Clock_Snow:語る必要はない。黙秘権を要請する。

Clock_Snow:わたしが、おまえたちを、ためす。

Clock_Snow:ランク的に役に立つとは、思えないけど。

Clock_Snow:ボイチャの連携もなし。

Clock_Snow:あきれる。

Clock_Snow:スター2個なら、まぁ…今回は野良犬に噛まれたと思って、あきらめてやる。よかったね。



滝岡
(わけがわからないよ)

滝岡
「おい、祐一。なんかヘンな奴がきたじゃん。ラインのグループアドから要請してきたなら、お前のリア友かその知り合いだろ。誰だよ。うちの学校の奴なんか?」

祐一
「あー、その、実は今日ちょっと、クラスの人と、ラインのグループ作って、追加も公開もアリアリで入ってさ、たぶん、その人の知り合いか友達だと思う…んだけど」

滝岡
「マジかよ。大元はうちのクラスの奴かよ。コイツがこんな感じなら、元もKY確定じゃん、誰と交換したんだよ」

祐一
「あー、一応…それはちょっと…悪い。貸し2でいいから、今日のとこは聞かずに合わせてくれ」

滝岡
「1個でいいぞ。週明けに牛乳おごれよ」

祐一
(感謝いたす)

滝岡
(いいってことよ)


Clock_Snow:おい、反応して

You1:わるい。お待たせ。オレら足引っ張ったらごめん。

TAKI:よっしゃー、いくぜー!

Clock_Snow:アタッカーはわたしが取る。それが一番マシ。

TAKI:はいはい。んじゃ、メイジ系統やるわ

You1:サポートは任せな。ヒーラー系いくかな。

Clock_Snow:じゃ、レート戦、マッチングボタン押すよ。

TAKI:オーケイ

You1:いつでもb


【マッチングしています――――対戦相手を検索中..】

【対戦相手が見つかりました!】

TEAM:RED

 You1 ランク:プラチナA+
 TAKI ランク:プラチナC-
【QUEEN】Clock_Snow ランク:ダイヤモンドB

VS

TEAM:BLUE

 【QUEEN】Ex.potemayo ランク:ダイヤモンドB-
 【ROOK】Ex.lovemetend ランク:ダイヤモンドE
 【ROOK】Ex.Kaizaaaaaa ランク:ダイヤモンドE


 キャラクター・バンピックモードに移行。
 
 REDチームの先行です。
 相手チームの使用禁止キャラクターを投票してください。

* * *

「クソマッチ。クソゲー。負け」

 マッチングの時点で、スマホの本体を投げた。ベッドの枕元にぽさっと落ちる。バンピックも無視。ごろごろ転がる。

「味方ザコー。敵はこれ、絶対にディスコで連携アリアリの、同ギルドなんですけどー」

 固定チームの『3バ』でマッチングすると、相手も『3バ』のチームが優先してあたる。ただその場合、やっぱり『野良』よりも絶対数が少ないので、実力差のついたプレイヤー同士があたりやすくなる。

「いや無理。さよなら、わたしのスター」

 ため息がこぼれる。この時点でもうキレそう。ベッドの海を泳いで、スマホを手に取る。バンピックは、わたしの無効票を除き、二人が選定したヒーローが【使用禁止】に選ばれた。


 BLUEチームのターンです。
 相手チームの使用禁止キャラクターを投票後。
 自チームのキャラクターを1体取得してください。


 相手チームも同様に、現在のバージョンでOP(オーバーパワー)と呼ばれるヒーローを選び、使用できないように選択する。


 REDチームのターンです。
 相手チームの使用禁止キャラクターを投票後。
 自チームのキャラクターを1体取得してください。

 残り有効時間45秒……。

You1:ひとつ、いいかな。
TAKI:おう、どした?
You1:クロックさん、やる気ないよね。

「…………」

You1:ゲームでケンカしても、なんも良い事ないけど、選択無視したのは、そっちが先だからね。俺も好きなヒーロー取るよ。
Clock_Snow:好きにしろ。わたしも取るのは変わらない。
You1:なに取る?
Clock_Snow:シャナ
You1:焔剣ね。じゃあオレは、リンディスかな。
TAKI:ガン攻めやな(笑)しゃーねー、俺サポいくわ。
You1:わるいなー。


 リンディス。一撃必殺の剣士ヒーロータイプだ。当にごく一部からは「OPキャラ」と呼ばれることもあるにはあるけれど、物理、魔法防御力が共に最低クラス、一撃必殺のスキルはあっても、攻撃範囲がめちゃくちゃ狭く、おまけに対処法さえ知っていれば、そこまで脅威にならない。

 プレイヤースキルを相当に要求するのに、上級者同士の対決だと環境にも刺さってないせいで、使用率が低い。せいぜい、通用するのは中級者の、プラチナランクまでだ。

「死ね。勘違いヤロー。嫌味が言いたいだけで、剣士タイプのキャラ、わたしと被せてきやがった。編成もタンク無しだし、集団戦勝てねーじゃん。はいカスー。はいクソ―。オーワータ―」

 枕クッションにぐりぐり、顔をおしつける。このゲームが終わったら、そらに文句を言ってやる。

 これ以上、暴挙を続けるようなら、ユニット解散だ。

「もう、アンタとはやっとられへんわー。そもそもー、あたしは『自由』にやりたいことやりたくてー。アイドルなんかーやるきなかったんですー。ストレスマッハなんでぇ、解散ですー、解散ですぅ~。ユニット解散なんですぅぅ~」

 真夜中に、家にひとり。
 独り言を続ける。

「……ユニット解散しても、友達ではいてくれるかなぁ……」

 もう、会えなくなったらどうしよう。

 これから先、またわたしは一人に戻る。

 一人は平気。平気だった。

 きっとこの辛さも、苦しさも、一時しのぎだ。

 どうせ、すぐに忘れる。

 今日の世界は、娯楽に満ちている。

 『生身の対戦相手』が必要なんて考え方は。

 とっくに、時代遅れだよ。

 そのうち『生身』か『CPU』か

 区別なんて、着かなくなるよ。

 すぐにね。